第七話 四人組
「……焦ってたのかもしれない。」
「なんで?」
「……小二の時、家族旅行にいってな?」
「へー、仲いいね。」
「その時、偶然吸血鬼とかち合ったんだ。」
「ええー!!!」
目の前の吸血鬼が驚く。今はかち合っているどころか、面と向かって会話をしている。
「え、なんで生きてるの!?」
「失礼だな。かち合ったといっても、一瞬見ただけだ。」
「一瞬見た?どゆこと?」
「泊ってた旅館の窓をふとのぞいたら、空を飛んでる吸血鬼を見たんだ。」
今でも、空を飛んでいた吸血鬼の姿が目に焼き付いている。
月明りで輝く蒼色の髪と、大きく力強い蝙蝠の翼。
彼女と一瞬だけ目が合って、心を奪われた。
「……懐かしいな。」
「どんな奴だった?」
「綺麗な蒼い髪の、かっこいい吸血鬼だったよ。」
「ふーん、知らない。」
「だろうな。」
知っているほうがおかしい。
「……まあ、それが吸血鬼との出会いだな。当時はオタク仲間がいなかったから、一人で黙々と調べてたよ。」
「京子ちゃんは?」
「まだ吸血鬼に興味を持ってない。京子が吸血鬼について調べるようになったのは、別のきっかけがあるんだ。」
「別のきっかけ?」
「ああ。昔、大友宗麟ってやつがいてな?」
「ああ、大名の?」
「いや、幼馴染だった。女子だぞ。」
「ええ!?」
「大友の両親が戦国オタクで……男の子だと思ってウキウキで名付けたら、女の子だったらしい。」
「その子、なんか大変そうだね……」
実際、ほとんどの奴は苗字で呼んでいた。近藤だけは『マジかっけえ!』と言いながら、宗麟と呼んでいた。
「元々、俺、近藤、京子、大友の四人組だったんだ。」
「幼馴染で四人組かぁ……青春っぽくて、なんか憧れちゃう。」
「まあ、楽しい日々だったよ。」
「……さっきから、過去形なのが気になるんだけど。響也くんとも京子ちゃんとも、仲良さげじゃん。仲良し四人組のままじゃないの?」
「大友は、中二の春に死んだ。」
「え……」
「吸血鬼に、殺されたんだ。乾いた死体になってた。吸血鬼になってるかも……なんて希望は、残念ながらないな。」
「そっ……か。なんとなく分かったよ。京子ちゃんが、吸血鬼を調べ始めた理由。」
俺と京子……吸血鬼について調べている。という点では同じだが、動機に決定的な違いがある。
俺は単純に、吸血鬼に興味を持ってる。どんな能力があるのかとか……純粋な興味、関心だ。
でも京子は、吸血鬼に対して、強い憎しみの感情を抱いている。吸血鬼をこの世から葬り去るために……国家機密にまで手を出すほど、吸血鬼を徹底的に調べ上げている。
「俺の方が、吸血鬼について調べてる時間は長かったんだがな。今では、知識量もぼろ負けだ。」
「吸血鬼に対して、かける思いが違うもんね。」
「ああ。そうなんだが、問題はこっからなんだ。」
「……」
「最近……妙に大友のことを思い出せなくなってきてるんだ。俺も、京子も。」
「それで、焦ってたってことね。」
「多分そうだ。原因もわからないし、いつ完全に忘れてしまっても……おかしくない。」
俺は純粋な興味で、吸血鬼について調べていると思っていた。
でも、俺の心の中にも、京子と同じ感情があるのかもしれない。
「でもなんでだろう。その大友ちゃんを殺した、吸血鬼の能力とか?」
「その可能性は、あるだろうな。」
「むむむ……」
「何もわからないから、俺たちはとにかく大友のことを忘れないようにって、思い出し続けるしかない。」
「なんか、よくない気がする。」
「同感だ。」
「私もね。」
「……!?」
「ごめんなさい。少し遅れたわ。」
「京子、いつの間に……」
「こんばんはー京子ちゃん!」
「こんばんは。」
いつも飄々としている京子だが、いつもよりさらにテンションが低い気がする。
「じゃあ、行こっか。」
「ああ。俺たちはついていくことしかできないから、道案内は頼むぞ。」
「任せて!」
「なんか、不安……」
「同意見だ。」
不安と恐怖に包まれている俺たちとは対照的に、キルシーは鼻歌交じりで歩いている。
「日良ちゃん……その、キラキラパワー?ってやつ、本当に信用できるの?」
「まあねー。でも京子ちゃんが銀のナイフ持ってきてるし、まあ大丈夫じゃない?」
「!?」
「……なんでわかったの?」
「だって、吸血鬼には銀でしょ。」
「俺も銀は持ってきたが……食器のナイフだ。あてにはしないでくれよ。」
京子は、持っていたカバンからナイフを取り出す。かっこいい革の鞘にしまわれているが、結構大きい。
「マジモンの武器じゃねーか。」
「そりゃあ、夜間に外出するなら、最低限の装備でしょ。」
「銀もキラキラパワーを持ってるから、相当えぐい吸血鬼じゃないと、寄ってこないと思うよ?」
「銀も……?」
「そだよー。銀を使えば、吸血鬼なんてけちょんけちょん。」
人間の感覚だと、銃に近いんだろうか。まともな奴は、銃を持っている人間なんかに近寄らない。近寄るようなやつは……
「……なるほどな。でも、銀が吸血鬼に対してどれほどの効力を持っているかは、俺にはわからん。」
「私も、詳しいことはしらないかなぁ。」
「相当強いよ。銀が吸血鬼の細胞を破壊したって研究もあったし。」
「知るわけねえだろそんな研究……」
「まあ、攷晴は吸血鬼を滅ぼしたくて調べてるわけじゃないから。仕方ないでしょ。」
その言葉に、思わずキルシーの方に視線を向ける。いつもとは違う、真面目な表情だ。
京子の目的を知ったお前は……一体どんな気持ちで京子と会話しているんだ?
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この世界の月は、現実世界より明るいので、外に電灯が無くても多少見えます。多少ですが。




