未来シコウのチートデータガール 59
「わたしは今、とってもとってもがっかりしています」
咥え煙草で現れた百花は邂逅一番、そんな事を言った。
ここは百花が待ち合わせ場所に指定したホテルのロビーだ。そのロビーの中央、カウンター前。百花はポケットに手を突っ込んで、紙巻きたばこをピコピコと上下に震わせる。煙草の匂いがロビーに充満したら昨今煩いのではないだろうかとも思うのだが、静夜達以外の客は見かけないし、ホテルマンたちは此方に対して一瞥も向けてこない。接客面でも防犯面でもそれでいいのかと思わなくもないが、こっちに注目をしてほしくないと思っているし、百花が目の前にいるこの状況では、気をつけようが気をつけまいがあまり関係ない。外敵が襲ってきたら外敵と巻き込まれる静夜が不幸になるし、百花が暴れれば静夜を含めたホテルマンたちが不幸になるだけである。なるほど、考えてみると台風も隕石も、見守る以外に出来る事などないのだ。人は、無力である。
百花はいつもの携帯灰皿に灰を落とす。
「なんでぇ藪から棒に」
「ハジメさんと知り合っていたのに連絡くれないシズヤさんなんて知りません」
「戦うなよとは言われたが一報くれとは言われてねぇじゃねぇか」
「忠告したのだから教えてくれてもいいじゃないですか」
「悪かったよ。甘咲ぁ別に悪い奴だと思わなかったし、急ぎじゃねぇと思ってたんだ。きっとその内話をしたとぁ思うんだがよ」
「それに? 人間じゃない美幼女も侍らせていたとか? シキさんでしたっけ? どこです?」
「いやそりゃマジで関係ねぇだろ。あいつぁ俺のところじゃなくて知り合いの所だ」
「ああ言えばこう言いますね」
百花はぷりぷりと怒る。本当に怒っている訳ではなさそうだが、だからといって彼女の事をあまり無碍にすると本当に拗ねそうで困ったものだ。
「まいったな。いつになく不機嫌じゃねぇか。なにがそんなに気に食わねぇってんだい?」
シャンデリアの下には季節の装花が華々しく飾られている。つまり百花の真後ろで、それが百花がいる風景を引き立てる。
百花は名前の通りに花がよく似合う。不機嫌な彼女の後ろの花は、彼女の心模様如何に関わらず咲き誇る。百花の為に飾ったかのようで、百花の美しさを際立てているさまは、彼女の魔性は植物にすら有効なのではと疑う程である。
「言ってしまえばシズヤさんが既にハジメさんと仲良しなのが不満です。指一本触れられなかったのはシズヤさんの所為ですね?」
かつて剣豪共の戦いに巻き込まれた折に共闘した百花であるが、目付きの鋭さが事件の黒幕との最終決戦の時に見せたそれに匹敵している。たぶん、あの戦いは百花にとってはなんて事のない物だったのだろう。そうでなければあの日を彷彿とさせる目を、そんな台詞と共に静夜にいう訳がない。
それは兎も角、百花が怖くて言葉に詰まってしまう静夜だった。
「ああ? あん? いや、元の世界に想い人がいるからだろうよ。俺ぁ関係ねぇ筈だぜ?」
「……帰れそうですか?」
「さぁな、だが、ゼロじゃないだろ。交渉次第って所だな」
「……体を張りますね。彼等がわたし達の願いを叶えた事など一度もない筈ですよね?」
「ま、それなりに勝算はあるつもりだよ」
「なんでそんなに男前な事しておいて墜とした女の子を袖にし続けているんでしょうか……」
「口説いちゃいねぇよ?」
