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エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で下剋上を起こして頂点を目指す  作者: 田丸 彬禰


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引き出した言葉

 ようやくグワラニーの言葉の全貌を理解した将軍たちの多くが沈黙するなか、ひとりの大男立ち上がる。


 軍副司令官アパリシード・コンシリア。


「では、このままノルディアを放置しておくのか?」

「中身はともかく表面上はそうなります」

「大丈夫なのか?」

「副司令官の言う大丈夫という意味がわかりませんので、これについて説明します。まずノルディアを現体制のまま存続させる理由はあくまで我々の利益。具体的にはブリターニャに対する盾として使うためです」


「ご存じのようにノルディアとブリターニャは長い国境によって接しており、大海賊ワイバーンからの情報によれば国境問題もありお互い相手に対して良い感情を持っているとは言い難い。特に領土の一部、しかも南部の肥沃な土地という彼らにとって非常に重要な場所をブリターニャに奪われる形となっているノルディア人は。ですから、ブリターニャが無断でノルディア領に入れば当然激しい抵抗を受けることでしょう」


「そして、こちらはより重要なのですが、もともと人間たちが結んだ今回の連合は多くの問題を棚上げにして一時的に協定を結んで出来上がったもの。ブリターニャが突如ノルディア領に侵攻したという話が各国に伝われば疑心暗鬼に囚われ同盟は崩壊しかねない。それは今回の連合軍の提唱者で盟主でもあるブリターニャにとって望ましいものではない」


「結局ノルディアが我々の側について自国領へ侵攻するという確定的な証拠が出ないかぎりブリターニャはノルディアには手が出せない。つまり、現状を維持すればノルディア領を通過してブリターニャが北方からやってくることは想定しなくて済むことになります。すなわち我が軍は最低限度の守備兵を残し、第二陣として配置している予備兵を安心して他の方面へ向けることができるわけです」

「おまえが言いたいことはわかった」


 グワラニーの長い説明の言葉にコンシリアはそう応じる。


「だが、ブリターニャ軍が自国領を通過することをノルディアが許可し、北方からブリターニャが攻めてきたらどうする?」

「まあ、両者に横たわるこれまでの確執を見ればそれは考えにくいのですが、万が一、そのようなことが起こったその場合は……」


 そこで一度言葉を切ったグワラニーは黒味を帯びた笑みを浮かべる。


「ブリターニャも魔術師不足は我が軍と変わらぬ状況ですので魔術師を大軍の移動手段として利用するなど叶わぬ夢。当然我が国にやってくるのも補給物資を前線に届けるのもすべて陸路によるものとなります」


「ということで、極北の地の凍りついた悪路を使って補給をおこなう場合に陥る様々な問題をブリターニャにはタップリと味わってもらう。ということになります」


「あの経路を使っての移動や補給をおこなうことの難しさは捕虜となっていたノルディア兵たちの証言からもあきらか。ブリターニャが攻めてくるというのなら、まず彼らをすべて我が領土にまで招き入れ、その後我々は防御に徹しながら徹底的に補給を断つ。たったそれだけで大軍を殲滅できます」


「もちろん温情でおこなった約束を反故にしたノルディアに対する報復もおこないます。私ならこの世界で一番美しい町として名高い古都ロフォーテンを徹底的に破壊します。占拠はできなくても破壊ということならある程度の魔術師がいれば十分に可能ですから」


 悔しいが完璧だ。


 将軍たちは下を向き敗北感を漂わせる。

 その雰囲気に抗うようにコンシリアはさらに言葉を加える。


「貴様は今回の件を口約束程度の軽いもののように表現した。であれば、それは当然ノルディアにとっても同じこと。ブリターニャの手を借りることをよしとしなくても、ある程度戦えるだけの戦力が整えば再び攻めてくるのではないのか?」

「もちろんその可能性はゼロではないです。ですが、彼らの経済的窮状を考えればそれは考慮にも値しないくらいに小さいものでしょう」


「……なるほど」


 実はグワラニーからこの言葉を引き出したかったコンシリアはあっさりとやってきたその言葉にニヤリと笑う。


「グラワニーよ。陛下の前でそこまで言い切ったのだ。貴様にはそれが本当かどうかを示す義務がある」


「ですから、それは……」

「あくまで言葉の上だ。それほど安全な場所と言うのなら、貴様は住処を王都からクアムートに移してそれが正しいことを示せ。もちろん移り住むのは貴様だけではない。貴様の部下全部、それから貴様と部下の家族もすべてだ。それだけ自信満々に言ったのだ。嫌だとは言わせないぞ」


「もしかして、それは命令ですか?」

「当然だ」


 さすがにこれはない。


 その場にいる者全員が顔を顰める。

 副司令官の職にある者とはいえ、その地を守備するわけではない者、それだけはなくその家族にまでそこに住むことを命じるのはどう考えてもあきらかに権限を逸脱した行為。

 たとえその相手が忌々しいグワラニーであっても。


 断る権利は奴にはある。

 当然拒否する。


 誰もがそう思った。


 だが……。


「……承知しました。私に関係する者すべてクアムートへ移住せよという副司令官からの命令。命令である以上、このグワラニー、謹んで受けさせていただきます」


 グワラニーはそう答えた。

 口惜しさに満ちた表情で。


 だが、コンシリアの言葉こそグワラニーが待ち望んでいたもの。


 ……ガスリンかコンシリア。

 ……いずれこのどちらかがその言葉を口にするように誘引していたのだが、引っかかったコンシリアだったか。


 ……先ほどの煽り文句で頭に血が上ったままになっていたようだな。


 ……少しでも冷静に考えればその言葉は禁句であることに気づく。脳筋の代表であるこいつらでも通常の状態であれば絶対に口にしない。

 ……その言葉を引き出すのにまだまだ仕掛けが必要だと思っていたのだが、これだけ簡単に出てくるとはありがたいことだ。


 ……では、いくか。


「副司令官。ですが、条件があります」


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