第八話 満天の星空
「銀のパワーを知ろうにも、検証ができないからさ。その研究はめっちゃありがたいよね」
「日良ちゃんのパワーも、検証のしようがなさそうだけど……」
「今検証してるんだよ?現に、呑気におしゃべりしてても襲われてないし?」
「確かに……まあ、銀の影響もあるだろうけどな」
嘘だ。多分、銀はそれほど関係してない。間違いなく、キルシーの力だ。
「……思ったんだが、吸血鬼って群れるのか?」
「さあ?でも、集団で発見された吸血鬼の情報は知らない。極端に数が少ないのか、吸血鬼自体が群れないかのどちらかだと思う」
「元人間なら、群れると思うけどな」
「うーん、群れないと思うよ?」
「どうして?」
「元人間なだけで、別に人間じゃないし……ただでさえ少ない『夜に出てる人間』を分け合えるほど、理性的じゃない気がする」
「吸血鬼は……私たちが思うよりずっと、本能で動く存在なんじゃないかな?」
さすがに吸血鬼からそれを言われたら、説得力しかないな。
だが、京子は違和感を覚えたらしい。
「……日良ちゃん」
「どしたの?」
「なんで、そんなに吸血鬼のことが分かるの?」
「まあ……こんなパワー持ってたら、気になっちゃうでしょ?」
「そうじゃなくて」
「さっき言ってた日良ちゃんの推測……多分、合ってると思う」
「京子ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいな!」
「合い過ぎてる。解像度が高すぎるの」
「……」
「どうしてそんなに、吸血鬼側の視点に立てるの?」
冷や汗が、暗い頬を伝った。
もし、ここで『桐乃日良』の正体が吸血鬼だとバレたら……京子の身が危ない。
「偶然そうなっただけじゃないのか?妙に勘が鋭い瞬間ってのは、誰にでもあるだろ」
「……それもそっか。でも、日良ちゃんの視点はすごくいいと思う。今後、色々相談してもいい?」
「もちろん!三人で、吸血鬼トークいっぱいしようね!」
キルシーはこちらを見て、
(ナイス!)
と、目で言ってきた。
「……もうちょいで着くよー。この丘の中間地点くらい?」
「坂かよ……」
「夜空を見に行くんだから、高いところに行くのは当然でしょ?」
「俺は、もうここでも十分だけどな」
そう言って、夜空を見上げた。相変わらずの綺麗さに、何度見ても見惚れてしまう。
月しか照らすもののない夜は暗い……が、この星たちを見られるのは、多分そのおかげだ。
「ここじゃあ、まだ星々のポテンシャルを引き出しきれてないの!」
「はあ……」
まあ、キルシーに着いていくと決めた時から、もう逃れられない運命だった訳だが……さすがに、歩きっぱなしは疲れる。
丘に向かっているからか、なだらかな上り坂が続いていた。足の裏がジンジンと痛み始めている。
「なあ、ちょっと休憩しないか?足が痛くなってきた」
「貧弱だなーもー」
「私は全然平気」
「強いな……」
「それに、夜中に野外で立ち止まるなんてハイリスクすぎるでしょ。格好の獲物よ」
「そうだねー」
「歩いてても止まってても変わんねえだろ……」
結局、休憩を挟むことなく、俺たちは坂道を上り続けた。俺はもうヘトヘトだ。
「みえた!あそこだよ!」
「あの公園か……」
斜面の先に、平らなスペースが見える。小さな滑り台と、木製のベンチが二つ。ギリギリ公園と認識できるくらいの、小さなスペースだった。
「ハイ、こっから上見るの禁止ね!」
「はいはい……早くベンチに座らせてくれ」
俺たちは下を向きながら坂を上って、ベンチに腰かけた。
キルシーは俺の隣を陣取ってきて、なぜか反対側に京子が座った。
「せーので上見るからね。せーの!」
期待し過ぎずに、気持ち、ゆっくり目に顔を上げた。
「……!――――――――」
『満天の星空』という言葉が、最もしっくり来る。星々のひとつひとつが、様々な場所で、個性的な光を発している。
その色、明るさ、大きさ……すべてが無秩序だ。でも―――
「……綺麗だ。」
「でしょー!!!ほんとに此処は……星たちが、俺を見ろ!って言ってる感じがして、最高なんだよね」
「……夜空を見る機会は、たまにある。けど……こんなに輝いて見える空は、初めて」
「来た甲斐あった?」
「……まあね」
「それにしても、語彙力の違いが浮き彫りだねー」
「うっせーな。こういうのは……言葉じゃないだろ」
「まあね。わかってれば、よし!」
俺たちはしばらく、小さなベンチに並んで、星々を眺めていた。
隣に座っているキルシーは、じっと空を見つめ続けていた。
(……見た目だけでいえば、人間にしか見えないな。)
銀のナイフを持った京子もいるんだし、擬態を解くことは無いだろう。
そもそも擬態を解いたとしても、耳が少し尖ったり、八重歯が出たりするだけで、見た目に大きな変化は無い。
翼も、多分飛ぶ時にしか出てこない。
もしかしなくても、吸血鬼を見分けるのは、とんでもなく難しいのかもしれないな。
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