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吸血鬼の街  作者: 旅人凛人


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9/10

第九話 吸血鬼の時間

(世界中の吸血鬼は、この空を自由に飛び回れるのか。)


 一瞬だけ、吸血鬼をうらやましく思った。思ってしまった。


「……この空を飛べるなんて、ちょっとだけ吸血鬼がうらやましいよね」

「お前、俺の心が読めるのか?」

「ん……ええ?もしかして、攷晴も同じこと考えてたの?」

「一瞬だけだ。俺は別に、飛ばなくたっていい」

「でも、飛べたらもっと楽しそうじゃない?」

「そのために、誰かを手にかけるのは御免だ」

「……ぶれないね」

「まあ。攷晴はそういう考え方をする人だから」

「どういう考え方だよ……」


 俺の考え方は、そんなに読まれやすいのか?


「……ねえ二人とも。今度言おうと思ってたんだけどさ」

「なんだよ」

「みんなで、吸血鬼研究部つくらない?」

「は?」

「この三人で、吸血鬼研究部つくろうよ」

「……部活って作れるのか?」

「5人集まって、顧問が決まれば一応できるはず。前例はないけどね」

「響也くんを引き込むとして……あと一人かあ」

「いや勝手に近藤を引き入れるなよ」


 あいつ帰宅部だし、キルシーが誘えば来るだろうけど。


「響也は来るでしょ。小町ちゃんでも誘えば?」

「あいつかぁ……」

「え、小町って誰?」

「一言で表すなら、変人だ。」


 傘宮小町(かさみやこまち)。いわゆる、何を考えているのかよくわからないタイプだ。幼馴染ではないが、中学で三年間クラスが同じだったから、割と話せる関係だ。


「あと、基本的に無口だな。」

「でも悪い奴じゃないし、俺に影響を受けたのか、ちょっとだけ吸血鬼に詳しいな」

「へえー!すごい気になってきた!」

「小町……桐乃みたいなやつとは、相性悪そうだけどな」

「私は、そんなことないと思うけど」


 小町はマイペースなやつだ。キルシーにかき乱されるのを、よく思わないかもしれない。


「あー早く会いたい!やっぱり転校って、新しい出会いがあるからいいよね。」

「何度か経験あるのか?」

「何回かね」

「でもほんとに、運よくここを見つけられてよかったよ」

「運よく……ね」


 京子が意味深につぶやく。その視線は夜空に固定されているが、夜空ではない何かを見ているようだった。


「……そろそろ戻る?」

「そうだな。長居し過ぎると、本当に危ないだろうし」

「そうね。戻りましょう」


 俺たちはベンチを離れて、上ってきた坂道を下っていく。


「下りってのは、こんなに楽なんだな。」

「攷晴の成績みたいだねー」

「誰のせいだと思ってんだ」


 ふふっと笑うキルシーをにらみつけるが、すぐに目をそらした。

 結局のところ、こいつには敵わない。俺は今でも、喉元にナイフを当てられたままだ。


「……吸血鬼は感情に敏感。油断や怠けを感じ取られるわよ」

「……わかった」


 京子は右手にナイフを持っていた。鞘に入った状態だったが、それでも『武器』であることを感じさせる。

 あんな戦闘用のナイフなんて見たことがなかったし、そもそも京子がうまく扱えるようには思えない。


「京子って、そのナイフ使えるのか?結構コツがいるだろ」

「一年もやれば、基礎的な動きは身に着くわよ」


 そう言って、軽くナイフを振って見せる。素人の俺が見ても分かるくらいには、その練習量が伺える。


(きっと、吸血鬼に銀が効くと知ったその時から……)


 俺は京子の執念深さに、軽く恐怖を覚える。きっと京子にとって、大友はかけがえのない存在だったんだろう。ナイフを振った京子は、息を全く乱さずにこちらを向いた。


「攷晴も、やる?」

「……検討しておく。そもそも遭遇しないのが一番だ」

「間違いないねー」


 正論でしかないそのセリフは、俺にとっては最高峰の皮肉になる。


「遭遇した時のために、護身術はしっかり―――」











 後ろから


 バサッ


 と、翼の音が聞こえた。

 俺とキルシーが振り返ると同時に、京子が駆け出す音が響く。


(吸血鬼……!!!)


 視界の端から飛び出したナイフは、相手の喉元を正確に捉えたように見えた。だが、後ろに飛んで躱される。



「……夜は、吸血鬼の時間」

「……!」

「そんな時間に出歩いて……人間(エサ)って自覚はあるのかしらね?」


 翼を広げた吸血鬼は、妖艶な微笑みを浮かべて、こちらを見つめた。その瞳は、飢えた獣のように獰猛ではなく、狩人のように鋭くもなかった。

 ただただ、食事への期待感に溢れた、柔らかな殺意だった。

感想、ブックマーク等々よろしくお願いします。


さて、次回はついに戦闘です。楽しみだね。

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