「え、あの屋台の兄ちゃん、貴族と知り合い!?」
交易祭の大成功から数日後、リョウは宿で今後の旅路について思案していた。
エクレアでの商売は順調で、生活には困らない。
「このままここで悠々自適に暮らすのも悪くないな。でも、それじゃもったいないよな、せっかくの異世界!そしてこのチートスキルが!」
彼の心の中には、まだ見ぬ世界への探究心と、自分の「屋台」スキルがどこまで通用するのかを試してみたいという強い思いがあった。
「そろそろ、この町も落ち着いてきたしな……次はどこに行こうかな?」
窓の外に広がるエクレアの活気ある街並みを眺めながら、リョウは呟いた。
リオンは町の情報収集に、ガウルは新たな食材の物色にと、それぞれ町へ繰り出している。
彼らもまた、リョウの旅の意思を尊重してくれるだろう。
「次は、北の町に行ってみるか……いや、海がある町も面白そうだな。魚介系の屋台とかも出してみたいし!」
リョウが地図を広げ、次の目的地に思いを馳せていると、宿の扉がノックされた。
顔を出すと、そこに立っていたのは、見慣れないが非常に上等な衣服を身につけた、いかにも貴族然とした男性と、その護衛らしき兵士だった。
「お初にお目にかかります、リョウ殿。私、このエクレアの領主、アルベール・フォン・エクレア卿の執事を務めております、セバスチャンと申します」
執事を名乗る男性は、恭しく頭を下げた。リョウは思わず目を丸くした。
「え、領主の執事!?なぜ!?」
「突然の訪問、大変失礼いたしました。実は、アルベール様が、リョウ殿にお目通りを願っております。先日の交易祭での貴殿のご活躍は、アルベール様のお耳にも届いており、深く感銘を受けておられるご様子で」
セバスチャンの言葉に、リョウは驚きを隠せない。
まさか、ギルドマスターだけでなく、領主までもが自分に注目しているとは。
( 俺、まさかこの世界で成り上がっていくのか!? )
「お、わ、私に、領主様が……?」
「はい。つきましては、恐縮ですが、今からお供願えませんでしょうか?馬車をご用意しております」
リョウは、事態の大きさに少し怯みながらも、宿の女将さんにリオンたちへの伝言を頼み、セバスチャンの案内で領主の館へと向かうことになった。
宿を出ると、通りを歩く人々が、リョウが貴族の執事に連れられていく姿を物珍しそうに見つめていた。
「え、あの屋台の兄ちゃん、貴族と知り合い!?」
なんて声も聞こえてくる。
領主の館は、町の中心部から少しそれた場所にそびえる壮麗な建物だった。
厳重な警備を抜け、豪華な応接室に通されると、そこにいたのは白髪交じりの威厳ある男性、アルベール・フォン・エクレアその人だった。
「ようこそ、リョウ殿。私がエクレアの領主、アルベールだ。面を上げよ」
リョウは恐る恐る顔を上げた。アルベールの目は鋭いが、同時に知性を感じさせる穏やかさも宿している。
「交易祭での君の活躍、見事だった。特にあの [クレープ] と、この町の特産品を活かした [りんご飴] と [大学芋] は、人々を大いに沸かせたと聞いている。ギルドマスターからも報告を受けているが、君の屋台が持つ能力は、まさにこのエクレアに新たな可能性をもたらすものだと、私は確信した。まさに奇跡の屋台だな!」
アルベールはそう言って、リョウを真っ直ぐに見つめた。
「そこで君を呼んだのは、他でもない。君にこのエクレアの発展のため、協力してほしいことがある。君の屋台の技術と、君の生み出す『食』の力で、この都市の経済と文化を、さらなる高みへと引き上げてはくれまいか?ぜひ、我がエクレアのために力を貸してほしい!」
アルベールからの言葉は、ギルドマスターの依頼とは比べ物にならないほど大規模なものだった。
それは、一介の商人としてではなく、この都市の未来を左右するような、重責を伴う申し出だった。
リョウは、その申し出の大きさに言葉を失った。
「そ、それは……大変光栄なお話ですが……わたくしのような若輩者が、そのような大役を担うなど、恐れ多くて……」
リョウは、正直な気持ちを口にした。
まさか、町の、いや、この領地の経済と文化を担ってほしいと言われるとは、想像もしていなかったのだ。
アルベールは穏やかに微笑んだ。
