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文書 No.016 報告書本文 第四章(二)角質片(N-001〜N-124)微細構造解析

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【文書 No.016】 報告書本文 第四章(二)角質片(N-001〜N-124)微細構造解析

文書種別:A/報告書本文

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(2)角質片(N-001〜N-124)微細構造解析


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a.分析の概要


SK-07(土坑)から出土した角質片(N-001〜N-124)について、

千葉県特別埋蔵文化財調査室内において

走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた微細構造解析を実施した。

あわせて赤外線分光分析による表面成分の確認を行った。


通常の有機質遺物の分析では表面の形態観察を主目的とするが、

本分析は各検体の裏面(爪床と接していた部位)に確認された

微細な構造の記録を目的として実施したものである。


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b.分析結果


(一)裏面における微細刻印の検出


各検体の裏面(爪床密着部)を倍率500〜2000倍で観察したところ、

肉眼では判別不能な微細な刻印が認められた。


刻印は自然発生的な模様ではなく、尖状具を用いて人為的に刻まれた

文字様の構造体であると判定した。

赤外線分光分析の結果、刻印の溝内に水銀朱(HgS)が浸透していることを確認した。


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(二)刻印内容の分類


刻印内容を赤外線分光分析の結果に基づき分類すると以下の通りである。


N-001〜N-110

 過去数世紀にわたり骸ケ谷の観測に従事したと推定される者の

 姓名および「入土日」と解釈される日付が記録されている。

 判読可能なものについては第5表(抜粋)に整理した。

 最も古い日付は文明年間(15世紀後半)に相当する表記を含む。

 最も新しい日付はN-110において「明治三十九年」と判読された。


 【第5表(抜粋):N-001〜N-010刻印内容】


 登録番号  姓名(判読)   没年月日(刻印)

 N-001   (判読不能)   文明十三年某月某日

 N-002   (判読不能)   文明十三年某月某日

 N-003   (判読不能)   文亀二年三月

 N-004   (判読不能)   (日付判読不能)

 N-005   (判読不能)   大永三年

 N-006   (判読不能)   (判読不能)

 N-007   (判読不能)   天文九年秋

 N-008   (判読不能)   (判読不能)

 N-009   (判読不能)   弘治元年

 N-010   (判読不能)   弘治元年


 N-001とN-002の没年月日が同一であること、

 N-009とN-010の没年月日が同一であることについては、

 複数名が同日に入土した可能性と

 刻印の誤複写の可能性の双方を検討中である。


 N-110(最終・明治期)からN-111(本調査関係者)までの

 空白期間は約118年である。

 この118年間に新規登録がなかった理由は不明である。


N-111〜N-123

 本報告書の調査・編集組織(付録B参照)に名を連ねる構成員の

 姓名が記録されている。

 特筆すべきは、これら13点の全検体において、

 姓名に続いて記録された日付が

 「本報告書の刊行予定日(令和6年3月25日)」よりも

 未来の日付として刻印されている点である。

 日付の具体的な内容については付録L(封緘保管)に収録した。


N-124

 「廣澤文彦」の姓名および「大正十一年九月」の日付が記録されている。


N-125

 本分析の対象外。

 本遺構の堆積密度および計数の変遷(第2表参照)に基づく

 理論的な必要数との対比については、結語を参照すること。


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(三)記録媒体としての角質組織の所見


各検体の層構造を分析した結果、角質組織の内部に

水銀朱および脂肪質成分が周期的に浸透していることが確認された。


この浸透パターンは、外部から塗布されたものではなく、

組織の成長過程において内側から形成されたことを示唆する。

すなわち、刻印は爪が体に付着していた時点から

すでに形成されていた可能性がある。


爪が生体に付着した状態で情報が刻まれる機序については、

現時点での解釈を保留する。


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(四)刻字技術の年代的不整合について(補注)


N-001〜N-010の刻印は、SEM観察において

線幅0.04〜0.06ミリメートルの精密な彫刻として認められる。

当該幅の刻字を再現するには、現代の精密加工機器

(マイクロエングレービング装置・レーザー彫刻機等)を

要するのが通常である。


これらの検体に対応する刻印年代(文明〜大永:15世紀後半〜16世紀前半)において、

このような精密刻字を実現する技術は、

現時点の考古学的知見において確認されていない。

同時代の金工技術における最小刻字幅は0.3ミリメートル前後であり、

本資料の刻字はそれを一桁下回る。


加えて、刻字に使用された朱(HgS)の純度を

N-001・N-050・N-100の三検体について比較したところ、

各時代に対応する典型的な朱の純度(鉱物資源としての変動)と

一致しない値を示した。

すべての検体において、

現代の精製朱に近い高純度の値が確認された。


刻字技術および朱の純度の双方が、

記録された年代と整合しない。

これらの所見は、刻印が当該年代に施されたとする前提そのものを

保留すべきことを示唆するが、

代替の解釈モデルを当調査室は提示できない。


本所見は、N-111〜N-123に記録された

「未来の日付」の問題と並んで、

本資料の年代的整合性が

通常の編年解釈の枠組みを超えていることを示している。


刻印の生成機序については本書では推定を保留する。


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c.考察


本分析の結果は、SK-07の形成が単一の時期における

単一の行為によるものではなく、数世紀にわたる継続的な行為の

集積であることを示唆する。


N-111〜N-123の刻印日付が本報告書の刊行予定日より

未来であることについては、以下の二点を記録しておく。


第一に、刻印の形成時期は本調査の実施時点(令和5年)以前である。

第二に、刻印された日付が「刊行予定日より未来」であるということは、

日付の内容が現時点で確定した事実を示すものではない。


これらの所見の解釈は、本報告書の性格上、

当調査室の判断の範囲を超えるものと考えられる。

記録として明示するにとどめ、評価は付さない。


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