「もっとちょうだい!おじさん、これもう一本!」
講習を終え、リョウはリオンとガウルと合流した。
「どうだった、ギルドの講習は?」リオンが尋ねた。
「うん、すごく勉強になったよ!場所代のこととか、品質管理のこととか、色々なルールがあるんだね。これでバリバリ商売できるぞ!」
リョウは興奮気味に答えた。
「まずは宿を探すか。それと、リョウの服も何とかしないとな」
リオンが周りを見回しながら言った。リョウは自分の服を見下ろした。リオンに借りた服はサイズが合っていなく、町の人々から見るとやはり異質なのだろう。まるで借りてきた服を着ているかのように、不自然な姿だった。
「そうだな……早くこの格好何とかしたい。さすがに恥ずかしいぞ」
エリナも「確かに、そのお召し物では少々目立ちますわね」と同意した。
またまたリオンにお金を借り、近くにあった服屋でシンプルな上着とズボン、そして靴を調達した。サイズもぴったりで、ようやく町の風景に馴染めるような気がした。
服を調達後、彼らは宿を探しながら、町の様子をさらに詳しく観察した。町の通りは石畳で舗装され、両側には石造りの建物が規則正しく並んでいる。建物の窓からは、様々な装飾品や食料品が見えた。人々の服装も村とは異なり、色鮮やかで装飾が施されている。
「村と全然違うな……本当に大きな町だ。まるで別世界に来たみたいだ!」
エリナも目を輝かせ、「本当に!わたくし、こんなに大きな町は初めてですわ!」と興奮気味に言った。
いくつか宿を回った結果、町の賑やかな通りから少し外れた場所に、手頃な値段で泊まれそうな宿を見つけた。宿屋の主人は、恰幅の良い人族の女性で、リオンとガウルという大きな獣人二人の姿に最初は驚いていたが、彼らが常識をわきまえていることを知ると、快く部屋を提供してくれた。
「よかった、泊まれる場所が見つかって。これで安心して寝れる!」
リョウは安堵した。宿の部屋は質素だが清潔で、リョウはすぐにでも横になりたい気分だった。
「まずは一息つくか……ドカッと座りたい」
リオンとガウル、そしてエリナも、リョウが荷物を部屋に運び入れるのを見届けると、リオンが口を開いた。
「リョウ、この町では、屋台を広げる場所は限られている。宿に屋台を置いておくわけにもいかないだろう。どうするつもりだ?」
リョウは、リオンの言葉にハッとした。
「そうか……村とは違って、屋台を気軽に置いておける場所は少ないのか……」
確かに、町の中心部にこのままの屋台を置いておいたら、邪魔になるだろうし、盗まれるかもしれない。
かといって、宿の部屋に入る大きさではない。
(どうしよう……せっかくギルド登録したのに、屋台を宿に置いておけないとか……このままじゃ、町中で野宿になっちまう!)
リョウは、頭を抱えた。
その時、ふと、屋台がリヤカー型に変形した時のことを思い出した。
あの時は、リオンが屋台を引くために、移動ができたら......と考えたら形を変えた。
もしかしたら、小さくなるように考えたら屋台をコンパクトにできないだろうか?