「謙遜する必要はない、リョウ殿。君の才能は、私がこの耳で聞き、そしてギルドマスターの報告でも確信した。それに、私は君に、無理強いをするつもりはない。あくまで、私の願いだ。君が、このエクレアで得られるものは大きい。最高の研究環境と、必要な物資の提供、そして何より、君の『食』の力を最大限に活かせる舞台を用意しよう。これまでの報酬とは比べ物にならない破格の待遇も約束しよう」
アルベールの言葉は魅力的だった。
最高の環境で「食」の探求ができる。
それは、リョウにとって何よりの誘惑だった。
しかし、彼の心の中には、まだ見ぬ世界への旅立ちへの思いも強く残っている。
「ですが、私は、まだこの異世界の様々な場所を見て回りたいという思いがありまして……」
リョウは正直に自分の胸の内を明かした。
アルベールはそれを聞くと、少しだけ眉をひそめた。
「なるほど……それは残念だ。しかし、君の才覚を惜しむのは私だけではないだろう。このエクレアが、君にとっての終着点ではないというのなら、私も無理強いはしまい。だが、もし君が、一時でもこのエクレアに力を貸してくれるのなら、私は君のその後の旅を、全力で支援することを約束しよう。例えば、安全な街道の確保や、他の都市の有力者への紹介状、あるいは特別な護衛の手配なども可能だ。」
アルベールの言葉は、リョウの心に大きな波紋を投げかけた。
それは、旅の支援という、彼にとって非常に魅力的な提案だった。
確かに、この領地の経済と文化を担うのは大きな責任だ。
だが、そこで得られる経験と、領主直々の支援は、今後の旅路をどれほど助けてくれるだろうか。
( 領主直々の招待で何かと思ったら.....これは断りにくいな……。でも、ここで得られる経験は、きっと次の旅にも活かせるはずだ。それに、この都市でもっとスキルを磨くのも悪くない!これは、もうやるしかないだろ! )
リョウは、旅への思いと、目の前の大きなチャンスの間で葛藤した。
しかし、彼の好奇心と、自分の「食」で人々に貢献したいという思いが勝った。
「……分かりました。領主様。このリョウ、お引き受けいたします!精一杯務めさせていただきます!」
リョウは深々と頭を下げた。アルベールは満足そうに頷いた。
「うむ、良い返事だ。期待しているぞ、リョウ殿。具体的な準備については、追って執事のセバスチャンから説明させよう。何か困ったことがあれば、遠慮なく私かセバスチャンに相談しに来るように」
リョウは「はい!」と力強く答えた。
その日の夕食時、リョウは宿に戻ってきたリオンとガウルに、領主からの依頼について話した。
二人はリョウの話を真剣な表情で聞いていた。
「なるほど……領主直々に、か。とんでもない話を持ってきたな、リョウ」
リオンが腕を組み、感心したように言った。
「すげぇぞ、リョウ!これでまた美味いものがたくさん食えるのか!?」
ガウルは目を輝かせ、興奮を隠しきれない様子だ。
リョウは、二人の反応に安心した。
「うん。でも、正直、すごく迷ったんだ。せっかく色々見て回りたいって思ってたのに、こんな大役を任されて……」
リオンはリョウの肩をポンと叩いた。
「お前の気持ちはよく分かる。だが、これはお前にとって大きなチャンスだ。それに、お前の『食』でこの町がもっと賑やかになるなら、俺たちも嬉しい」
ガウルも力強く頷いた。
「そうだぞ、リョウ!お前の料理は最高だ!きっと領主も、この町の奴らも、お前の作るもんで、もっともっと元気になれる!」
二人の言葉に、リョウは自然と笑みがこぼれた。
「ありがとう、二人とも。心強いよ。よし、頑張るぞ!俺の腕の見せ所だ!」
こうして、リョウはエクレアの領主の依頼を受け、この都市の「食」の未来を担うことになった。
領主からの招致を受け、リョウはエクレアでの活動拠点を領主直轄の区画に置くことになった。
以前の広場よりも、さらに人通りの多い、町の中心部に近い場所だ。
ギルドからの支援も手厚くなり、リオンとガウルも正式にリョウの専属護衛兼助手としてギルドに登録された。
「リョウ、これで俺たちも名実ともに『食の魔法使い』の仲間入りだな!最強のチームだぜ!」
リオンとガウルが満面の笑みで言う。
「ああ、頑張るぞ!みんなで一緒に盛り上げていこう!」
リョウも気合を入れ直した。
領主直属の立場となったことで、リョウの屋台は一躍注目を集めた。
これまでのホットドッグやクレープ、りんご飴、大学芋に加え、リョウは都市の人々のニーズと、自身の新しい試みを組み合わせた屋台の展開を考え始めた。




