不利
作戦前 星の智慧派本部にて
『最初に確認から行きましょうか。今の彼女《柴田恵都》を拘束する場合、警戒しなければいけない手札は五つ。一つ 見えざる刃、見えない斬撃が連発で飛んでくるのは脅威...まあこれは貴方達の能力的にも問題ないでしょうが、問題は四つ 治癒による再生力。体格差があっても尚通じる対人格闘スキルに不完全の異能及び権能耐性 ...挙句の果てには"切り札"です。正直どれか一つでも厄介ですが――これらを事前に覆すのが、今回の策です』
『ほんで、人選がこれですか?』
『ええ、その通りです。ひとまずこちらを』
手渡されたそれは、彼にとって"前"の世界では馴染みが無いもの。
「銃やんけ」
『ああ、そういえば...貴方も地球出身でしたね』
『決まっとるやろ。ここに入った理由忘れたん?』
『勿論。彼女を無事捕らえたのなら、約束通り"クラス"全員生き返らせてあげますよ』
『ならええ。で、これただの銃にしか見えへんのだけど』
『治癒対策です。彼女の治癒は魔改造の末、時間の巻き戻しまでに到達しています...対策としてこの銀色の弾丸は、時間の巻き戻しを抑制し、破損させる効果を付与してもらいました。今回はこれを使って、彼らの援護をお願い致します』
『彼ら?後ろの二人の事?』
金髪の女が疑問を投げ掛ければ、イスはジェスチャーで答える。
『言い忘れていましたね。今回、私の方から二人、協力者お呼び致しました。前に』
二人が前に出る。一人は先程会釈した男、もう一人は眼帯が特徴的な迷彩服を着た男だった。
『私達のやり方で名乗りを』
『しゃあねぇなぁ〜俺様は元徳級栄神――分別の理を示す者――赤雷 隼司だ。シクヨロ』
『同じく元徳級栄神――節制の理を示す者――ローランと申します。以後、お見知り置きを』
「おおきに...本当に援護だけでええんか?楽すぎん?」
『威勢が良くて良いですね。まずは嫉妬の権能の元、射撃と最低限の近接格闘力を鍛えて頂きます。追加で彼女の戦闘を録画したものを繰り返し見て分析してください』
真顔でとんでも無い事を言っている。無茶振りだ。
「嘘やろ。本番一週間後やのに?」
『権能で発狂しない限り永久に鍛え続けられますよ』
『そんなに強いんですか〜?見た目はただの可愛い女の子なのに』
めんどくさがったような声で鏡子が疑問を呈する。声色から拒否感が透けて見えいる。
『見れば分かりますよ』
それ僅かに口元が歪み、これから苦痛を味わう人間を嘲笑しているような笑みだった。朧げな意識の中、会話が少しだけ聞こえる。
『切り札...手立に...我を呼びしかな?』
『彼は対"切り札"用です。』
『いかなる神を...封ずべき?』
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️です』
『...心得た』
次に意識を捉えたのは、冷えた夜気だった。
背中に叩きつけられる硬い感触とともに、彼らの体は舗道の上へと放り出される。息が詰まり、肺が空気を欲しがって大きく引きつっているだろう。
どういう事や?ローランさんの動きが手筈とちゃう。本来は会話の後で組み付く予定やった筈やのに...何喋ってんねん?
ローランさんで成り立りたった作戦崩壊すんのはまずい...ここで一発当てへんと
集中するんや。あの地獄の訓練を思い出せ
『..やり合う前に聞かせろ...何で不利になるような事を伝えた。お前らにとって、今までの俺の方が楽だっただろ』
『...約束を果たす為、加えて会話を楽しみたいからです』
「会話...?」
『剣戟、読みの交差、闘争こそが...私にとっての一番の会話であり遊戯...それなら相手が最高の状態で叩き潰したいと思うのは...当然の事でしょう?』
『ッチ!...いつ取りやがった?』
『ナイフですか?ナイフなら先程から、手捌きですよ...手捌き』
何言うてるけど分かれへんが、死なんかい!
|スナイパーライフル《Barrett MRAD》による超遠距離からの狙撃、2.0km先から狙う。
『そこか』
先程の弾丸なんて脅威に感じてないように、凍えるような捕食者の目が、こちらの事...いや違う。あの結界を作っている袈裟の事を見つめている。
――十速
建物の上に飛び上がる。補足したのか一直線に走り出ている。
『リロード終わるまでまだ時間かかんだろ』
『お待ちください。歓迎の品がまだなんです』
何の変哲も無さそうなナイフが投擲された。
当然、先程の銃撃を不意打ちで避けた彼女は容易に回避出来る――何なら掴み取ろうとした
――筈だった
『グッ...ァ』
ナイフがひとりでに動き。腕をすり抜け柴田の右胸を突き刺した。
彼女らの世界で、必中の名を冠する魔術――その名は――
『――無欠の投擲...ご存じでしたか?』
『...ギィ!!』
即座に右胸からナイフを引き抜いた。治癒対策はされている為再生出来ないが、彼女は魔力を即座に流し..."糸"を出す。靴のギアを弄り、走りながら縫合を始めた。
『成程、そもそも私の射程範囲外に離れる事が目的ですか』
この時の為の自分やろ!
『鏡子!』
『白血』
そう言った直後、眼球...口...体のありとあらゆる所から出血する。同時に鏡子が蹴り込んだ。
『ウザッ...マジで効かないじゃん』
『――乱!!』
木っ端微塵に切り刻んで先に進むが、一瞬のタイムラグで節制が追いつく。
神崎 鏡子
身長:155cm
体重:--
性格:根暗
口調 / 一人称:私 あーし
趣味 / 特技:生きる事
座右の銘:無し
尊敬する人物:一条 慶喜(大阪弁の人)
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教室は、もうどこにもなかった。
白い光に包まれ、次の瞬間には――瓦礫と血の匂い、静寂だけが残された異世界の平原。
クラス全員が転移したはずだった。叫び声も、名前を呼ぶ声も、確かにあった。
それなのに今、立っているのは彼女一人だけだった。
少女は自分の両手を見下ろす。
震えていない。泣いてもいない。代わりに、胸の奥で静かに脈打つ渇きがあった。
"吸血鬼"――転移の瞬間、頭の中に刻み込まれた“クラス”の名。
不死、再生、夜目、血による強化。そして何より、“死なない”という絶対的な特権。
彼女は知っている。
クラスメイトたちは、凶悪な異世界人に遭遇し、為す術もなく消えていった。
自分も、確かに一度は致命傷を受けた。骨が砕け、視界が暗転した――はずだった。
だが、目を覚ました時、傷は塞がり、血だけが乾いていた。
「生きてる」
呟いた声は、夜の風に溶ける。
助かった事への安堵は湧いてこない。代わりに胸を満たすのは、取り残されたという事実と、理解し始めてしまった現実だった...そして感じてしまった...とてつも無い飢餓を――美味しそう。嫌だ嫌だ美味しそう嫌だ嫌だ嫌だおいしそう嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だ嫌だ嫌だヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ――
――おいしい
『何...してんだ?』
「え?」
何で顔...青いの?
私は、もう人間じゃない。
誰も守れなかった。生き残ってしまった。
だからこそ、彼女は歩き出す。
血に飢えた夜の住人として、死ななきゃいけなかった人間として。
その背に宿るのは、呪いでも女神の寵愛でもない。
生き残ってしまった者だけが背負う、終わらない夜だった。