「下心のない善意は案外伝わる物のものですよ?」
「わりぃ事してるかね?」
「下心をもって接すれば良いんですよ」
「そういう話だったのかい? 誰でもいい訳じゃねぇんだよ」
「わたしはラッキーだったようでなによりです」
過去を掘り返す様な、少し鼻の下が伸びそうな、そんな会話。このまま会話をしてしまいたい誘惑は確かにあるのだが、今日ばかりは脇道に逸れている場合ではない。
「んで、その肝心の甘咲はどこでぇ?」
「上の階で待ってもらってます。あ、もちろんシズヤさんと会う約束をしたとは伝えました。すっごいどや顔で。そうしたら恥ずかしがって少し時間を空けたいとの事でした」
「恥ずかしい?」
「……ほら、シズヤさん顔だけは完全無欠ですから。何度見ても飽きないなんて、思い出してからファンになるなんて事もあるでしょう?」
「ヘンな事吹き込んだだろ?」
「さてどうでしたか? とりあえず、わたしと静夜さんで話をしたいと言ったらこんな結果になりました」
百花が静夜の顔を褒めるのはいつもの事だし、それに伴い嘘を吐くのもいつもの事だ。そして、意味のない嘘や悪意ある嘘を吐く事はあっても、害意ある嘘は吐かれた事がないので、ハジメが降りてこない理由は深く追求しなくてもいいだろう。
「上って、百花さんやっぱここに泊まってたんだな」
何となく豪奢なシャンデリアを見上げてしまう。
テレビ等でたまに見かけるこのホテルは、当初静夜がハジメに手配しようとしていたものの一つである。安全面から考えても、ここなら信頼できると候補に挙げていたのだが、言い負かされた結果取り下げられたのである。百花程の人物が泊まるなら、伝統と格式まで含めてなるほど納得だ。
「ええ、一昨日から一週間ほど貸し切りにしました。お陰でハジメさんも事のついでと言う体で招く事が出来たので遠慮もねじ伏せてあげれました。いい子ですね。自分の身の丈を必死に探っているところに好感をもてます」
「ああ……どおりでな」
「なんです?」
「静かだなと思ってたら納得の理由だよ」
「……ああ」
堂々と煙草を吸っていても文句が来ない理由はそこにあるのだろう。百花の経済力は把握していないが、いくらパーソナルスペースが広いといえ、貸し切りとは恐れ入る。百花だからこそ出来る権力の使い方である。
「わたしの愛人たちも連れてきましたから。シズヤさんも心当たりがあるでしょ? あまりほったらかすと八つ当たりされちゃうんです。八つ当たりはわたしへじゃなくて、どっかの誰かにですけど」
「確かに、かまってやらねぇと噛みつくこたぁあるな。俺自身に良く噛みつきやがる」
「可愛い物じゃないですか。他人に当たり散らす子は手が掛かるんですよ。わたしに当たってくれたら可愛がってあげるんですけど、うまく行かない物です」
妖艶に――本人はきっとそのつもりはないのだろうけれど、妖艶に微笑んで百花は腰に佩いた刀の柄を人差し指の腹でそっと撫でる。
そんなものだから口さがない者たちが百花への蔑称を囁くのだ。本人が楽しんでいるからと言って、聞いている静夜は楽しくない。
妙にコケティッシュな百花の仕草を振り切る様に、話を戻す。
「そんで甘咲の話しに戻すが、アイツぁ今、自分の状況解っているのかい?」
「いえ、私が知ったのも今朝です。そして彼女が起きたのは先ほどです。何も話してませんよ」
おっと?
