詩免奏歌
7:45 p.m.
戦闘終了後、強欲と呼ばれた男が暴食の胸倉を掴む。
「おい、テメェ...浅井と神崎を、ワザと見殺しにしやがったな?」
『はて?何の事でしょう?』
「トボけんな。俺様とてお前の性根を知らねぇ訳じゃねぇ」
『別に良いではありませんか。どうせ最後争う可能性すらあるのですから。それに、どっちにしろ我々の行いは主にとっては正しい行いでは無いでしょうし』
「それとこれは話は別だろうが。俺達は仲間、同士だろ?なら、精々世界に敵を回してる者同士、守り合うべきだろ?...つうか、世界の敵にしても姫様守ります。っていかにもアンタが言いそうな言葉じゃねぇか。聖騎士さんよ」
『ほぅ...?言うではありませんか』
『そこまで、現場を任せたのですからキビキビ動きなさい』
一触即発。そう思えた空気は次の瞬間には霧散する。二人の端末から"声"が聞こえたからだ。
『戦えないくせ偉そうに...ッチ、やるならさっさとやれ』
「良いでしょう。外典――傲慢」
―――繧オ繧、繝溘Φ
「彼/彼女の記憶と、体の支配権を一時的に戻せ」
『私の権能を使っても万全とは言えません。強欲、貴方の異能を』
『ぶっ壊れが、ズルだろお前の女神の寵愛』
「人の事言えます?で、今後の方針は?」
各々が各々の作業を行う。万が一があろうが、何があろうが万全を期すために作業を続ける。
『今んとこ変わらず、お前はコイツの記憶戻して、招来の呪文を聞き出すのに何分かかるよ』
「支配権を奪うのに三分、記憶を戻すのに二十分程」
「だってよ袈裟男。後はお前が守れ、俺様は死に体の浅いを助けた後さっさと聖女を攫う」
『...心得た』
そう言った瞬間袈裟を来た男が振り返り、暴食は柴田を抱えて去る。
『何だアンタら、気づいてたのかよ。俺ちゃん泣いちゃうぜ?』
『五行の前に眠れ――異界のものよ』
金髪にグラサン、アロハシャツ。奇抜な格好をした男が、堂々と結界を通り抜け、姿を現した。
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7:35 p.m.
「黒乃、無事か?」
『私は無事だ。父上達は?』
「問題無い。少なくとも我々転生者はな」
そう語る新倉黒乃は全身を漆黒の鎧で身を包んでいた。辺りを見るに戦闘があったようだが本人は無傷。あたりに倒れてる男達も脈があり、殺さずに気絶に済ませたのだと理解出来る。
『状況は?』
「正体不明の結界が街の西側を覆っている。敵は星の智慧派、傲慢の一派。狙いは恐らく...柴田君と聖女」
『ッ!』
「待て」
結界へ向かおうとする黒乃を抑える。言うべき事はそれだけじゃない
「結界はノアが解くと言っていた。ならば結界内は彼に任せ、教会に向った方がより多くの人を救える。ここは堪えて、先に向かってくれ」
『...はい』
「私達も後で追う」
さて、電波は麻痺してないな?
最初雑音混じりの音が聞こえ、やがて肉声ではない声が聞こえる。
「あー聞こえているかね?現在、聖都は何者かにより攻撃を受けている。これを聞いている騎士達よ、今すぐ南部教会周辺へ向かってくれ――」
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「嘘ぉ!負けちゃったぁ〜?ま〜イスちゃんがあそこまで対策すればそうなっちゃうかぁ〜と言ってもあの子は柴田ちゃんの記憶もなければ体も違うからな〜別人!別人!」
『...イスちゃんって呼ぶのやめろって言いましたよね?貴方とあまり喋りたくないので要件を』
不快そうに眉を顰め、表情を歪ませる。
「別にぃ〜?一応憧れの柴田ちゃん倒せて良かったね〜ってだけだよ?ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ今どんな気持ち?」
『...別になんとも?』
「嘘だぁ〜もっとなんかないの?」
『貴方は何考えてるか分からなくて不気味です。虚飾』
「その呼び方やめてくれない?私程誠実な天使いないよ?」
『気持ち悪い...本当に恥ですよ。一度でも貴方を師と仰いだなんて』
白い空間で羽が生えた怪物が、再び権能を行使した。
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7:55 p.m. 南部教会
「今度は俺様が数の暴力を受ける番か──来いよ」
『貴様を都市国家の敵として排除する!』
「死ぬ気で来な、楽に消してやる」
コイツ強え...がしゃあないな。大方、俺様相手に人数を使って残った戦力で結界内のアイツらをどうにかしようって魂胆だろ?
