開幕
『説明させてくれ、私は星の智慧派と繋がっている訳じゃ無い。寧ろ逆だ』
「続けろ」
『転生者連合は星の智慧派と敵対している。理由は転生者召喚に星の智慧派が関わっているとされているからだ』
「仮に関わっていても何でお前がそんな事知ってるんだ?」
『...私がイスと戦った者の内の一人だからだ』
「オースティン...この名前に聞き覚えは?」
柴田の鎌掛けに対し、一瞬目線を逸らして答える。
『勇者候補の者か?勿論共に戦った仲間だとも』
霊視で見ても...コイツはイスじゃねぇ。それでも
「認識改変はケア出来ねぇ」
『イスの異能には対策があるだろう』
「何をした」
『閉心術』
「閉心術?」
『心を閉ざす技術だ。知らないのかな?』
証明手段はねぇが限りなく白...か。ここで殺しちゃ本末転倒だよな。
「...疑って悪かった」
『構わなないとも...話を戻すが、勝負の分かれ目は一年後に行われる〈聖女選別の儀〉にある。用意した聖女を聖女選別戦で勝たせ――権力を得る。それが今の目的だ』
「聖女?」
『聖女とは...あーいや、君は地球出身かい?』
「一応」
『なら|法王《宗教組織における最高指導者》と言った方が分かりやすいかな?』
頷きで返す。
『よろしい。君達には今後、王都で聖女の護衛及び潜入を務めて欲しい。明日からだ』
「護衛を?」
『ノアから聞いているよ。その若さで、かなりの実力らしいじゃないか。私としては見た目も考えて、是非君にやって欲しいんだが』
「潜入は構いませんが、護衛は...ごめんなさい。自分に自信が持てません」
『だってよ都市長。まっ大人しく第一プランでやろうぜ?』
『ムゥ...仕方ないか。だが潜入は頼めるかな?』
...後悔してばっかだな。
「少し...考えさせてください。明日には答えを出します」
『構わないとも...良かったら、聖女の元に行ってみたらどうかな?年も近いし、良い話相手になるだろう。場所は――』
『はいそこまで〜流石に機密情報は言っちゃ駄目でしょ。明日にはどうせ会えるんだからーこんな難しい話はとっとと終わりにして、あいすぶれいくと行こうぜ!』
『使い方間違ってるぞ。ノア』
『ウソーン。まあ細え事は気にすんなよ!』
室内の空気が和やかなものへと変化する。
『夢でも語るのかい?』
『おーいいねそれ!んじゃ時計周りにーよろしくぅ!』
『人によっては余りにいい気持ちはしないだろうから。私は控えよう』
都市長がそう言い切った後、ノアが口を開く。
『つれねぇなぁ...まっ俺ちゃんは言っちゃうけどね。俺ちゃんはやっぱり、世界を救う事っしょ。魔王をぶち殺して、身近な奴を助ける。兄弟とか〜親とかなそれが俺ちゃんの夢、シンプルで良いっしょ』
『自分で言うのかい?』
笑いながらルベルトが返し、蘇我も会話に加わり輪が生まれる。
数分もすれば、順番がどうとか...夢がどうとかの話題から逸れ始める。
ただそれぞれの生まれの話や、友達の話、人生の話へ変わっていく。
傍観していた柴田は、やがて気づく。自分には自分の歴史が無い事に。
イリスや、マハト...イスやあの男にだって...きっと今までの歴史《人生》があった筈だ。
自分だけは無い。大した理想も無く、他人を思いやった夢でも無い。ただ本能的な死への恐怖、死にたくないと言う思いだけで今まで生き抜いてきた。勝って他人の夢を潰した。
俺以外の皆は、今まで生きてきた芯がある。俺には...何も無い。
流れに任せて生きて行くしかない。俺だけが、皆と違う。
「ちょっと出ます。そろそろ暗くなるんで」
『ああ、"またな"』
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エレベータで降った後、ビルを後にする柴田君を見た時、焦った。何せ今まで探してきた物を渡せないかもしれなかったから。
「ちょっと待って!」
そう大声で叫べば。柴田君は振り返る...普段トゲトゲしいだけで、こう言う所は結構素直だ。
「ハァ〜君にこれを渡したくてね」
『何だ...この靴』
「これは君に渡した手袋の靴版だよ」
『急に...どうして』
「君が心配だからだ。大人として本当に情けないが、君の悩みは多分理解出来ないし、何とかもしてあげられない。だけど援助は出来ると思ってね。探してきたんだよ」
と言っても、他人の気持ちを察する事は得意じゃ無いし...そう言うのは私の役目じゃなかったからね...こんな時に、彼がいてくれたらなー
『...ありがとう』
「喜んでくれて何よりだよ」
この優しさすら、今の彼女を追い詰めてしまう。そう、彼女の顔が示していた。
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『天使、これで良いんだな?』
「まあ良いんじゃない?あー可哀想に、追い詰められちゃった」
『疑問を疑問で返すんじゃねぇよ。しかも指示したのお前だし』
「まー大丈夫大丈夫。多分立ち直るから」
『...根拠は?』
「経験則、探索者の気持ちは探索者しか理解出来ないよ」
『んだそれ...で俺ちゃんのやるべき事は?』
「ちょっと本気で芝居した方が良いんじゃない?ああ後――覚悟しといた方が良いよ。君にはキツイから」
『ッチ...俺ちゃんがキツイなら別に構わねえよ。そんくらいの覚悟はしてある』
そう言う事じゃないんだけどなぁ。
太陽は地平へ沈み、昼の光を名残惜しむように空を染めていた。
青だった空は次第に朱と橙へと移り、雲の縁が燃えるように輝く。その下で、街も野も影を長く引き伸ばし、世界は静かな輪郭だけを残していく。
光が弱まるにつれ、風は冷たさを帯び、昼の喧騒は遠のいて行く。
やがて太陽の姿は完全に隠れ、残照だけが空の端に滲む。昼と夜の境目――そのわずかな時間、世界は息を潜め、次の戦いを迎える準備をしているかのようだった。
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『情報は事前に説明した通り。目標は聖女と赤髪』
『まーじで?そんなガチガチでやんの?』
『傲慢さんから送られた映像見てるやろ。ただの餓鬼思たら死ぬで』
『私としても警戒を勧めますね。淑女』
『もーしゃーないなぁ。分かってるって』
『話は済んだか?』
7:00 p.m.
――行動開始




