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文書 No.015 民俗調査記録(大正期) 千葉県下における埋没集落の伝承(二)

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【文書 No.015】 民俗調査記録(大正期) 千葉県下における埋没集落の伝承(二)

文書種別:D/廣澤文彦 民俗調査記録(大正期)

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  『千葉県下における埋没集落の伝承』

      大正十一年九月 廣澤 文彦 稿



   第三章 骸ケ谷の民俗について(続稿)



         (前稿に引き続き、同年八月の踏査および

          追加聴取の記録を整理したものである。)


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(五)爪の奉納について


前稿に記した老婆を再訪したのは八月の末であった。

彼女は前回と同じ縁側に座っており、

筆者の来訪を予期していたかのように振る舞った。


「前に訊き忘れたことを訊きに来た」と告げると、

老婆は即座に「爪のことでしょう」と答えた。

筆者がいかなる質問を予定していたかを話していなかったにもかかわらず。


彼女の口述によれば、爪の奉納には厳格な規則があるという。


 「必ず左手の薬指でなければならない。

  石の刃で、根元から抜く。

  痛みを声に出してはならない。

  声を出した者の名前は、土には届かない。


  抜いた爪を谷の底の土に埋めると、

  土はその者の名前と、その者がいつ土に還るかを覚える。

  土が覚えた情報は、爪の裏側に刻まれる。

  刻まれた情報は、石のように硬くなる。


  百二十四の名前が揃ったとき、地は満ちる。

  満ちた地は、百二十五枚目を待つ。

  百二十五枚目は、自ら望んで来る者の爪だ。

  その者は土を読もうとして、土に読まれる。」


筆者が「百二十五枚目はどこから来るのか」と問うと、

老婆はこう答えた。


 「“それ”が届いたところから。

  骸ケ谷は“それ”でできている。

  “それ”を読んだ者が、“それ”の続きになる。」


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(六)伏倒土神について


「逆さまに歩む神」については、前稿の口述に補足がある。


老婆によれば、伏倒土神は地の底に頭を向けて立っている神であり、

その足は地表を踏んでいない。

天を足下と呼び、地の芯を頭上と呼ぶ。


この神が目覚めるのは、地の記録が完結したときである。

完結とは、百二十五の名前がすべて土に収まることを意味する。


「神が目覚めると何が起きるのか」という問いに、

老婆は長く沈黙した後、こう言った。


 「目覚めるのではない。

  ずっと目覚めている。

  我々が気づいていないだけだ。

  記録が揃ったとき、我々が神の視界に入る。」


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(七)踏査の結果


同月、筆者は再度、骸ケ谷の所在を探索した。

老婆から「谷は南東の傾斜面の奥、保安林の切れ目の先にある」との

追加情報を得ていたが、当該方向を探索しても谷地形は見出せなかった。


踏査の途上、筆者は奇妙な感覚を経験した。

南東方向へ歩き続けているつもりが、気づくと出発点に戻っている、

という事象が二度繰り返された。

体力的な問題ではなく、方位感覚そのものに異常が生じているような感覚であった。

磁石を確認したが、示す方向が出発前と異なっていた。


本稿に記録として留置する。


            大正十一年九月 記


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    補記 昭和三年


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前記の老婆については、その後の所在を確認できなかった。

近隣への聞き込みの結果、当該人物の存在を知る者はなく、

筆者が訪問した家屋の所有者も別人であることが判明した。


骸ケ谷については引き続き調査を継続する予定であったが、

本稿を以て記録を閉じる。


“それ”が届いた者が、“それ”の続きになる。


            (署名なし)


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