リョウは、宿の部屋の隅に、屋台を置くイメージを強く心に描いた。そして、心の中で強く願った。
( 屋台、小型化! )
すると、屋台は淡い光の粒子に包まれ、フワリと宙に浮かび上がった。
そして、みるみるうちに形を変え、リョウの背丈ほどの、木製の小さなカートのような姿になった。
車輪も小さく変形され、持ち運びやすいように取っ手までついている。
その上部には、屋台の暖簾と提灯が、そのままミニチュアになって可愛らしく収まっていた。
「……できた!持ち運び用のカートになったぞ!やったー!これは新発見だ!」
リョウは驚きと喜びの声を上げた。リオンとガウル、そしてエリナも、その光景に目を見張っている。
「これはまた……驚くべきものだな、リョウのスキルは!」
リオンが感嘆の声を漏らした。ガウルも大きく頷き、興味津々にカートを覗き込んでいる。
エリナは「まぁ、なんて可愛らしいのでしょう!これならどこへでも持ち運べますわね!」と両手を合わせて喜んだ。
「すごい……これでどこへでも持ち運べるぞ!移動販売も夢じゃない!」
リョウは、自分のスキルが持つ無限の可能性に、改めて驚きと興奮を感じた。
「これで、町の中でも商売ができるぞ!」
屋台の変形に成功し、一段落したリョウたちは、宿の食堂へと向かった。
食堂はすでに夕食時で賑わっており、様々な旅人や町の人々が食事を囲んでいた。
壁には動物の剥製が飾られ、暖炉では薪がパチパチと音を立てて燃えている。
リョウたちは空いてる席を見つけて座った。宿の女将がメニューを持ってやってくる。
「今晩の夕食は、森で獲れたばかりの肉の炙り焼きと、新鮮な野菜の煮込みでございますよ」
女将の言葉に、ガウルが目を輝かせた。「肉!肉をくれ!」
リョウも期待に胸を膨らませた。異世界の一般的な食事は、一体どんな味なのだろうか。
運ばれてきた肉の炙り焼きは、想像以上にシンプルだった。
皿には、こんがりと焼かれた獣肉の塊がドンと置かれている。
味付けは、おそらく岩塩だけだろう。
だが、その素朴さが、かえって肉本来の旨味を引き出しているようだった。
リオンは慣れた手つきで肉を切り分け、黙々と食べ始めた。
ガウルは豪快に肉にかぶりつき、あっという間に半分ほどを平らげてしまう。
「うん、美味いな!肉の味がしっかりしてる!」
リョウもフォークで肉を一口食べる。
確かに、余計な味付けは一切ないが、肉の旨味がぎゅっと凝縮されている。
これはこれで悪くない。
しかし、リョウの頭の中では、すでにこの肉を使って作れる様々な料理のアイデアが駆け巡っていた。
エリナも上品に肉を口に運び、「素朴ながら、素材の味が引き立っていて美味しいですわ」と微笑んだ。
(この肉を炒めてタレに絡めたり、野菜と一緒に煮込んだり……いや、もっといいのは、パンに挟んでみたり、だな……!)
リョウは、宿の素朴な料理を食べながらも、自分の「屋台」スキルが提供する料理の多様性と可能性を改めて実感していた。
宿での食事は、リョウの異世界での商売の舞台が、広大な草原の村から、活気あふれる交易都市『エクレア』へと移ったことを改めて意識させた。
そして、彼の屋台もまた、その環境に合わせて、新たな進化を遂げたのだった。
翌朝、リョウは商人ギルドへと向かった。
昨日の講習で学んだ通り、まずは屋台を出す場所を確保する必要がある。
ギルドのカウンターで、彼は「広場で屋台を出したい」と申し出た。
「広場の区画ですね。本日の使用料、銅貨1枚になります」
職員の言葉に、リョウは慣れない手つきで小銭入れから銅貨を1枚取り出し、カウンターに置いた。
これで、堂々と商売ができる。
ギルドを出ると、リョウはリオンとガウル、エリナと共に広場へと向かった。
すでにいくつかの屋台が軒を連ねていたが、まだ空いている区画も多い。
リョウは人通りの多そうな一角を選び、小型化した屋台を設置した。
「よし、これで場所は完璧だ!」
リョウは意気揚々と小型カートの屋台前に何を作るか考えた。
「で、今日は何を作るんだ?またあの [焼きそば] パンか?」
道中で試しに作ってみた [焼きそば] パンが、いたくお気に入りとなったリオンが期待に満ちた目で言った。
リョウは首を振った。
「いや、今日は違うものに挑戦しようと思って。この町の人たちがまだ知らない、もっと簡単に作れて、手軽に食べられるもの……」
リョウは、町の活気ある通りを歩きながら、行き交う人々を観察した。
彼らは皆、忙しそうに歩いており、立ち止まってゆっくり食事をする時間がないようだった。
「手軽に、片手で食べられるものがいいな……ファストフード的なやつ!」
