「さて、味見だ!覚悟しろよ、二人とも!」
ギルドマスターからの大役を引き受けたリョウは、これまでのんびりとしていた日々が一変し、俄然忙しくなった。
まるで仕事モードに切り替わったかのように、彼のスイッチが入った。
数日後、ギルドから交易祭の担当者と名乗る女性がやってきた。
彼女は初日にギルドまで案内してくれた女性で、受付のギルド職員とは違う、より実践的な雰囲気を持っていた。
「リョウ様ですね。私は交易祭の屋台部門担当、エリナと申します。ギルドマスターから、あなたの屋台の件を伺っております」
エリナは、リョウの屋台を前にすると、興味深そうに目を輝かせた。
「これはまた……素晴らしい屋台ですね。噂には聞いておりましたが、実際に拝見すると、その精巧さに驚かされます。まるで美術品のようだ!」
リョウは、エリナの言葉に少し照れた。
「はは……ありがとうございます。これでも、色々苦労してるんですよ」
「さて、本題に入りましょう。交易祭は一ヶ月後です。それまでに、あなたにはいくつかの準備をお願いしたい」
エリナは、一枚の羊皮紙を取り出し、そこに書かれた内容を説明し始めた。
「まず、祭りで提供する『新たな食』の考案です。ギルドマスターは、単なる珍しさだけでなく、この町の、ひいてはこの国の象徴となるような、独創的なものを求めています。そして、その食材調達。ギルド側でも可能な限り協力しますが、基本的にはご自身で手配していただきます」
リョウは内心で
( うわあ、ハードル高いな……まるで料理の◎人みたいだ! )
と思ったが、エリナの真剣な目に気圧され、真面目に頷いた。
「次に、衛生面と効率性を高めるための改善です。あなたの屋台は素晴らしいですが、祭りのような大規模な場所では、より多くの客を捌く必要があります。何か、改善できる点があれば、ギルド側で職人を手配することも可能です」
「え、職人さんまで!?至れり尽くせりすぎるだろ!」
リョウは驚いた。
「はい。ギルドマスターは、今回の件に大変期待されていますので。あとは、祭りの宣伝活動にも協力していただきたい。あなたの屋台の評判はすでに高いですが、さらに多くの人々に知ってもらう必要があります」
エリナの説明は、実に具体的で実践的だった。
リョウは必死にメモを取り、頭の中で計画を立て始めた。
「わ、分かりました!頑張ります!このエリナさんの期待にも応えてみせます!」
エリナは満足そうに頷くと、最後に付け加えた。
「ギルドマスターからもお話があったかと思いますが、あなたの屋台のその『変化』の能力を最大限に活かし、この町の特産品である [甘露りんご] や [黄金芋] 、この2つの食材をぜひ魅力的な『新たな食』へと昇華させてください。それが、祭りをさらに盛り上げる鍵となるでしょう。期待していますよ、リョウ様」
リョウは、エリナからのアドバイスと、二人の頼りになる仲間たちの期待を背負い、交易祭に向けての新たな挑戦を心に誓うのだった。
彼の脳裏には、みんなが驚くような「新たな食」のイメージが、少しずつ形になり始めていた。
ギルドマスターからの大役を引き受け、リョウは早速 [甘露りんご] と [黄金芋] を使った新たな「食」の考案に取り掛かった。
宿の部屋に戻ると、リオンとガウルも興味津々でリョウの様子を見守っている。
「リョウ、どんな美味いものができるんだ!?今度は何だ!?」
ガウルが目を輝かせて尋ねた。
リョウは腕を組み、頭の中で日本の屋台料理のレパートリーを巡らせていた。
( 甘いリンゴとホクホクの芋か……。祭りの目玉にするなら、ただ焼いたり煮たりするだけじゃつまらない。町を歩いて見てきたけど、この世界じゃ肉を焼いたものや簡単なスープばかりで、あまりデザートらしいものがなかったな。見た目も華やかで、手軽に食べられるものがいい…… )
その時、彼の脳裏に、日本の祭りで見た甘く輝く赤い果実のイメージが鮮やかに浮かんだ。
( そうだ、りんご飴だ! [甘露りんご] の甘さと酸味に、パリパリとした飴のコーティング。見た目も可愛らしく、子供から大人まで楽しめる。これなら、祭りの雰囲気にぴったりだ! )
そして、 [黄金芋] 。
ホクホクとした食感の芋に合うのは……。
( フライドポテトもいいけど、もっとインパクトがあって、この世界の人が驚くようなものがいいな……。やっぱり、大学芋だな!甘じょっぱくて、やみつきになるやつ! )
甘じょっぱいタレと、香ばしいごまの風味が食欲をそそる。
細長く切れば片手でつまんで食べやすく、腹持ちも良い。
