28.太陽がいっぱい
さくらは仙斗のベッドでひとしきり泣いた。
泣き終えたさくらは地下室に戻った。
元々借りてたマンションはとっくに引き払ってしまっている。
さくらの財布も携帯も処分されてしまっていたようでどこにも無かった。
それに住み慣れたと言うと語弊があるが、1年以上も居た部屋にすっかり馴染んでいるのも実情だ。
仙斗の部屋をもっと漁れば財布なりお金なりは出てくるかもしれないが、すぐにそうするのは流石に気が引けた。
さくらは急に自由になった反動なのか、改めてこれまで歩いてきた道を振り返っていた。
選択肢はいくつもあった。
だが何度検証しても『登り続ける』と今に至る。
その事実は運命のように感じられる。
まるでトリモチを仕掛けられてガラスの靴が脱げることになったサンドリヨンのように。
紆余曲折を経て運命に導かれるように幸せになる。
その思いは今すぐに何か活動を起こさなければならないといった気力を削っていった。
朝方になりリビングのソファで紅茶を飲む。
リビングからは桜は見えない。
よく分からない設計だと思うが今はそれがありがたかった。
日の光は体内時計をリセットさせる。
さくらは徹夜の気怠い感覚に包まれていつの間にやら眠っていた。
ふと目が覚めると午後も大きく過ぎ日もだいぶ傾いていた。
ただ太陽はまだキラキラと輝いていた。
玄関先のロッキングチェアに腰掛ける。
舞台のような一面の砂利の庭はいやでもこれからの事を考えさせる。
さくらは団長にはずっと腹を立てていた。
運営費用に目をくらませる一方でそれが第一ではないと言葉を左右する。
新劇団を立ち上げた後は前の劇団から使えそうな人をスカウトしようか。
それとも一度は恩返し程度に貸切にすべきか。
いっそすべてオーデションでもいいかも知れない。
昔話ばっかりの演劇にもすっかり飽きていた。
物語の流れを覚えていたら練習時間は少なくて済むし、趣味の人とプロを目指す人を混在させるのならこの方法が最善というのも分かる。
だがもし、新劇団のこけら落としで自分自身の主役デビューというならオリジナルの脚本が欲しい。
ゆらゆらとチェアを揺らしながらさくらは幸せな物思いに耽る。
実際に活動しだすと大変なのは分かってる。
だからこそ今良いところだらけの妄想に耽るのは心地いい。
キラキラと輝く太陽を眩しそうに見たさくらはサンドリヨンを思い出していた。
偶然の積み重ねならばシンデレラだ。
各人の努力と決断の結果、運命をたぐりよせたのならばサンドリヨンだ。
もうどちらでもいいのだが。とも。
「太陽がいっぱい。」
桜はつぶやいた。
そういえばアランドロンが出てた映画の主人公も同じことを言ってた。
うろおぼえのストーリーを思い出そうとする。
確か、なにもない貧乏な青年が主人公だった。
そして最後は、豪邸のテラスで日向ぼっこしながら「太陽がいっぱい。」って呟いていた。
きっとあれはサクセスストーリーだったんだ。
今度それをオマージュしたようなミュージカルにしてもいいかも。
成り上がっていくサクセスストーリー。
もちろん私が主人公。
ああどうしよう。
これからすることがいっぱいだわ。
今まで足りなかった太陽を全身に浴びさくらはきらびやかな想像の世界に想いを寄せる。
そんな時呼び鈴が鳴った。