その時、彼の脳裏に、かつて日本の街角で見た光景が鮮明に浮かび上がった。
子供から大人まで、誰もが笑顔で頬張る、あのシンプルな食べ物だ。
( そうだ、ホットドッグだ! )
ソーセージをパンに挟むだけ。
シンプルながらも、肉の旨味とパンの組み合わせは間違いなく人々に喜ばれるはずだ。
それに、 [焼きそば] パンよりもさらに調理工程が少なく、素早く提供できる。
リョウは心の中で強く願った。
( 屋台、ホットドッグ! )
屋台は淡い光に包まれ、その形を変えた。
鉄板がわずかにへこんでソーセージを焼くための溝ができ、その横にはパンを温めるための小さなオーブンらしきものが現れる。
引き出しからは、すでに焼かれた美味しそうなコッペパン、そして艶やかな皮が食欲をそそるソーセージが完璧に揃って出てきた。
まるで、温かいパンに挟まれるのを今か今かと待っているようだ。
「おお、またしても完璧なラインナップだ!スキルさん、ありがとう!」
リョウは手際よく調理に取り掛かった。
まず、屋台の鉄板に薄く油をひく。
ジュワッと音がすると同時に、プリッとしたソーセージを溝に並べ始めた。
ジューッ、ジューッ、という心地よい音と共に、肉が焼ける香ばしい匂いが広場に漂い始める。ソーセージはみるみるうちに焼き色をつけ、皮がパリッと張りつめていく。
その横で、小さなオーブンにコッペパンを入れ、ほんのり温める。
パンはオーブンの熱でふっくらと柔らかくなり、香ばしさを増していく。
焼き上がった熱々のソーセージを一本、温められたコッペパンの真ん中に切れ込みを入れて挟む。
あとは好みでマスタードやケチャップ……いや、この世界にそういう調味料があるかはまだ分からない。まずはシンプルに提供しよう。
( シンプル・イズ・ベスト! )
「よし、できたぞ!」
リョウがそう声を上げると、初めて見るホットドッグに、最初は何事かと遠巻きに見ていた人々が、匂いに誘われるように徐々に集まってくる。
彼らは見たことのない形状の食べ物に、警戒と好奇心の入り混じった視線を向けていた。
リオンとガウルも、その匂いに興味津々でリョウの隣に立っている。
「なんだ、この匂いは!?また何か美味そうなものを焼いているのか!?」
リオンが驚いたように言った。
「すげぇ!美味そうだ!早く食わせろ!」ガウルも目を輝かせている。
「さあ、できたてだ!熱いから気をつけてくれよ!」
リョウは出来立てのホットドッグを二人に差し出した。
リオンは一口食べると、その大きな瞳を丸くした。
「っ……!これは!香ばしいソーセージの肉汁がジュワッと広がり、この柔らかいパンと見事に調和している!片手で気軽に食べられるのに、こんなに満足感があるなんて!」
ガウルはもはや言葉を発することなく、黙々とホットドッグを頬張る。
彼の大きな口いっぱいにホットドッグが吸い込まれていく様子は、見ているだけでこちらまで食欲を刺激されるようだ。
あっという間に一本を平らげると、すぐに二本目に手を伸ばしていた。
最初に手を伸ばしたのは、やはり子供たちだった。
恐る恐る一口食べると、その顔はみるみるうちに笑顔に変わっていく。
「う、うまいっ!!」
「なんだこれ!?肉とパンがこんなに合うなんて!」
「もっとちょうだい!おじさん、これもう一本!」
( お、おじさん……!?まだ20代なんだけどな……まぁ、異世界じゃあこんな顔してるやつが若者って認識じゃねぇのか?クソっ、ちょっとショックだ…… )
子供たちの無邪気な歓声を聞きつけ、大人たちも次々とホットドッグを求め始めた。
「ホットドッグは一本、銅貨3枚ですわ!」
エリナが、慣れないながらも笑顔で会計をこなしていく。
彼らは一口食べると、目を閉じ、そのシンプルな美味しさに唸る。
「おお、これは素晴らしい!忙しい時でも、これなら手軽に腹を満たせる!」
「こんな食べ物があったとは!これは流行るぞ!」
香ばしいソーセージの味、そして柔らかいパンの組み合わせは、この異世界の人々にとって新鮮な驚きだった。
リョウは次々とホットドッグを作り、あっという間に広場は行列で埋め尽くされた。
「リョウ、お前の飯は本当にすごいな!」リオンが興奮した声で言った。
ガウルも夢中でホットドッグを頬張っている。
「こんな美味いものを、こんな簡単に作れるなんて……お前はまさに、食の魔法使いだな!」
リョウは、人々の喜ぶ顔と、リオンとガウルの称賛の言葉に、これまでにない充実感を感じていた。
「やった……町でも通用するぞ!俺、いける!」
彼の異世界での商売は、好調な滑り出しを見せたのだった。