一瞬静夜は反応を止めてしまった。これから彼女にそれを伝えなければならない。きっと百花はこれを静夜に任せようとしているのだ。
「昨夜は色々あり過ぎて彼女が寝るのはずいぶん遅くになってからだったんですよ。彼女はずいぶん遅くに目を覚ましました。今朝はだいぶ良くなっていましたが、昨夜はあまりに不安定でしたね。なので、そこに追い打ちをかけるのは、さすがに気が引けちゃいまして。伝えるならまずは良い情報をいくつか確定させてからが良いと、まぁ判断した次第です」
積み重なる言い訳をする百花。その説明を受けると、それもそうかと納得してしまう自分がいる。
「……そんなにひどい状況だったってかい?」
夜遅くまで起きていたというその言葉すら意味深である。眠れない程に憔悴したのかもしれないし、文字通り寝る間のないほどに、夜を彷徨い歩いたのかもしれない。
「ええ、どうやら。自責による自棄が言動に散見されました」
「あのホテルの件だよな?」
「ええ。彼女からおおよそのあらましは聞いてます。シズヤさんにもお話しするので、続きはラウンジの方で」
当然貸し切り状態のラウンジである。
正直に言って伽藍洞状態は落ち着かない。百花は当然の様な顔でくつろいでいるが、人がいるからこそ落ち着くという事もあるのだと、つくづく思う静夜である。
向かい合って百花から聞かされる内容には、表情が曇って仕方がない。つい一週間前まで戦闘どころか犯罪すら無縁な世界にいた少女が命を狙われるのも許しがたければ、彼女を狙い続けてわざわざ周りを巻き込み罪悪感を煽り立てる事も許せない。
「わたしが見つけた時はビルの上で。そこで彼女は現場を見下ろしていました。とっても視力が良いようで、あの様子だと全部、見えていたんでしょうね」
「そうか……」
きっと、無残な死体も見てしまったのだろう。
見せつける為の殺人が見事にはまった訳だ。
それにしても敵の行動は陰湿だ。
「なぁ、百花さんよ。つかぬ事を聞くがその鬱船カフクってなぁ、有名なのかい?」
「それほど有名ではない筈ですが、シズヤさんも聞いた事が?」
「俺も命狙われててな」
「鬱船にあったのですか?」
「いんや? 会ってねぇんだな、これが。間抜けがあっさり口を割ったんだよ。ヤバイ奴がいるって感じでな」
「ふむ? プロの殺し屋が口を割る……静夜さんまた笑えない脅しをかけましたね?」
「俺にはその自覚がねぇんだどな……いや、最近嘘を見抜ける奴とつるんでるんだ。そいつが、な?」
「それだけじゃないでしょうに」
あきれた視線に気まずく目をそらす。
「語られた人物像はどうです?」
「異世界人絶対殺すマンだとよ。とくに転移者を殺したいそうだ」
「そういう癖を持った殺し屋は一定数いますよ。理由はさっぱり解りませんが。鬱船に関しては、それ以外はなにか?」
「今ので全部だな。他の情報も含めて引き出しきる前に顔から上を吹き飛ばして死んじまったよ」
召喚魔法が静夜の指輪と反応して暴発した。その話を百花にする。
「ふむ……? ハジメさんが今回見舞われたものとは質が異なりますね……。そちらは、静夜さんを狙って命を捨てただけと判断するべきでしょう。なるほど……では結論。わたしは何度か鬱船という名前は聞いた事があります。殺し屋ですね。ただしそれだけです。どのような使い手なのか、人物像も聞いた事がなく、私自身は詳しくないです」
「結局鬱船で判ったこたぁやばい奴ってだけでおしまいになっちまいそうだな」
「いえ、この場合、このわたしですら知らなかった事が情報になりえます」
気軽な諦めをする静夜に対して百花は違った。
少ない情報から洞察していき、百花は何やら掴んだようである。
「鉄塔の倒壊やヘリコプターの墜落事故を起こす能力。派手な事故を起こすにも拘らず、その事実が広まっていない。ここから察するに、この鬱船という男は――」
そこで百花は小刀を抜刀した。抜く姿は捉えられなかった。解ったのは百花の目の前、テーブルの上に蜂の残骸が落ちたと言う事と、いつの間にか抜かれた掌の中の白銀が煌めいて振りかざされていたという事実だけである。
