荒唐無稽
「美しい。ですが、光の隙間...とやらは解除しても宜しかったのですか?」
『言わせんな』
「失礼」
一瞬、靴のギアが切り替わる乾いた感触。
柴田はためらいなく踏み込み、一直線にこちらへ向かってくる。
警戒すべきは、左手から漏れた高音――張り詰めた糸が、空気を震わせるその兆し?
――否
本当に警戒すべきは音でも、仕掛けでもない。
そのすべてを使いこなして迫ってくる存在――柴田恵都、そのものだ。
格闘戦が始まる。曰くローランの体は金剛と例えられ、鋼もまた彼の前では鈍く、刃はその肉を裂く前に砕け散ったという。
その骨は岩を凌ぎ、その血は炎に等しく、戦場に立てば一軍の盾となり、一歩踏み出せば地は軋んだと伝えられる。それは単なる武勇の誇張ではない。
神への忠誠が肉体に宿り、信仰が骨髄にまで浸透した結果である、と古き書は記す。
彼の強靭さは鍛錬の賜物にあらず。
それは使命を疑わぬ心の硬度がそのまま肉体へと転写されたもの。
故にローランの体は"鋼"ではない。
鋼が折れることを知るゆえに、彼はそれを超える“金剛”と称されたのである。
だが時は現代、科学の時代。かつて金剛と言われた地球上で最も硬い天然物質――――ダイヤモンドでさえ工業的に利用する時代。
『素晴らしい!これは私を殺しうる絶技だ!』
出血――決して致命傷では無い。勝負が決した訳ではない。何なら目の前の男は肉体が全盛期という訳では無いのだろう。それでも、土俵には立った。攻撃手段を得た事実は変わらない。
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『――多分、他人《お前ら》が羨ましかったんだ。誰かの為に、俺よりもこの世界を理解して命を賭けるお前らを、俺は少しだけカッコ良いと思った。なぁ――答えろよ。俺は何者だったんだ?何をしてたんだ?大勢から殺される程、悪人だったのか?』
戦闘中、柴田は柄にも無く相手に問いかけるように口を開く。
決して激情に駆られている訳でも無い。もしかしたら答えてくれるとも思ってないかもしれない。ただ彼女は自分なりに、何も知らない凡骨ではいたくないという意思表示だっただけ。
「私には私のすべき事があり、貴方には貴方のすべき事があった。ただ、それだけのことですよ。私が貴方を倒す為に戦うのも、貴方が抗うのも、全て――白痴の御心のままに」
足場が崩れ、靴を利用して滑走する柴田と炎の外套を使ったローランが並走続ける。
『理由はそれだけか?全部が全部、その白痴の思うままなのか?』
「ええ、その通り、単純に優先順位の問題なんですよ。どんな自分がどんな力を保とうとも、物語に登場している時点で作者の意思には逃れられない。単純に考えて、キャラクターが作者に勝てる訳ないでしょう?私が言ってるのはそう言う事だ」
『クソみたいな哲学だな。あんたの人生観が透けて見える...そう思わなくちゃ生きてらんなかったのか?可哀想に』
「貴方も老いれば分かりますよ。外典 月光」
月光は、決して世界を太陽光のように照らさない。
それは不完全で揺らぎ、時に雲に隠れる。だからこそ、人はそこに救いを見る。
自ら燃えることなく、他者の光を受けて輝く――その在り方は信仰そのもの。
神が太陽であるなら、月は祈る者の心である。
闇が深いほど、その淡い光は確かに存在を主張する。溶けた瞳が良く見えた。
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何分戦ったのか。もはや時間の感覚は意味を失っていた。
互いに理解している。
決定打に欠ける――それが、この戦闘の結論。だが、それでいいと柴田は判断した。
十速はもう無傷では使えない。次使ったら治癒を使いながらでなくては足が潰れる。ならば選択肢は絞られる。互いの攻撃手段を潰し合い、即ち消耗戦へ引きずり込む。
外典は確かに脅威だ。しかし、あれは決着の一撃にはなり得ない。
警戒すべきはただ一つ――無欠の投擲。あれさえ通さなければいい。
そして無欠の対策は、間合いを近づけず、遠距離戦に徹する事で対処可能。
つまり勝敗は焦先にミスが起きた方から崩れる。生唾を飲み込み、銃口を僅かに下げながら息を整えた。
「さて、お喋りはここまで――名残惜しいですが、ゲームオーバーです」
ローランが言い切ったその瞬間、轟音が鳴り響く。
外壁が内側から爆ぜ、粉塵と共に“男”が姿を現す。
鉄骨を踏み砕きながら悠然と、崩れ落ちる瓦礫の向こうで影だけが揺らいでいた。
『欲張りすぎだ。暴食』
『貴方のすべき事は終わりましたか?強欲』
『ああ。俺様は遊ぶ主義じゃねぇんでね』
『皮肉ですか?...遊んでいた訳ではありませよ。全ては、徹底的な勝利の為――彼女には直接超常現象は効きません。使うなら間接的に』
