五行対魔法
『ハンデだ。俺様はコレを使わねぇ』
「それは約束かい?」
『師にかけて』
ノアが言っていた通りだ。プライドが高そうな相手を煽れば、自分の土俵で戦ってくれる...半信半疑だったが、どうやら彼の言ってた事は正しかったようだ。
『さっさと構えなっ――!』
拳を振りか振りかぶるふりをし、フェイントかけ手を床につく。自身の体重を利用した蹴りを放った。
同時、受け止めた強欲がカウンターの拳を放つ。新倉はその拳を小手で受け止めた。格闘戦は続く、が手が進む度、強欲の方が優位になって行く。理由は単純、強欲の方が強いからだ。別世界同士の初見殺しバトルなら兎も角、純粋なパワー、技量勝負なら、鍛えてきた方に軍配が上がるのは当たり前、自明の理である。故に、、身体能力ではほぼ互角でも、技量的な問題で押される。基本的に戦いの言うのは"マグレ"は起こるが、長引けば長引く程実力差は浮き彫りになっていく...と言っても、必殺技に頼ろうとすれば――
【必殺!!】
『させねぇよ』
――すかさず距離を詰められ隙を潰される。
戦い慣れている。目の前の男もまた、別世界の怪物と言う事なのか――戦闘勘や戦い方に迷いがない。
『油断も隙もねぇ女だ。悪いがストレス発散させて貰う...あの人達に似てんでね』
「あの人達?」
『正義とか、善意とか...そう言うのを信じそうなツラしてやがんだよ。俺が日曜の朝――憧れて見てたあの人達に』
「生憎君が何を見てきたのか、何に憧れたか、私は知らなくてね。だが君の意思は尊重しよう...配慮が届いてなかったね。すまなかった」
『...そういう所が似てんだよ』
戦いと続く、新倉の狙いは距離を取る事。男が近接戦しかしないと宣言したなら、それを軸に思考し、自身の最大火力である必殺技を当てる。それだけが勝ち筋だと、新倉は考えた。
『どうしたってんだ!正義のヒーロさんよぉ!』
「グッッ――アッ!っふ!」
『ッチィ!』
やはり私達二人の世界は、細かい所に違いはあるがベースは同じ!!ならば、私がすべき事は、ムエタイの技の中で最も威力が出る技、ハイキック一点読み、ハイキック以外は気合いで耐え、待ち侘びたハイキックを両手で抑える。それしかない!
『守ってばっかじゃ勝てねぇぞ!』
「クソッ!」
勝てない。技術のレベルが違いすぎる。基礎的な格闘技術がここまであるなんて
――平運《執念》
戦場と化した教会前、この場の二人に気づかないイレギュラーが発生する。
『あぁ"?』
倒れた兵士が、いつの間にか強欲の足に組み付いていた。
目は虚で、尚且つさっきまで死んでたような顔つきで、新倉を見る。
【今だ】と言っている気がした。
「...ありがとう」
瞬時に渾身の力を込めた拳を振りかぶる。
『バカが』
相反するセフィラを発動する。瞬時に全ての魔力が吸われ、新倉が無惨に倒れた。
「ア"――ァァ...ァ」
『口約束を信じきるとか...だから負けんだよ。どう考えてもお前とサシで殴り合うメリットなんてないだろうが――そんなんだから"俺"も...アンタも、守りたい物を守れねぇ...さて』
『ッ!』
『失せな。時間の無駄だ』
倒壊した建物がさらに崩れ、聖堂に月光を照らす。男――赤雷 隼司。その姿は力を持たない者にとっては恐ろしい怪物で、力を視れる者は、感嘆し息を飲むだろう。
憧れを勝った彼は――勝者の幸福に酔いしれる事も無く、ただ不快そうに騎士達を見つめた。それは彼にとって、どう映ったのだろうか。
