「リョウ……お前、本当にすごいな!魔法使いか!?」
リョウは、引いてきたリヤカー屋台の前に立ち、深く息を吸い込んだ。
(よし、今あるスキルで、この場を凌ぐ。そして、最高の驚きを届けるんだ!みんな、驚けー!)
彼の頭の中で、様々な日本の屋台料理が駆け巡る。
手軽に提供でき、見た目も華やかで、老若男女に愛されるもの……。
(そうだ、クレープだ!これならいける!)
薄く焼いた生地に、甘いクリームやフルーツ、あるいは惣菜を包む。
シンプルな材料で、無限のバリエーションを生み出せる。
そして何より、その場で焼きたてを提供できるのが魅力だ。
一人でも効率的に、次々と提供できる。リョウは心の中で強く願った。
( 屋台、クレープ! )
屋台は淡い光の粒子に包まれ、その形を変えた。
薄いクレープ生地を焼くための直径40センチほどの丸い鉄板がせり上がってきた。
引き出しからは、小麦粉、卵、牛乳、砂糖、溶かしバターといった生地の材料に加え、純白の生クリーム、様々な種類の果物(この世界にあるもの、特にバナナらしき黄色い果物)、そしてチョコレートソース、キャラメルソースといったこの世界では見慣れない調味料も揃って出てきた。
「こ、これは……!形が変わった!?信じられない!」
エリナが驚きに目を見張る。
リオンとガウルも、目の前の変化に呆気に取られている。
「リョウ……お前、本当にすごいな!魔法使いか!?」
ガウルが感嘆の声を上げた。
リョウは手際よく調理に取り掛かる。
まず、大きなボウルに小麦粉、砂糖を入れ、泡立て器で軽く混ぜる。
そこに溶いた卵と牛乳を少しずつ加えながら、ダマができないようになめらかになるまで混ぜていく。
最後に溶かしバターを加え、さらによく混ぜ合わせ、なめらかなクレープ生地を完成させた。
甘く香ばしい匂いが広場に漂い始める。
熱した丸い鉄板に薄く油をひき、お玉で生地をすくい、ジュワァ、という音と共に鉄板の中心に流し込む。
専用の道具で生地をクルクルと薄く、均一に広げる。
あっという間に生地は鉄板の上で広がり、縁がフツフツと泡立ち、焼けていく。
片面に焼き色がついたら、素早くヘラでひっくり返し、もう片面もサッと焼く。
焼き上がった薄いクレープ生地は、皿の上に広げられる。
リョウは、三種類のクレープを次々と作り始めた。
まずは「シンプルホイップクレープ」だ。
焼き立ての生地に、真っ白でふわふわの生クリームをたっぷり乗せて、くるりと巻き上げる。
生地の香ばしさと生クリームの優しい甘さが際立つ、基本中の基本だ。
次に、リオンとガウルが特に喜びそうな「チョコバナナクレープ」。
焼き立ての生地にたっぷりの生クリームを乗せ、皮をむいたバナナらしき黄色い果物を惜しげもなく並べる。
その上から、トロリとしたチョコレートソースをたっぷりとかけ、生地を丁寧に巻き上げていく。
チョコレートとバナナの甘く濃厚な香りが、さらに食欲を刺激する。
そして、道中で見つけたあの「甘い木の実」を使った「木の実キャラメルホイップクレープ」だ。
生地に生クリームと共に、細かく刻んだ「甘い木の実」を散らす。
仕上げに、甘く香ばしいキャラメルソースを芸術的にあしらい、丁寧に包み込む。
「よし、できたぞ!お待たせ!」
リョウが次々とクレープを焼き、提供していった。
初めて見る「クレープ」に、広場を行き交う人々が足を止める。
特に、その鮮やかな見た目と甘い香りは、人々の好奇心を強く刺激した。
「なんだ、あの屋台は?」
「見たことのない、それに甘い匂いがするぞ!たまらない!」
一人で黙々とクレープを焼き続けるリョウ。
リオンとガウルは、その見事な手際に感心しつつ、出来上がったクレープを人々に手渡す手伝いを始めた。
一口食べた人々は、その場で驚きの声を上げた。
「う、うまいっ!!こんなに薄いのに、こんなに甘くて美味しいなんて!まるで天国だ!特にこの黒いソース(チョコレートソース)と果物の組み合わせが最高だ!」