リョウは、二つのアイデアが閃いたことに興奮を隠せない。
「よし、決めた! [甘露りんご] はりんご飴に、 [黄金芋] は大学芋にする!これで決まりだ!」
リオンとガウルは、聞き慣れない言葉に首を傾げたが、リョウの自信に満ちた表情を見て、期待に胸を膨らませた。
「りんごあめ?だいがーくいも?一体どんなものなんだ、リョウ!もしかして、またとんでもなく美味いのか!?」
ガウルが身を乗り出した。
「それは、作ってからのお楽しみだ!きっと驚くぞ!」
リョウは宿の部屋の隅にある小型化した屋台の元へ行き、心の中で強く願った。
( 屋台、りんご飴&大学芋! )
屋台は再び淡い光に包まれ、その形を変えた。
鉄板は消え、代わりに飴を煮詰めるための小さな鍋と、揚げ物ができる深さのフライヤーがせり上がってきた。
試食としてもらっていた艶やかな [甘露りんご] 、黄金色の [黄金芋] を用意し、そして引き出しから砂糖、油、醤油、みりん(リョウにはそう見える)にゴマといった調味料を出す。
「おお、これで準備は完璧だ!いつでも来い!」
リョウは早速調理に取り掛かった。
( さぁ、華やかなりんご飴、やみつき大学芋を作るぞ! )
まずはりんご飴だ。
リョウは、艶やかな [甘露りんご] のヘタを取り除き、中央に太めの木の串をしっかりと刺した。
次に、屋台の鍋にグラニュー糖をたっぷり入れ、少量の水を加えて火にかける。
最初はサラサラだった砂糖が、熱によって徐々に溶け始め、ブツブツと泡立ちながら、透明な液体が徐々に琥珀色へと変化していく。
甘く香ばしい飴の匂いが部屋いっぱいに広がり、リオンとガウルが興味深そうに鍋の中を覗き込む。
「熱いから気をつけろよ」
リョウはそう言いながら、煮詰まった飴の中に串に刺したりんごをくぐらせた。
りんごをくるくると回し、均等に、そして薄く飴をコーティングしていく。
飴が固まらないうちに手早く作業を進め、飴でコーティングしたりんごを、油を塗った銅板にのせて冷ます。
熱が冷めると、飴の層はツヤツヤと輝き、パリパリに固まる。
「うわぁ、すげぇ綺麗だ!まるで宝石みたいだぞ!」
ガウルが思わず声を上げた。真っ赤なりんごが透明な飴の膜に包まれ、部屋の明かりを反射してキラキラと輝いている。
次に大学芋に取り掛かる。
リョウは、ホクホクとした [黄金芋] を手に取り、皮をむくと、包丁で一本一本、長さ5~6cm、太さ1cm角のスティック状に丁寧に切り揃えていく。
見た目にも美しい、均一な形だ。
水に晒してアクを抜き、よく水気を切っておく。
次にフライヤーに油を注ぎ、中温に熱する。
切り揃えた [黄金芋] を静かに油の中に入れていくと、ジュワワワ、という小気味良い揚げ音が響く。
芋は熱い油の中でゆっくりと揚がり、表面がカリッと、中はホクホクとした黄金色になるまでじっくりと火を通す。
芋を揚げている間に、もう一つの鍋でタレを作る。
引き出しから取り出した醤油と、みりん(リョウにはそう見える甘い酒)、そして砂糖を適量合わせ、火にかける。
焦げ付かないように混ぜながら、とろみがつくまで煮詰める。
甘じょっぱい香りが立ち上り、食欲を刺激する。
揚がったばかりの [黄金芋] を油から引き上げ、熱いうちにこの特製の甘じょっぱいタレの中に投入。
手早く芋とタレを絡ませ、全体に艶が出るように混ぜ合わせる。
最後に、香ばしい黒ごまをたっぷりまぶし、器に盛り付けた。
ホクホクとした芋と甘じょっぱいタレの組み合わせは、想像するだけで食欲をそそる。
「さて、味見だ!覚悟しろよ、二人とも!」
リョウは、最初に完成した [甘露りんご] 飴と黄金大学芋をリオンとガウルに差し出した。
リオンは、真っ赤に輝くりんご飴を手に取り、恐る恐る一口かじった。
パリッとした飴の食感の後に、甘酸っぱいりんごの果汁が口いっぱいに広がる。
「これは……!見た目も美しく、味も素晴らしい!甘さの中に、りんごの爽やかさが生きている!なんという芸術品だ!」
リオンは目を輝かせ、もう一口、今度は大きくかぶりついた。
ガウルは、大学芋を豪快に口に入れた。揚げた芋の香ばしさと、甘じょっぱいタレのコクが口の中で広がり、その顔はみるみるうちに幸福感に満たされた。
「う、美味いっっ!!なんだこれ!芋なのにこんなに甘くて美味いのか!!止まらねぇ!!」
ガウルは熱い大学芋を口の中でハフハフさせながらも、次から次へと手で掴んで口に運び、皿はあっという間に空になった。
二人の大絶賛に、リョウは安堵の息を漏らした。
「よかった……これなら、交易祭でも通用する!これで一安心だ!」