『ああ、プランBで行く』
結界の中に降り立つは、眼帯が特徴的な男。その姿や会話内容を見るに、恐らく同格の仲間。それを理解した柴田の反応は、瞼はわずかに伏せられ、呼吸は一定。指先だけが、微かに震えている。
噛み締めるように、奥歯が鳴る。視線は動かない...だが思考だけが、絶えず巡る。
足りない。情報がなさすぎる。知らない事が多すぎる。
眉間に寄った皺がすぐに消える。迷いを切り捨てるように息を吐く。
銃口がわずかに上がる。引き金が引かれる。乾いた破裂音。
同時に、靴底のギアを戻す。回転が緩み、速度が変わる。
「雑魚どもが、この程度で...十速 見えざる刃・展開」
一歩、二歩。弾丸を散らしながら迷いなく踏み込む。
余力も猶予もない。
堕解を警戒して温存していたリソースを全て燃やし尽くす短期決戦――それ以外に、柴田にとっての勝利の道は無い―――
『演技は学んだ方が良い。相手を油断させるならもっと適正な言葉がある』
「一節単詠唱 エア!」
と見せかけるのが、柴田の狙いだった。
見えざる刃を乱射しながらガラスをドロップキックが蹴破る。外の状況が分からないが、援軍が来た今外の状況は最低でも劣勢、故に最悪の場合を想定する。
一対一なら、結界を守るローランとタイマンせざる負えないが、今は違う。再び逃げながら戦う戦法にチェンジすれば人数差は一時的にマシになる。
『無欠の投擲』
「慣れた」
窓から屋内に飛び込み体制を立て直しつつ、突然真後ろに出たナイフを掴み取る。
同時、眼帯の男が外から蹴り込む。それを柴田はノールックでかわし、カウンターを入れる。無論それは通常の都合二十倍で入る...強欲はそう予測し、回避の動作をとった。
「十速...解除」
急激に速度を失った拳が、強欲の顔面に食い込んだ。
『欲が足りねぇなぁ!!小細工じゃこの俺様は倒せ――』
話を無視し"鼻"に指を入れる。壁に打ち付けながら廊下を走る。当たり前のように目を潰す。その動作をする前に――
『天つ御雷の荒魂雲居を裂きて、八十雷を従え、黒雲を纏いし我が詞に応えよ。
稲光、地を穿ち、罪穢を焼き祓え。いざ鳴れ、鳴り渡れ――万雷』
袈裟を着た男が放った極光の稲妻が、柴田を襲った。
今まで結界を維持する為に呪詛を維持していた男からの唐突な不意打ち。詠唱も、この距離では聞こえない。自身の耐性を貫通してきた雷撃に、悶える。
痛いなんてもんじゃない。まるで全身の神経をむき出しにされ、はんだこてを頭から足まで押し付けられているような極上な痛み..,それを脳が割れる程連続で押しつけられる。それでも柴田は動いた。治癒を使おうと全力で飛び退き、己の舌が使いものにならないと理解し再び距離を詰め殴る。
『◾️◾️◾️◾️◾️』
何だよ――それ
左手を前に出した途端、拳が滑るように"逸れた"。その隙を元徳旧栄神、強欲の理を司る者が、見逃す訳が無い。柴田の腹に強欲の拳が突き刺さる。ムエタイベースのそれは、少女の内臓を破壊するには十分。しかし、それを喰らっても尚、柴田は意識を失ってすらいない。決め手に欠ける。だからこそ、だからこそのプランB。
吹き飛ばれた柴田の視界の端に、マントが入る。
――無欠の投擲
暴食、一か八かの八本同時の投擲。本来なら精度、飛距離なんて期待出来ない。ただし、無欠の投擲による必中化と射程をカバーする至近距離で発動させる前提により、それはノーモーションの秘中必殺へと昇華する。
「ッ――ァ"ア"ア"ア"!!」
返し、さらに一か八か超高速のバックステップ。窓ガラスを破り、背中にガラス片が突き刺さったが運が味方し、ギリギリでかわす。
耐え切った。違う、次だ。次何が来る!!
――銃声
「ッ、ウ"....ッ!」
『フッー!フッー!』
遠く離れた高台。血を流しながら這うようにして登り切った。浅井蓮介《残機使い》最後の意地。
初見殺しの応酬、数の暴力。全ての理不尽をぶつけられた柴田は、無惨に地面に倒れ伏した。
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【被害を逸らす】
コスト:任意の魔力 詠唱:即時 効果;即時
効果:左手を前にかざし衝撃を逸らす。使用時、この呪文に使用した魔力分だけ自身の受けるダメージを減らす事が出来る。
【五行:木 万雷】
コスト:魂 詠唱;長期 効果:即時
効果:天罰のように神の雷が刺さる。この雷撃に当たったものは、一時的に"カミ"と呼ばれた者達への加護を無効化される。権能への耐性程度なら貫通して無効化可能。さらっとやってるがキモい事してる。五行:金自体が属性的には金属の力〜とかなので、簡単に言えば火属性でAK74作るくらいキモい。