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「いいのかよおっさん。俺ちゃん、手加減しないよ?」
『吼えろよ吼えろ。子犬風情の戯言、言うなれはつむじ風よ』
翻訳魔法《ノアオリジナル魔法》で少しは聞き取りやすくなったが、それでも聴き取りずれぇ。
戦場は高所──両者空を飛び、空中戦が始まる。遮蔽物もなければ、辺り一面は空しか映らない。だが、視界で捉えているのは両者一人だけだろう。
──五節精霊蒼炎魔法
──【五行:火 朱夏】
炎と炎がぶつかり合う。二つに炎はお互いを包み合い、相殺した。
──五節精霊豪雨魔法
──【五行:水 命泉】
静かに符が舞う。
低い祝詞と共に、地面へ陰陽の陣が刻まれる。
黒と白の円が回転し、中心から透明な泉が湧き上がった。
それは豪雨とは違う。落ちる水ではなく“生まれる水”、それこそが命泉。
五行における水は、終わりではない。万物を潤し蓄え巡らせ、やがて木を生む源。
天より落ちる暴威の水柱が、地より湧く静謐な泉と衝突する。
豪雨は叩き潰すための水。命泉は巡らせるための水。
ぶつかり合った水が蒸気となり白霧が戦場を覆う、命泉は受け止めない。ただ組み替える。それだけだ。
『水は制すにあらず、養うもの』
「ギア上げてくぞ...っとその前に、一応サシの決闘だ。名乗ろうぜ」
『貴様の名は存じているとも。名を、ノア・オースティン...この世の妖術となる四元素を扱う勇猛たる気概を持つ人の身で全能に近い者――』
――雷撃
『礼儀知らずだな...!異界の蛮族ども』
電撃を札のような物で防ぐ。その顔は、少しだけ歪んで怒りが見えた。
「情報が古りぃよ。それに知らねぇのか?そもこの決闘のルールは、少しでも異世界人を油断させる為に作られた...暗黙の了解だぜ?――俺ちゃんの名前はノア・ボルト...!新たな元素、"空"を実現した人類最初の五元素使い!」
『...我が名は安倍晴明。陰陽道の開祖にして、平安の世にて最強を謳った陰陽師。貴様らの狡猾さを贖い、次姑息な真似をしようものならば、壮絶な最後を迎えると約束しよう――十二神将:朱雀』
現れるは、中国の神話で天の四方を司る霊獣にして、かつて四神と呼ばれたカミ。
夜の都。瘴気が南天を覆い、月すら滲んでいる。
空に描かれているのは五芒星だけではない。その外周を囲む、青き木行の符。
東方の気を、南へ巡らせる布陣。
『五行は巡る。木は火を生み、火はその徳を顕す』
指が印を結ぶ。瞬間、自然がざわめいた。
見えぬはずの森のざわめきが、夜の都に重なる。
芽吹き、伸び、天へ向かう生命の衝動。
青き光が陣を走る。木気が集束する。それはやがて赤へと転じた。
『木生火――』
晴明が腕を振った方向が燃える。
生じたのは炎ではない。生成された火徳。
陽気が臨界に達し、空間そのものが朱に染まる――南の雲が裂けた。
巨大な翼が夜を押し広げる。それが、中国の神話で天の四方を司る霊獣にして、かつて四神と呼ばれたカミ――朱雀。
だがそれは、単なる炎ではない。東の木気を糧に、理に則って"生まれた"火。
故に暴れない。故に乱れない。
五行の循環に裏打ちされた、必然の顕現。
朱雀が翼を広げるたび、炎はただ焼くだけではなく、気を正す。
相剋ではない。相生による制圧。晴明は静かに告げる。
命令を聞いて朱雀が舞う。その軌跡は木が火を生み、火が徳を顕すと言う、天地の循環そのもの。
『理に背く穢れは、理によって正されるその決闘――貴様らやり方で受け入れよう』
五行は再び巡り始める。人はいつだって平等に死に、生きるものだ。




