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24.甘い生活

「それでさ、紫陽花って土壌がアルカリ性だと青色に酸性だとピンク色になるんだって。だから青色紫陽花の群生の一部にピンク色が咲いてるとそこには死骸が埋められているって言われるようになったんだって。」

仙斗はにこやかに話す。


「それ怖いね。」

さくらもにこやかに話す。


ふたりは元々合わないタイプではない。

普通に無駄話する分には楽しい瞬間もある。

特に自分の知らなかった事を知る事ができた時は、何か成長したように感じる事もあって、こういうのも悪くはない。と思う。

ただこうしている間に百合は前に進んでいると思うとさくらの心はジクジクと痛む。


振り払うようにさくらが答える。

「ちなみに紫陽花は色ごとに花言葉が違うらしくて青は『辛抱強い愛情』で『ピンクは元気な女性』らしいよ。さっきの説ならピンクは『死骸』でいいと思うけど。」


遺体を埋めた場所を目立たなくする為に、仙斗は近くの草をその土の上に植えた。

紫陽花でない事を仙斗はひそかに祈った。


そんな思いを振り払うように続ける。

「桜って『精神性』とか『純潔』だろ。ちゃんと花言葉に従わないと。」

「果てしなく駆け登るのも『精神性』よ。『純潔』は知らないけど。」


さくらはふと思う。

「『百合』って花言葉なんだろ?」

仙斗はツルツルと携帯をいじる。

「色別みたい」

「黒色ある?」

「黒色は……と『呪い』だって。」


さくらは奇妙な納得感に覆われた。

『黒木百合』、『黒き百合』

そうか。

アイツと知り合った時点で既に私は呪われてたんだ。


仙斗はさらに続ける。

「そういえば桜ってなんか消化酵素みたいなの出してるらしくてさ、桜の木の下に死骸埋めるとあっという間に溶かしちゃうんだって。俺の家桜の木の横に簡単に掘れる畑あるだろ。ちょっと怖くなっちゃったよ。」


さくらには初耳だった。

「へー消化酵素なんて初めて聞いた。」


黒木百合をいっそ桜の木の下に埋めてしまいたい気分になった。

仙斗は無駄話を交えながら、精神性の大事さやいかに自分がさくらを愛しているかを、ことあるごとに語っていった。

だがさくらは無駄話だけならともかく、そこに仙斗の誘導したい意思が見えるとイライラしてくる。

私はそうはならないと叫びたくなる。


そんな険悪な雰囲気になってくると、仙斗は哀しそうに席を立つ。

「また来るよ」

ドアを閉める仙斗。

ガチャリと鍵の音が余計に苛立ちを増幅させる。


さくらはドアをにらみつけつぶやいた。

「『また』がいつまでもくると思うなよ。」


そんな日々を過ごしていたが、半年が過ぎる頃には、さくらの頭の中は疑惑で一杯になっていた。

この人、もしかしたらこのまま永久に私を閉じ込めるかもしれない。

気が狂ってるかもしれない。

それでも1年経たなければわからない。

もしかしたら解放してくれるかもしれない。

人を信じることよりも目標とお金を優先してきたさくらにとって、仙斗を信じることは皮肉だった。


明日で1年のはず。

さくらは計算していた。

時計やカレンダーがなくとも仙斗は3食必ず届けにくる。

もちろん少し遅いなと思う時もあったが抜ける事はなかった。

だからベッドを支える木の裏に一食に一本傷を入れて数えていた。


仙斗はあと何日とか思ってたら集中して向き合う事ができない。

だから1年経つ日まで言わないと言っていた。

そんなヤツに律儀に付き合う必要はない。

私に必要なのは『あと何日耐えればいいか』なのだから。


確かに一緒に話していて楽しかった時もある。

同じ舞台関係者だったのだから共通の話題も多かった。

こうして笑ってるのも悪くないと思ったことも認めたくないがなくはない。

逆に殺してやろうかと思った事も何度もある。


仙斗が食事を持ってきた。

さくらはまさに不遜な態度で言った。

「ご苦労さま。明日で1年ね。」


仙斗は驚いた表情を見せた。

「なんでそう思うの?」

さくらは自信に満ちた勝利者の顔をした。

「これで1095回目の食事だからよ。カレンダーがないからって私が大人しくしてると思ってたの?馬鹿じゃない。ちゃんと毎日記録してたから。」


腰に手を当て胸を張るさくらの姿に仙斗は小声で言った。

「だからあと何日?とか聞かなかったのか。ずっと自分で数えながら俺の言葉半分で聞いてたんだな。」

「たまに無駄話とか楽しい時もあったわよ。」


仙斗は笑顔で話し出した。

「そりゃあ一本取られたなぁ。ところでさくらは閉鎖隔離実験って知ってるか?」

「そんなの知ってるわけないじゃない。」


閉鎖隔離実験とは生理心理学の分野に属し、人を外界から隔離し時間が分からなくすると、どうなるかという実験である。

初期は1日が1.2時間ずれその周期が24時間ではな25~26時間となる。

1週間程度で睡眠覚醒リズムだけでなく、体温や血中ホルモンも狂い体内時計がさらに壊れていく。

2週間も経てば、睡眠覚醒リズムの周期が16時間程度まで急に伸び、1日が32時間と大幅に周期を延長させる事になる。


「つまりさくらの3日は外界の4日なんだよ。さらに食事時間も少しずつ伸ばしてた。もう一年半くらい経ってるよ。」


さくらは唖然とした。

「なんで…そんな…わざわざ。」

「出すつもりがないからだ。」

仙斗はきっぱりと言った。


「お前はどれだけ言葉を重ねてもついぞ俺を愛する事はなかった。俺の夢は叶わずその夢は別のものに変わった。だから最後に問う。」


仙斗は静かに狩猟用のナイフをテーブルに置いた。桂樹と玉水の血を吸ったナイフだ。


「俺を殺さない限りここを出る事はできない。」

仙斗は真正面からさくらを見た。


『お前の夢は本当に人を殺してでも叶えたいものなのか?』


仙斗の瞳はどのような色をたたえていたのか。

それはさくらしか知らない。


一つだけ真実ではない話が混ざっています。

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