「――確度は高そうです。この鬱船という男は自身を強力な幸運に類するもので守り、他人を強烈な不幸に類するもので貶めています。この場合、鬱船カフクの幸運が、能力を察した人物を自動的に攻撃したと考えていいでしょう。偶然にも、あるいは必然的に、季節の花に蜂が潜んでいた。一流の華道家が弄繰り回した後だと言うのに、様々な要素が折り重なって今この瞬間にわたしを襲った訳です。わたしがつけてきた香水が蜂の攻撃性でも高めたのでしょうか? 過去改変がない事は祈りましょう。そして、わたしもハジメさんも無事だった事から解かる様に、この運、不運には限界があるのでしょう。例えば、絶対に起きない幸運や不運は起こせないとか、そんなものですね」
淡々と述べて百花は優雅に紅茶に口を付ける。
「そしてその性能も透けました。ハジメさんが泊まっていたホテルは倒壊させる事が出来たのにここは出来ていない。安いホテルなら建築が甘いかも知れないですが。しかし一泊十万のホテルが安普請な訳がない。起こりえない不運は起らない。では火災等が起きていない理由に考察は伸びます。現実として火災は起きていない。これは真です。ならば大がかりな不運にはおそらく、制限がある。昨日事故を起こしたから今日はもう起こせない。や、大規模な不運はそれだけ因果関係を整える必要がある。などです。そういう結論になるので……不愉快な能力と、倒しにくい特性ですけど、わたしとハジメさんに牙は届かない。そもそもこの虫けらの毒針が私に効くとも思えないですね」
「……相変わらずすげぇな」
何もできなかったし、反応も出来なく、ただ聞くだけだった静夜は間抜けな感想をただ漏らすだけだ。
「そんな凄いわたしに頼られるシズヤさんも十分凄いです。自信を持って。大丈夫。シズヤさんは頑張ってます。出来る子です」
「本当に思ってるかい?」
「さてはてどうでしょう?」
真実馬鹿にされている訳ではないのは解っている。売り言葉に買い言葉にも似たじゃれ合いだ。
と、そんなタイミングでスマートフォンのバイブレーション音が静夜のポケットから洩れてきた。それは収まる事なく連続して。
「出ても良いですよ?」
「いや? 着信じゃねぇよ」
「ああ、わたしの時と同じように未読スルーしちゃう感じなんですね?」
「一分一秒気が抜けねぇな……」
仕方なしにスマートフォンを取り出し、画面を一瞥。ID交換をしたばかりのルォシェンからのメッセージが、あっという間に十件以上増えていた。
「ズームォの野郎が焦れ始めたようだな」
「おや、女からじゃないんですか?」
「このタイミングでかい? まぁ女っちゃぁ女だが……色気ぁねぇな」
「女だったんですね……大体様子は理解したから、もう少し待たせましょう」
どうやら百花はまだ、二人で会話をする事を望んでいる様である。何か、思う所があるのだろうと静夜も付き合う事にする。
「鬱船の話ぁ分かったけどよ。なんで百花さんは甘咲を助けてやったんでぇ?」
「わたし、男も案外いける事を知ったんですけど、基本はそっちなので」
「……惚れたってかい?」
「もちろん冗談ですよ。そんな呆れた目で見られるとぞくぞくしちゃうじゃないですか。助けたと言うか、監視ですね。危険なら処分しろとのお達しです」
「……なるほど? 実はそうじゃねぇかって話は聞いていたよ」
「あら、面白くないですね。ファン家のドラ息子の入れ知恵ですか?」
「実際の所、百花さんと甘咲がやりあったらどうなるんだい?」
始末する事が出来てしまうのだろうか? ありえない未来の物語である事を願いつつも、人を外見で判断できない静夜は聞いてしまう。
「シンプルに殺し合うなら千回やって千回私が死ぬでしょうね、でもやりようはあります。気の進まない始末の方法なんて、シンプルじゃないに決まってるんですから」
淡々と述べて、淡々とケースから紙巻き煙草を引き抜いて、咥えて火を点けて。
勢いよく紫煙を吹いて、百花は特に表情を変えず。
「さぁ、情報共有はお終いです。総合するとシズヤさんは殺し屋共に命を狙わていて、中々大変そうでいっぱいいっぱい……彼女との関りを控えるつもりはありますか?」
「ねぇよ。まさかそんな事を聞くためにわざわざ一人でここに来たのかい?」
「まさか。そんな答えの分かっている事の為に手間暇は掛けないですよ。いっその事質問しなくてもいい位の話ですよ?」
このやり取りでは百花は少し笑みを見せたように見えた。
「なので、わたしが聞きたかったのはこちらが本命です」
