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完璧なる悪役令嬢の箱庭 〜泥棒猫には地獄の引導を 〜  作者: tky
第一章:王立アカデミー入学と「泥棒猫」の排除

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8/30

第八話:蜘蛛の糸と愚者たちの舞踏曲

明日も21時に更新します

「……ふふ、あははははっ」


アルフレート殿下が自室へ戻られた後。


静寂を取り戻した私室で、私はもう耐えきれないとばかりに、扇で口元を隠して優雅な笑い声をこぼした。


私の胸元には、先ほど殿下が誓いの口づけを落とした手の甲の感触が、まだ微かに残っている。


「……完璧ですわ。ええ、あまりにも完璧すぎて、反吐が出そうなほどに」


私はソファーに深く沈み込み、満足げに溜息を吐いた。


アルフレート殿下は、完全に私という蜘蛛の巣に絡め取られた。


クロエ・バリントンという「無知な凶器」の恐ろしさを目の当たりにしたことで、彼は政治という現実への恐怖を抱き、私という「絶対的な正解」にすがるしかなくなったのだ。


彼はもう、私の言葉を疑わない。


私が白と言えば白となり、黒と言えば黒となる。


次期国王の首輪は、完全にこのラ・マルク公爵令嬢の手の中に収まったのである。


「お嬢様。おめでとうございます。これで、殿下の御心は完全に公爵家のものとなりましたね」


影から現れたマリーが、恭しく頭を下げる。


「ええ、ご苦労だったわね、マリー。……ですが、これはまだ第一段階に過ぎませんわ。盤上のゴミは、綺麗に片付けなければ美しくありませんもの」


私は立ち上がり、壁にかけられた王都の巨大な地図を見つめた。


「ダラス伯爵家の動きはどうなっていますか?」


「はい。お嬢様のご推察通り、ジュリアン・ダラスはバリントン男爵令嬢を利用し、来週開催される『新緑の夜会』にて、決定的な罠を仕掛けるつもりです」


マリーの報告に、私は冷たい笑みを浮かべた。


「新緑の夜会」。


王立アカデミーが主催する、新入生を正式に社交界へと迎え入れるための重要な舞踏会だ。


「具体的には?」


「ジュリアンは、バリントン令嬢に『夜会の最中、中庭の東屋で殿下と二人きりで会えるように手配した』と伝えているようです。しかし実際には、そこに殿下ではなく、反王太子派の息がかかった新聞記者や、他派閥の貴族たちを配置する計画です」


「なるほど。男爵令嬢が、夜の庭園で王太子といかがわしい密会をする為に待っていた……という醜聞を捏造するつもりですのね。そして、それを殿下の『放蕩』の証拠として世間にばら撒く、と」


実に陳腐で、下品な策略だ。


しかし、クロエのあの無警戒な頭脳であれば、ジュリアンの言葉を信じ切って、喜んで東屋へ向かうだろう。


「お嬢様。すぐに学園の警備を強化し、バリントン令嬢を庭園に出さないよう手配いたしましょうか?」


「いいえ、マリー。それではダラス伯爵家の尻尾を掴むことができませんわ」


私は窓辺に立ち、夜の闇に沈む学園を見下ろした。


「彼らが毒を盛るのなら、わたくしは彼らに、その毒の入った杯を飲み干させてあげるだけですわ。……マリー、公爵家の『影』を総動員なさい」


私は振り返り、氷のような声で命令を下した。


「夜会の当日、中庭の東屋周辺を完全に包囲しなさい。そして、ジュリアンが配置する予定の記者や貴族たちを、事前に『処理』して、代わりに我が公爵家の息がかかった者たちとすり替えるのです」


「……御意に。罠そのものを、乗っ取るということですね」


「その通りです。そして、クロエ様が東屋で待ちぼうけを食っているところへ……ジュリアン・ダラス本人を誘い出しなさい。彼らがそこで密会しているという状況を、公爵家の証人たちの前で『完成』させるのです」


反王太子派の次男が、王太子に近づいていた男爵令嬢と、夜の庭園で密会していた。


それは、ダラス伯爵家が「王太子を陥れるために令嬢を誑かしていた」という決定的な証拠となる。


「ダラス伯爵家は、これで完全に政治の表舞台から失脚しますわ。……そして、クロエ様も」


私は扇の先で、自らの手のひらをなぞった。


「彼女は、自分が信じていた『優しい先輩』が、自分を破滅させるための悪魔だったと知ることになる。そして、大勢の貴族の前で恥を晒し、王家を危機に陥れた罪女として、未来永劫、社交界から追放される」


無知という罪は、己の身を滅ぼす炎となって、彼女自身を焼き尽くすだろう。


「お嬢様。殿下には、この件をどのようにお伝えになりますか?」


「殿下には、何一つ知らせる必要はありませんわ。殿下は、ただ温かいサロンで、わたくしの手を取って微笑んでいればよろしいのです。……血に塗れた泥仕事は、全てこの悪役令嬢が引き受けて差し上げますから」


私はクローゼットへと歩き出し、夜会で身に纏うドレスの選別を始めた。


漆黒のシルクか、それとも血のような真紅のベルベットか。


いずれにせよ、愚者たちの終わりの舞踏曲を彩るに相応しい、極上の装いが必要だ。


「さあ、泥棒猫。貴女のそのお花畑の頭蓋を、現実という名の鉄槌で叩き割って差し上げますわ。……せいぜい、華やかに散りなさいな」


月明かりに照らされた私の唇は、この世の誰よりも残酷に、そして美しく弧を描いていた。

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