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エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で下剋上を起こして頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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楽しき日々

 実を言えば、グワラニーにとってこの領地経営の期間は楽しいひと時であった。


 元々は文官。

 その前は官僚。

 つまり、戦争などには無縁の存在。


 さらにいえば、この世界にやってくる前の彼は「住みやすい都市」をつくることを目指していた。

 もちろん、一からつくることが望ましいわけなのだが、さすがにそれが叶うはずもなく、改良という形で進めるしかなかった。

 それも多くのステークホルダーによって陳腐なものに改変させられる。

 大いなる挫折だった。


 だが、異世界にやってきたところでその夢は実現することになった。


 グワラニーは一時的ではあるものの、戦いに身を投じていることを忘れ、地図に線を引く。


 そこで示されたのは、堀や城壁などと言った防御構造など皆無の都市。

 そして、そこで特に強調したのは、幅広道路と舗装。

 その下には地下道。

 さらにその下には下水道を整備する。

 それに続くのは街燈の設置。


 むろん、それらはすべてこの世界にある技術で可能なことが前提である。


 無からの出発。

 そして、掣肘なし。

 そこに潤沢な資金。

 さらに魔法によって巨石の運搬も可能。


 グワラニーにとってはすべての条件が揃ったというわけである。


 ちなみにこの世界での主要輸送手段は川船であり、多くの英雄譚で登場する馬車は船が使用できない場所や短距離での輸送に用途が限られる。


 だから、片道四車線の舗装道路など不要。


 だが、それには「現在は」という言葉が付く。


 そして、その必要が出た時には動かしがたい既成事実が出来上がっている。


「だから、新しくつくる町は将来のために投資をする必要があるのだ」


「まあ、舗装道路についてはすぐに効果が出るだろうし、道の広さも使い始めれば実感することだろう」


 グワラニーはそう言って笑った。


 そう。

 この世界の道路は舗装されていない。

 それは主要街道でも変わらない。

 そして、王都の主要部を除けば、その状況は大きな町でも同じ。

 つまり、雨が降ればそこは泥沼となる。

 そして、そうなった場合、馬車は徒歩以上に移動時間が必要になり、下手をすれば馬車自体を放棄しなくてはいけない。

 そして、多くの道はほぼ一車線。

 ひとつのトラブルでとんでもない渋滞を引き起こす。


 この状況は各国の為政者も承知のことなのだが、誰もそれに手をつけなかったのには理由がある。


 むろん、それは転移魔法の存在である。


 軍をはじめほぼすべての公的機関の移動は転移魔法を利用する。

 そうなればその陸路を使用するのは商人や旅人。

 民需だけのために莫大な資金が必要な道路の舗装や拡幅などおこなわない。


 この世界と言わず、為政者とはこのような生き物。


 おそらくグワラニーもベースに何もなければ、他の為政者と変わらぬ道を進んだことだろう。

 だが、実際には彼の中には理想の都市というものが存在する。

 さらに、一度出来上がった都市に付加価値を付ける大変さも知っている。


 多くの反対意見を蹴り飛ばし、グワラニーの領内にはその南北を縦断するこの世界最大幅の舗装道路が誕生する。


 そして、その特大の建設事業の軍資金は言うまでもなく例の一件で手に入れたノルディア金貨となるわけなのだが、これについて少しだけ説明を加えることにする。


 これまで魔族の国では人間の国の通貨が流通していなかった。


 グワラニーもノルディアから金貨をせしめた時点では自国内で使用することは想定しておらず、溶かし材料に戻すか、大海賊ワイバーンに買い取らせることを想定していた。

 だが、それとは別の案が財務担当の軍官代表であるエソゥアルド・ジャウジンドとアウミール・トハードから提出される。


 この世界の商業を支配する商人国家の交換レートを参考にしてノルディア金貨を自国通貨の十分の一で使用できるようにすれば、面倒な手続きがすべて省き手に入れた通貨がすぐさま使用できるというものだった。


「たしかに私の領地内限定としておけば、問題は起きない」


「ついでに両替所でも用意すれば先々便利になるかもしれない」


「それと……」


「非公式ではあるものの、せっかくノルディアと休戦したのだ。交易所をつくって取引もしてみるか。金貨を取り返したくてたまらない奴らはどんどん売りにくるだろう。そこから情報も手に入れられる」


 そして、最後についでのようにつけ加えられた交易所が後々多くの場面で登場する重要な場所となるのだが、その最初の出来事は交易所が開設されてそれほど経たぬところで発生する。



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