終話 門
百三十七日目、便でミラの返事が着いた。
――決に同意します。私の割当も三日にしてください。十九枚と二十二枚の違いも読みました。
その日のうちに割当を組み直した。彼女の三日は、百三十九日目から始まる週からになる。百三十二日目からの一週は四日のまま払う。
――百三十七日目。ミラ、同意。百三十九日目からの割当に適用。百三十二日目からの週は四日で精算する。
百三十九日目の精算だけ、必要額は百九十七枚になった。不足は九十三枚だった。
◇
百五十日目、ミラが帰ってきた。
持ってきたのは紙束と、ノーラの字の一枚だった。
――書ける者、二人増えた。ヤンが読み上げを確かめている。四つの紙は回っている。
送金については、別の紙に書いてあった。
――月ぎめの払いが入ったら、実費と現地の配分と積立を引く。残りから城へ送る額を、坂に立つ者で決める。いくら送れるかは、まだ書かない。
週十枚という見込みは、こちらで立てた数だ。向こうが決めた数ではない。
俺は帳面の収入の欄に、その十枚を書かなかった。
◇
百七十四日目の朝、精算を並べた。
――必要額百九十六枚。収入百二十九枚。出来高の原資二十二枚。超過の半分二枚。城の運転に使えるのは百五枚。不足九十一枚。
――追加の枠の残り、一枚。
一枚しか借りられない。
同じ日に、第四便の代金が着いていた。二百四十枚。六割の百四十四枚は元本へ行き、四割のうち七十八枚を五十二人へ一枚半ずつ配る。残る十八枚は共同の繰越だ。百三十一日目に決めてある。
元本を百四十四枚返しても、枠は戻らない。使い切りの枠だ。
大広間に五十二人が集まった。ミラが戻っているので、今度は欠けがない。
全部読んだ。九十一枚足りないことも、枠が今日で終わることも、端から読んだ。
ヨルに、一つ約束している。払えない日が来たら、その日に全員へ言う、と。
今日がその日だった。
「埋め方を二つ持ってきました」
俺は紙を出した。
――維持費四十枚のうち、壺の直し・板の替え・樋の石の二十五枚を百八十日目より後へ送る。必要額は百七十一枚になる。
――残る六十五枚は、日当の一部を後払いにする。申し出た者からだけ受ける。
――後払いの支払予定日は百八十一日目。百八十日目までに次の枠が成立しなければ、百八十一日目に全員でもう一度諮る。
「成立しなかったら、どうなる」
ダンが聞いた。
「払える日が書けなくなります。そのときは、後払いを受けた人に、書けないと言いに行きます」
「その日に、また集まるのか」
「集まります」
申し出を取った。
一枚でよいと言った者が二十五人。二枚でよいと言った者が二十人。合わせて六十五枚だ。
申し出なかった者は七人。リゼが、その中にいた。
「私は無理です」
「分かりました」
「理由を書くんですか」
「書きます。書かないと、七人が黙って断ったことになります」
彼女は自分で書いた。
――冬の靴を二人ぶん買う。今週の一枚半を足して、やっと二人ぶん。後払いにすれば、また来年になる。
――百七十四日目。不足九十一枚。借入一枚で枠を使い切る。維持費二十五枚を先送り。後払い六十五枚、申し出四十五名の内訳と、申し出のなかった七名の名と理由を併記。支払予定百八十一日目。
――同日、週三日制を見直した。続ける。期限を二百七十日目まで延ばす。反対四、賛成三十一、意思表示なし十七。
書いてから、壁の紙を一枚だけ足した。
――追加の枠、千五百枚。使い切り。残高ゼロ。
◇
百八十日目、国の者と、メルヴィンが来た。
国が見るのは一つだけだった。売却によらない週の収入が、百二十四枚に届いているか。
乾燥肉で百二十三枚、灯し脂で六枚。合わせて百二十九枚。
――条件、充足。
その一行を書くのに、九十日かかった。
同じ紙に、続きも書かれた。証文の元は千二百四十二枚。これまでに元本へ入れたのが百五十四枚で、残高は千八十八枚。その期限を二百七十日目まで延ばす。二百七十日目までに、週の不足を七十枚以下にすること。
メルヴィンは、こちらが先に出した紙を読んでいた。