一拍おいて、百花はいつも通りの表情で、いつも通りの視線で、いつも通りの声音で聞いてくる。
「万が一、彼女を殺さなければいけない事態になったら、わたしと彼女。シズヤさんはどちらにつきますか?」
その質問に静夜は息を呑まざるを得ない。
冷静な自分が打算しろという。百花の望む答えを考えて答えろと。自分の意に添わなくとも、今は、この場は、彼女の不興を買うのは間違いなく悪手である。
そして同時に思うのだ。百花の好む答えなど想像もつかないと。尻尾を振れば喜ぶのか、反目して喜ぶのか。短くなく、浅くない付き合いではあるが、女心は今もって全く分からない。ましてや愛凪百花の望む答えなど解かる訳がないのである。
なので、結局冷静でもなんでもない、気ままな自分に従う以外に道がない。
「いつも通りさ。納得いかなきゃやり合うまでよ」
「彼女が悪でも?」
「別に俺も百花さんも正義じゃねぇだろ?」
「それもそうですね」
もしかしたら、とんでもない殺気をぶつけられていたのかもしれない。
凡庸な静夜にはわからない。解った事と言えばさっきまで刀の柄を撫でていた指が、今はもうポケットにしまわれたというそれだけだった。
煙は漂い。百花の上に薄く層を描き、空調にかき乱されて消えていく。
「この話は結局、シズヤさんが殺人鬼だった場合、わたしはどうしますか? とか。昨日知り合った人は気が合うと思ったけれど、実は嫌な奴でした。だけど今後も仲良く付き合いますか? とか、そういう話ですからね。あまり意味がなさそうな質問でした。すみません」
はたして答えが正しかったどうかは判らない。百花は少し煙を見送って、静夜の視線に気が付いて顔を向けて表情を和らげる。
「なので、ハジメさんが危険人物じゃない事を祈っておいてくださいね」
「……そうだな」
百花の笑みは意味深であり、それはつまり、実はまだ警戒をといていないという示唆でもある。ただ、それを掘り下げるほどの事でもないという意味もあるような気がして、静夜も軽い返事で受け流す。
「それではファン家の放蕩息子をここに呼び入れてもいいですよ。わたしもハジメちゃんチャレンジをもう一度して来きますから」
「なにチャレンジだって?」
たぶん、聞き捨てならない事を云った。歩く催眠アプリみたいな彼女がいうと冗談が冗談に聞こえない。
「ハジメちゃんチャレンジです。彼女に抱き着こうとすると可愛い三匹のボディーガードが可愛らしく威嚇するのであまり近寄れないんです。なので、再度果敢に挑みたいなぁ……と」
猫モドキ共が百花をみつめている姿を想像する。百花の言に引っ張られてイメージがレッサーパンダの威嚇になってしまったが、そう遠くない気もする。
たぶん、やっぱり、聞き捨てて良さそうな気がしてきたので静夜は内心嘆息する。
「……ほどほどにしとけよ?」
「嫉妬ですか?」
「本当にそう思ったなら流石に驚くぜ」
「本気ですとも」
冗談めかした事を言って席を立った百花。
なんだよ、ハジメちゃんチャレンジって……。
頼むから冗談であってくれと、祈るような、間抜けすぎるような、そんな気持ちで百花の背中を見送って、静夜はスマートフォンを取り出す。
ズームォ本人に連絡を入れたいところであるが、実行すると美人秘書が冷たい目をするだろう。暴力には訴えないと信じたいが、辛辣な罵倒をされそうで避けたかった。あんな美人になら詰られたいなどと、そんな間抜けな事は言わないし、性癖も持ち合わせていない。静夜は世間の変態共とは違うのである。
そんな理由から、ルォシェンの仕事用の電話番号へコールをしようとしたところで、どういう訳か百花はすぐに戻ってきた。
「どうした?」
「どうやらハジメさん降りて来ていましたね。ほら、あそこ」
ラウンジの隅、小さな影でありながら、周りに人がいないものだからとにかく目立つ少女の姿があった。
「……なんだっけか、百花さんとか位に強くなると気配を隠すの上手くなるんじゃねぇのかい?」
「気配がしないのに姿が見えているんです。むしろ目立ちますよ」
致命的に可愛いですね。
姿を隠すには絶対的に向いていない細長い観葉植物の陰に隠れて、静夜と百花の事を盗み見ているハジメを評する百花。
思わず首肯するくらいには、今のハジメは面白可愛かった。




