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吸血鬼の街  作者: 旅人凛人


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8/10

第八話 満天の星空

「銀のパワーを知ろうにも、検証ができないからさ。その研究はめっちゃありがたいよね」

「日良ちゃんのパワーも、検証のしようがなさそうだけど……」

「今検証してるんだよ?現に、呑気におしゃべりしてても襲われてないし?」

「確かに……まあ、銀の影響もあるだろうけどな」


 嘘だ。多分、銀はそれほど関係してない。間違いなく、キルシーの力だ。


「……思ったんだが、吸血鬼って群れるのか?」

「さあ?でも、集団で発見された吸血鬼の情報は知らない。極端に数が少ないのか、吸血鬼自体が群れないかのどちらかだと思う」

「元人間なら、群れると思うけどな」

「うーん、群れないと思うよ?」

「どうして?」

「元人間なだけで、別に人間じゃないし……ただでさえ少ない『夜に出てる人間』を分け合えるほど、理性的じゃない気がする」

「吸血鬼は……私たちが思うよりずっと、本能で動く存在なんじゃないかな?」


 さすがに吸血鬼からそれを言われたら、説得力しかないな。

 だが、京子は違和感を覚えたらしい。


「……日良ちゃん」

「どしたの?」

「なんで、そんなに吸血鬼のことが分かるの?」

「まあ……こんなパワー持ってたら、気になっちゃうでしょ?」

「そうじゃなくて」

「さっき言ってた日良ちゃんの推測……多分、合ってると思う」

「京子ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいな!」

「合い過ぎてる。解像度が高すぎるの」

「……」

「どうしてそんなに、吸血鬼側の視点に立てるの?」


 冷や汗が、暗い頬を伝った。

 もし、ここで『桐乃日良』の正体が吸血鬼だとバレたら……京子の身が危ない。


「偶然そうなっただけじゃないのか?妙に勘が鋭い瞬間ってのは、誰にでもあるだろ」

「……それもそっか。でも、日良ちゃんの視点はすごくいいと思う。今後、色々相談してもいい?」

「もちろん!三人で、吸血鬼トークいっぱいしようね!」


 キルシーはこちらを見て、


(ナイス!)


 と、目で言ってきた。


「……もうちょいで着くよー。この丘の中間地点くらい?」

「坂かよ……」

「夜空を見に行くんだから、高いところに行くのは当然でしょ?」

「俺は、もうここでも十分だけどな」


 そう言って、夜空を見上げた。相変わらずの綺麗さに、何度見ても見惚れてしまう。

 月しか照らすもののない夜は暗い……が、この星たちを見られるのは、多分そのおかげだ。


「ここじゃあ、まだ星々のポテンシャルを引き出しきれてないの!」

「はあ……」


 まあ、キルシーに着いていくと決めた時から、もう逃れられない運命だった訳だが……さすがに、歩きっぱなしは疲れる。

 丘に向かっているからか、なだらかな上り坂が続いていた。足の裏がジンジンと痛み始めている。


「なあ、ちょっと休憩しないか?足が痛くなってきた」

「貧弱だなーもー」

「私は全然平気」

「強いな……」

「それに、夜中に野外で立ち止まるなんてハイリスクすぎるでしょ。格好の獲物よ」

「そうだねー」

「歩いてても止まってても変わんねえだろ……」


 結局、休憩を挟むことなく、俺たちは坂道を上り続けた。俺はもうヘトヘトだ。




「みえた!あそこだよ!」

「あの公園か……」


 斜面の先に、平らなスペースが見える。小さな滑り台と、木製のベンチが二つ。ギリギリ公園と認識できるくらいの、小さなスペースだった。


「ハイ、こっから上見るの禁止ね!」

「はいはい……早くベンチに座らせてくれ」


 俺たちは下を向きながら坂を上って、ベンチに腰かけた。

 キルシーは俺の隣を陣取ってきて、なぜか反対側に京子が座った。


「せーので上見るからね。せーの!」


 期待し過ぎずに、気持ち、ゆっくり目に顔を上げた。


「……!――――――――」


 『満天の星空』という言葉が、最もしっくり来る。星々のひとつひとつが、様々な場所で、個性的な光を発している。

 その色、明るさ、大きさ……すべてが無秩序だ。でも―――


「……綺麗だ。」

「でしょー!!!ほんとに此処は……星たちが、俺を見ろ!って言ってる感じがして、最高なんだよね」

「……夜空を見る機会は、たまにある。けど……こんなに輝いて見える空は、初めて」

「来た甲斐あった?」

「……まあね」

「それにしても、語彙力の違いが浮き彫りだねー」

「うっせーな。こういうのは……言葉じゃないだろ」

「まあね。わかってれば、よし!」


 俺たちはしばらく、小さなベンチに並んで、星々を眺めていた。

 隣に座っているキルシーは、じっと空を見つめ続けていた。


(……見た目だけでいえば、人間にしか見えないな。)


 銀のナイフを持った京子もいるんだし、擬態を解くことは無いだろう。

 そもそも擬態を解いたとしても、耳が少し尖ったり、八重歯が出たりするだけで、見た目に大きな変化は無い。

 翼も、多分飛ぶ時にしか出てこない。


 もしかしなくても、吸血鬼を見分けるのは、とんでもなく難しいのかもしれないな。

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