――次の九十日、精算は十三回。百八十一日目から二百六十五日目までだ。十三回とも九十一枚なら、千百八十三枚。
――超過の半分を止めてもらえれば、週の不足は八十九枚。十三回で千百五十七枚。
――これに、後払いの六十五枚と、先送りした維持費の二十五枚を足す。千二百四十七枚。
「平均で出していないな」
「十三回、一回ずつ並べました。平均で出すと、上限に引っかかる週が見えません」
彼は数字の下の欄を指した。
「余りが五十三枚とある」
「枠を千三百枚にしてもらえれば、余りが五十三枚です。期間中に不足が上へ振れた合計が五十三枚を超えたら、足りません」
「一回でも外れたら足りない、とは書かないのか」
「書けません。上振れの額と、起きる週によります。初回は上限まで一枚しかないので、その週に一枚を超えて外れると、その場で足りなくなります」
彼は自分の帳面を開いた。
「うちが何を返済の当てにしているか、書いておく」
三つだった。第五便から先の売却代金の六割。二百七十日目の再審査で再開が決まった場合の、超過の半分。それと、乾燥肉の買い手が商会であること。
「オルデンの送金は」
「入れていません。まだ現地が決めていません」
「入れるなと言おうと思っていた」
彼は書き写して、条件を四つ出した。
――枠は千三百枚。一回の上限は百八十枚。使い切り。旧い枠は残高ゼロで閉じ、併用しない。
――百二十四枚を超えた分の半分は、二百七十日目の再審査まで払わない。再開するかどうかは、その日に決める。
――二百七十日目までに、週の不足を七十枚以下にすることを目指す。
――二百七十日目に、達成の状況と次の融資を再審査する。
「止めた分を、あとで足すのか」
「足しません。止めるのは元本へ入れる金です。入れなければ、元本が減らないだけです。減らなかった分をもう一度数えると、二度払うことになります」
メルヴィンは頷いて、その行を消さずに残した。
「条件つきだ」
「条件つきで結構です」
百八十一日目の初回は百七十九枚になる。不足の八十九枚に、後払いの六十五枚と先送りの二十五枚を足した額だ。上限まで一枚しかない。
――百八十日目。債務二千五百八十八枚。新しい枠、条件つきで成立。
二千五百八十八枚は、返し終わる日を書ける額ではない。書かなかった。
書けるのは、次の九十日を回す数だけだった。
◇
百八十一日目の朝、初回の百七十九枚を受け取った。
後払いの六十五枚を、四十五人へ払った。一人ずつ名を呼んで、受け取ったことを本人に書かせた。二枚の者は二枚と書いた。先送りしていた維持費の二十五枚も、その場で出した。壺の直しが先で、樋の石は次の週になる。
――百八十一日目。新枠より百七十九枚。後払い六十五枚、四十五名へ支払い、受領を全員ぶん確認。先送りの維持費二十五枚、支出。
それから、門へ行った。
ケインが打った板の下に、紙が二枚増えていた。値と、受ける条件と、その日に受けられる人数。人数の欄だけ、毎朝書き換える。
荷車が一台、坂を上がってきた。
板の前に立っていたのはリゼだった。子どもの一人を前掛けの脇に寄せて、御者のほうを見た。
「荷役は一枚半です。積み直しは一枚。夜の預かりは受けていません」
「夜がないのか」
「償う金の用意がありません。用意ができたら、板に書きます」
「いつだ」
「書けません。書けるようになったら書きます」
御者は板を読んで、荷役を頼んだ。
リゼは人数の欄を見て、それから振り返らずに声を出した。三人が門の内から出てきた。
俺は帳面を開いていた。書くことがなかった。
値を言ったのも、条件を言ったのも、受けられる人数を数えたのも、俺ではない。
帳面を閉じた。
閉じる前に、一つだけ空いている欄が見えた。
――オルデンからの送金合意額、週 枚。
ここに十九と入れば、週の不足は七十枚になる。国と商会に約束した線だ。
十九という数は、こちらが出した見込みにすぎない。欄に入るのは、向こうが決めた数だ。
だから、空けたままにした。
門の外で、荷が下ろされる音がした。




