第十話 銀と槍
「お前は……吸血鬼だよな?」
「ええ、勿論」
「ギリギリまで全っ然気付かなかった!」
「褒めていただいて、光栄だわ」
「私のナイフをあんな簡単に……」
「銀のナイフを警戒しない吸血鬼なんていないわよ」
そう返答してから、吸血鬼はふっと不敵にほほえんだ
「……なぜ笑う」
「だって……1匹ずつ丁寧にさえずって、まるで巣で餌を待つ雛鳥のようだわ」
「……っ」
台詞のひとつひとつで伝わってくる。この吸血鬼は、多分めちゃくちゃ強い。
「あ、名前聞いてなかった。名前教えて?」
「勿論。自己紹介は礼儀だものね」
「私はメリア・ローヴェット。人間名は、冥入紫苑ね」
「……俺は平野攷晴だ」
「私は桐乃日良だよ!」
「……西村京子」
自己紹介は礼儀……ここで名前を返さないといけない気がした。
対処法を頭の中で考えながら、メリア……を、観察する。
見た目は、翼の生えたお姉さんだ。少し紫の入った黒髪が、夜風を浴びている。服装は少し派手で、ドレスのようにも見える。胸元が少し空いていて、とても戦闘に向いた格好には見えない。
能力が何かにもよるが、本人が攻撃するのは、少しやりずらそうに感じる。
俺は気が付かれないよう、懐から銀のナイフを取り出す。こんな食器でも、無いよりはマシだ。
「ふふ……名乗られると、情が移っちゃうわね」
メリアはにこりと笑顔を見せる。そして、ゆっくりと右手をこちらに向けた。
向けられた掌を見て、半ば反射で全身に力を入れる。
その直後、メリアはどこかから小さなナイフを取り出し、右手首を切り裂いた。
(―――!?)
赤色の鮮血が吹き出した。だがその液体は、地面に触れることなく静止する。
それを見た瞬間に、奴の能力が分かる。
(血の操作か!!!)
表面張力で拳ほどの球体になったそれは、こちらに鋭く槍を飛ばしてくる。
「っ!!!」
間一髪で横に躱すが、血の槍は止まらない。急旋回して、再度俺の心臓を狙ってきた。
俺は、銀のナイフを飛んでくる槍に向ける。
(当たれ!!!)
ナイフが血の槍に触れた瞬間、爆発したかと思うほどに破裂して、ただの血溜まりになった。
銀に触れると、血の制御が出来なくなるらしい。
メリアに背を向けた状態の俺は、素早く向き直る。
メリアの周りには、既に数個の血の球が用意されている。俺たちを殺す準備は万端らしい。
「京子!」
「分かってる」
京子は、既に銀のナイフを血の槍へと向けていた。
「え、私だけ銀持ってないじゃん!」
キルシーがそう言うと同時に、全ての血の球が槍に変わった。キルシーに向かって、勢い良く飛んでくる。
「うわっと!」
数本の槍を、軽くいなすかのようにかわした。
槍は軌道を変えて、今度は俺と京子を狙ってきた。
(クソッ……このナイフじゃ無理だ!)
不格好に振り回して、なんとか全ての槍を破裂させる。
「ふふ……頑張るわね」
メリアは血の球をさらに増やして、どんどん槍を飛ばしてくる。ワンパターンではあるが、俺にとってはなんとか弾くのでギリギリだ。
「……!」
メリアに向かって京子が切りかかる。俺と違ってナイフを上手く扱える京子は、俺よりも遥かに余裕がありそうだ。
「やるわね。惚れちゃいそう……!」
「……」
京子は声を発することなく、何度もナイフを振っている。
メリアは余裕そうにかわしていたが、流石に余裕が無くなったのか、血の爪を作って近接戦闘を始めた。
(飛んでくる血の槍の量が変わらないどころか、少し増えた……まだ余裕なんだろうな)
ナイフを槍に当てつつ、状況を打開する方法を考える。
俺は、いつやられてもおかしくない。槍の量が少し増えただけでも、きっと一撃をもらってしまう。怪我したら最後、槍を捌ききれなくなる。
銀がない状態で槍を避けまくっているキルシーなら、余裕があるか……?いや、流石に避けるので手一杯だろうし、俺のナイフを渡したとしても、キルシーは吸血鬼だ。十中八九、逆効果だろうな。
京子が前線を張ってくれてはいるが、京子がやられると一気に均衡が崩れる。
考えられる勝利の道は、メリアの失血死くらいだが……あまり期待しない方がいいだろう。
「……ッ」
京子が、メリアの血の爪を破裂させながら、上手く切りかかっている。
が、攻撃は当たっていない。華麗にかわされている。動きずらい服装のはずなのに、京子よりも遥かに余裕がある身のこなしだ。
(この状況で、京子が槍に狙われたら……!)
嫌な予感が的中した。キルシーを狙う槍がいきなり軌道を変えて、一直線に京子を狙っている。
「やばい!!!」
「おやすみなさい……永遠に」
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