アイアイガサ
「木坂くんっ、がんばれー」
真友は木坂のいるコートを見つめて、言った。
こんなところで1人で叫んでるのはおかしいかもしれないけど、真友はもうそんなのは気にしなかった。木坂の応援をしたかったから。
「・・・!」
木坂がこっちを見た。
真友は、パクパク口を動かした。
『が ん ば って ね』
木坂は顔を赤くすると、こう、返した。
『が ん ば る よ』
そして・・・試合は始まった。
木坂はチームのエースとして、ものすごくいっぱいシュートを決めた。何回決めたかは、真友は応援に夢中で数えるのを忘れていたけれど。
と、その時・・・
ポツ
「えっ?」
突然、雨が降り出したのだった。
『キャー!』『雨だー!』『中止になっちゃうの?』『えーっやだ!』
観客は騒いでいて、審判はいったん試合を中断した。
「このまま試合は続行します。みなさん、また応援よろしくお願いします」
アナウンスが聞こえて、みんなはほっとしたようになった。
でも・・・。
傘を持ってない真友は、どうしたらいいのだろうか。
会場前にいた客は全員、傘を持っていないから、帰ってしまっていた。
真友も、帰るしかないんだと思い、あきらめかけた時――――――・・・。
「真友先輩は見ててください」
声が聞こえて、急に雨が降りかからなくなった。
「・・・蓮、くん・・・?」
「真友先輩の恋と、木坂先輩の活躍を見に来ちゃいました」
「どうして、ここが・・・?」
「そりゃ、大きな声で木坂先輩のこと応援してる声が聞こえたから、分かっちゃいますよ」
「えっ、・・・そんな、大きな・・・声、・・・った?」
真友はしばらく会話をしてから、・・・自分がしているのが蓮との相合傘だと気が付いた。
「・・・蓮く・・・」
「・・・想像してた人との相合傘じゃなくて、ごめんなさい」
蓮はそう言って、そっぽを向いた。
「でも、真友先輩の役に立ちたくて。・・・てゆか、僕の勝手なわがままですけど。僕がしたかった、っていうのも・・・ないわけじゃないのかもしれません。でもっ、真友先輩の役に立ちたいってのは、ほんとの気持ちですから。だから、あのっ」
「分かってるよ。・・・って、つき・・・てるんだし」
真友は蓮に向かって、笑った。
「ありがとう」
ピピーっ
そして試合は、いつの間にか終わっていた。
「有岡ーーー!」
木坂の声が聞こえて、「じゃあ、僕はこれで」と蓮は帰って行った。
「俺、自分でも何回シュート決めたか、分かんなかったわ。あははは!」
「木坂くん・・・わ、私も。・・・応援に夢中で」
「・・・さんきゅ。・・・うっしゃ、ハンバーグ食べようぜ」
真友は、こくりとうなずいた。・・・それから、思い出したように言った。
「あれ、音葉からは・・・もらわな・・・ったの?」
「え、井上?・・・来てんの?」
木坂は「ま、いいよ」といった。
「俺が差し入れほしいの、有岡だから」
「・・・え」
真友が木坂を見ると、木坂は真っ赤な顔をして、ハンバーグをほおばっていた。「おいしい」って言いながら。
「・・・ありがとう」
真友は、同じく真っ赤な顔をして、そう言った。