「この白いクリームが、とろけるように口の中で広がる!まさに夢のようだ!これはやばい!」
「なんだ、この甘い実のクレープは!キャラメルソースとよく合って、今まで食べたことのない味だ!」
甘露りんご飴や黄金大学芋を待っていた人々も、クレープのあまりの美味しさとバリエーションの豊かさに、あっという間に虜になった。
リョウの屋台の前には、すぐに長蛇の列ができあがった。
隣でホットドッグを売っていた屋台は、客足が完全に途絶え、呆然とリョウの屋台を見つめていた。
午前中の目玉は、完全にリョウのクレープ屋台が独占した形となった。
正午を過ぎた頃、エリナが駆け寄ってきた。
「リョウ様!特産品の [甘露りんご] と [黄金芋] が、ようやく届きました!お待たせしました!」
「おお、よかった!これで午後の部もいけるぞ!」
リョウは安堵の声を上げた。
リョウは、午前中のクレープで培った熱気を失わないよう、すぐに次の作戦に取り掛かる。
( 屋台、りんご飴&大学芋! )
屋台は再び形を変え、りんご飴の鍋と大学芋のフライヤーが出現した。
リオンとガウルも、新しいメニューの準備を手伝うべく、リョウの指示に従い始めた。
リョウは、これまでの経験で得た効率的な調理法を駆使し、次々と甘露りんご飴と黄金大学芋を作り上げていく。
午後の部では、午前中のクレープでリョウの屋台に惹きつけられていた客層に加え、ギルドマスターが当初目論んでいた「特産品を活用した新たな食」を求める人々が押し寄せた。
「あの甘いりんごの菓子、美味そうだ!早く食べたい!」
「このお芋の菓子も、見たことがないな!試してみるか!」
特に、外から来て午前中にクレープを食べて感動した人々が、午後に特産品を使った新しい料理があることを知り、再び列に並ぶ光景も見られた。
甘酸っぱいりんご飴と、ホクホクで甘じょっぱい大学芋は、クレープとはまた異なる魅力で人々を惹きつけた。
祭りが終わり、リョウが宿に戻ると、エリナとギルドマスターのグラハムが待っていた。
「リョウ様!本日は、本当にありがとうございました!大成功です!」
エリナが深々と頭を下げた。
「まさか、あのような状況から、あれほどの成功を収めるとは……信じられん!」
グラハムも、満足そうにリョウを見つめていた。
「リョウ殿、見事だった。まさか、あの窮地から、さらなる『新たな食』を生み出し、そして午後の特産品も完璧に提供するとは……君のその能力と、何よりもその機転と実行力には感服した。天晴れだ!」
ギルドマスターの言葉に、リョウは安堵と達成感で胸がいっぱいになった。
エリナが申し訳なさそうに
「ギルドマスター、申し訳ありませんでした。特産品が間に合わず……」
深々と頭を下げて謝罪すると、
「いや、構わぬ。むしろ、リョウ殿の真価を我々に見せつけた形になった。リョウ殿の屋台は、我々の想像を遥かに超える可能性を秘めているようだ」
グラハムは、静かに言った。
「今回の功績をもって、君の商人ギルドカードの信用ランクを上げる。ランクは一つ上へ”アイアン”から”ブロンズ”クラスに引き上げよう。ギルドは、今後も君の活動を全面的に支援する。君は、このエクレアの、ひいてはこの国の食文化を牽引する存在となるだろう」
リョウは、ギルドマスターの言葉に、これまでの苦労が報われたような気がした。
リオンとガウルも、満面の笑みでリョウの肩を叩く。
「やったな、リョウ!これで俺も胸を張れる!」
「すげぇぞ!リョウの飯が、この町で一番になったぞ!最高だ!」
リョウは、二人とエリナ、そしてギルドマスターに深く頭を下げた。
「ありがとうございます!これからも、皆に最高の『食』を届けられるよう、精一杯頑張ります!」
交易祭は大成功に終わり、リョウは新たな一歩を踏み出した。
彼の異世界での物語は、ここから本格的に幕を開けるのだった。




