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27.手紙

葉一は片方の口角を上げながら手紙を読んでいた。

バーテンの時とは明らかにいつもと異なる表情の皮肉屋っぽい笑顔だ。


椿はドアを開けるなり、そんな葉一を見て言った。

「どうしたの?それ仙斗君からの手紙よね?見せて。」


葉一は驚きを隠せない。

なぜ仙斗の手紙だと分かる?


固まる葉一に椿は笑う。

「友達なんていない葉一君にこのご時世わざわざ手紙を送る変わった人なんて仙斗君しかいないでしょ。となれば『連絡できない状況になった仙斗君が手紙で何かを依頼』って事かな。」


葉一は椿も同じく柳会長の部下なんだなと理解した。

確かにしょっちゅう店にやってくる椿に対して、葉一の知り合いとも言える人物は仙斗しか来た事がない。

その上で固まるというアクションを見せてしまっているのに誤魔化しても意味はない。

もとより今からする事は1人では困難なのだ。


「椿さん。弁護士さんか刑事さんかに知り合いはいませんか?。」

椿はカウンターの席に着きながら笑う。

「私、弁護士よ?」

葉一は再び驚いた。

「以前柳さんの会社の不動産部って言ってましたよね。あれ嘘だったんですか?」

椿は心外そうに言う。

「弁護士だからって弁護士業しなくちゃならない理由にはならないわ。宅地建物取引士の資格も持ってるし、他にもいろいろ資格は持ってる。」


衝撃を受ける葉一。

自分があれだけの想いを抱えてやってきた事は何だったのか。

当たり前に分かりきっている事ではあるが、それすら見えてなかった。

『受かってから何をするか』なのだ。

最大の人生の目標とはすべからく『生き抜く事』であるのだから。

目標を間違えて大学入試にすると、大学に受かっても受からなくても腑抜けのようになってしまうようなものだ。

受かる受からないでジタバタする程度では初めからお話にならないのだと。


椿の抜群の優秀さに軽い劣等感を抱きながら自嘲的な笑顔が浮かぶ。

「どうしたの?いきなり」

「子どもだったんですよ。何もかもが。」

そして続ける。

「ただ子どものまま大人になりたかったですね。」

意外に椿は真剣な表情でこたえた。

「矛盾だね。」

「はい。矛盾です。」


少し息を吐き葉一は言った。

「ところで仙斗が殺されてるかも知れないと言うと驚きますか?」


椿は落ち着き払って言った。

「突き詰める人は多かれ少なかれ『害』を持つの。自害性か他害性かどちらかは分からないけど。仮に他害なら害される人から反撃され亡くなる事もありえるわ。」


椿はアイコスをくわえる。

「あの子さくらちゃん誘拐したんでしょ。となればそのさくらちゃんに殺された。のもあり得るし、実はさくらちゃんに彼氏が居てその彼氏がってのもあり得る。でもこれは可能性としては少ないかな。ずっと夢に向かうのを応援してお迎え行ってたんだもんね。それなら高利貸し業やってたからそっち関係の方がよっぽどあり得るわね。叔父さんも行方不明だし。ただ手紙という事は仙斗君自身死ぬ可能性の自覚があった事になるわね。」


葉一はここぞとばかり賭けに出る。

「お願いがあるんです。」

椿は何を気負うことなく気軽に応える。

「私のできる事なら。」


葉一は話し出した。

桜の下に遺体が埋まっている事、さくらの気を引いてる間に確認して欲しい事、確認できたら警察を呼んで葉一にメールをして欲しい事。


「遺体を見るのは心情的に厳しいかと思いますが。」

椿は頭を傾ける

「腐ってるの?」

葉一は両手の平を見せて振る。

「そんなに日数は経っていないかと。」

椿はあっけらかんと言う。

「腐り果ててるとかならともかくちょっと黒くなってる程度でしょ。なら大丈夫。」


椿とはいったい何者なのか。

そんな疑問に答えるように椿は軽く言う。

「不動産部にいれば、孤独死現場とかに立ち会っちゃうこともあるから慣れるわよ。」


葉一は安心感とともに苦笑しつつ依頼する。

「ではお願いします。」

椿は冷静に応える。

「ではすぐ向かいましょう。暖かいとどんどん腐るし。」


葉一は手紙を丁寧にたたみ懐のポケットへ入れる。

カウンターで小さく咲くスノードロップをビニール袋へ入れ、出発する準備をした。

扉を閉める直前にいつもの習慣で暗くなった店内を見渡す。

カウンターを見たとき、いつもの席に仙斗がいたような気がした。



『拝啓』ってのも堅苦しいかな。と手紙は書き出されていた。


この手紙を開ける日が来たということは、たぶん俺はこの世にはいない。

物語調だが本当だからこれしか書きようがない。

生存中あるサイトを開けて決まったボタンをクリックする。

24時間以内にクリックがなければ、予め保管されていた手紙が発送される仕組みになっている。

家を出ないので事故はない。

心筋梗塞や脳梗塞とかの突然死はありえるが、その場合はさくらを解放してやってくれ。

地下室に閉じ込めているからそのままだと死んでしまう。


けどまぁさくらに殺されているよ。

結婚するとお前に2人で報告した時、俺はさくらと契約していたんだ。

さくらの1年を約4億で買いさくらを幽閉した。

心から本当の妻になってくれるよう説得する時間を買ったんだ。

最終的にさくらには本当に俺を愛し妻になるか俺を殺すかしか外に出る方法はないと言うつもりだ。

けれど想いはきっと届くと信じている。


届かせなければ俺にはもう何も残らなくなってしまう。

さくらは俺よりも凄い魔法使いが現れると簡単に俺を棄てそっちへ行くだろう。

けれど俺の夢は「さくら」と幸せな家庭を築くことだ。

棄てられた俺はもう夢をみることすらできなくなってしまう。

その時俺はそれまでの努力に押し潰されてしまうだろう。


もし、本当の夫婦になっていたら一緒に会いに行くつもりだった。

残念でならんよ。

しかし、俺は思うんだ。


愛情の反対は無関心。

このままどっかの大魔法使いに願いを叶えてもらって、どっかの王子様のもとで幸せなさくらに忘れ去られてしまう位なら強く憎まれる方がいい。

強く心に残りたい。


それはお金ではどうすることもできないことだから。

たとえさくらに殺されても心に残れば俺は嬉しいんだ。

ただ、愛情が裏返る時魔法も裏返らなければならない。


お前には2つお願いがある。

1つ目は、同封の地図の×印を掘り起こして欲しい。叔父と玉水ってヤツの遺体が眠っている。俺が殺したんだ。供養してやってもらえないか。

2つ目は、俺の魔法を裏返してくれ。


俺の遺体は庭の桜の横の畑だと思う。

さくらには、桜の木は消化酵素を出していて死骸を埋めると短期間で跡形もなくなるという嘘を言っておいた。

あいつそんなことは疎いからきっと信じてるよ。

遺体なんざ女手1人でそうそう運べるもんじゃないしな。

家から山林が見えるといっても実際山林なんて根が走りまくって掘れるわけがない。

結局、一番目立たず土も掘り易いのはそこしかないんだ。


心はさくらへ体は桜の木の下へ。


いいとは思わないか。どっちもさくらだ。

お前にとっちゃ笑えんだろうが俺はすっかり笑い方も忘れちまった。

壊れてしまったヤツの戯言と思ってくれ。

迷惑をかけるがよろしく頼む。


届かなかった者より


そう手紙は締めくくられていた。



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