「欲が──足りねぇな。もっと欲張れよ」
強欲の前世からの異能、相反するセフィラは右手に触れた物を存在毎消し、左手に触れたものの異能、魔力、血液、存在など様々な物を奪う事が出来る。
『──??貴様、何をした!』
「答えると思うか?」
初見殺しじゃなきゃ、練度で騎士である彼に勝機を見出されるかもしれねぇ...だから...本気でやる。
『記憶から誰かが消え...た?私の妹の婚約者は?今まで兄弟のように過ごした男の名を...名を...答えろぉ!!!!!』
頭を抑えながら切り掛かる。地面に倒れた一人の兵士を踏みつけながら。
権能を行使した際、稀に関わりの深い者が記憶に矛盾が生じる事がある、その場合は一時的に頭痛が発生し、魂と権能の精神力対抗が行われる。ただし相手だけ特に痛みなく一方的に行動出来る為、基本的に対抗が始まる前に、対象者は文字通り"消える"だろう。
女神の寵愛持ちとの戦闘経験が豊富な彼の身体は、思考よりも先に最適解を導き出すよう鍛え上げられている。たとえ想定外の事態に直面しても、瞬時に視野を広げ周囲の情報を読み取り、迷いなく動く。
故に、自信を囮として使った。
【BLACK──RISING STRIKE!!!】
一瞬、強欲の前に跳躍した黒い鎧がよぎる。
黒い残光を引きながら、空中で身体を捻る。
脚部に凝縮された闇が一点へと収束し、螺旋状のエネルギーが膨張。
そして──叩き込まれた蹴撃が、爆ぜた。
衝撃波が地面を穿ち、紋章が閃光と共に砕け散る。
炎が柱のように立ち上がり、遅れて爆発音が街を揺らす。
コアの光が静かに収束し、ベルトが低く唸った。
【STRIKE COMPLETE】
爆炎の中、男のシルエットが揺らめく。
『今の内に離れて!彼は...異世界の者である私が受け持つ!貴方達は都市長の指示の元一般人や怪我人の保護を!!』
『待ってくれ!そいつは手に触れて何かをした!よく分からなかったが気をつけてくれ』
『ああ』
僅かな会話で情報交換を行い戦線離脱する。同時に爆炎の元から男が再び現れた。
「中々やるじゃねぇか..キック力は...100tあたりかぁ?」
『良い聖遺物を使ったから...身長203.2m──体重100.2kgパンチ力108.2t──キック力113t──走力100m0.98秒──ジャンプ力94mと言っても、"コレ"は彼が出した数値だ。実際の私ならもっと低いかもね』
「大体牙竜の半分程度か──身体強化」
『それは──』
「勘違いすんな?これは柴田ってやつのと違って紛い物じゃねぇ。俺様は軍人上がりだ...本物ってやつを特別に見せてやる」
ファイティンポーズを取り、ステップを踏む。片手の親指以外を動かし挑発する。
明らかな経験者の動きだった。
「来な、欲の張り方ってのを教えてやるよ。正義ズラ」
『...生憎私は研究者でね──戦闘のせの字も知らない』
舐めたマネしやがる。俺のプライドに漬け込む気か?
「良いぜ?...俺様はコレを使わねぇ。純粋な格闘戦だ」




