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18.激情1

「え?出来るわけ無いだろ。」

何考えてんだと仙斗は後ずさる。

うっかり受け取ったナイフはどうすべきか。


桂樹は静かに声を落とす。

「お前も玉水には散々やらかされた恨みがあるだろ。スッと首の血管切れば終わりだ。」


さらに続ける。

「怖ければ後ろから切ればいい。」


仙斗は理解できない。

「殺すほどじゃないよ。」

桂樹は仙斗を真っ直ぐ見た。

「金もいるんだろ?」


仙斗は心臓を刺された気がした。

桂樹は何を知っている?

「だいたい殺しちまったら金は返って来ないじゃないか。」


桂樹は無表情だ。

「お前が明日から玉水蓮だ。」

「どう言う事?」

「重体だったこいつの両親が死んだんだよ。たっぷりと保険金をかけてな。」


桂樹の表情は変わらない。

「こいつの住民票と保険証は手元にある。

それで特殊小型船舶の免許取ってこい。それで写真付き身分証明書の完成だ。」


桂樹によると運転免許はほぼ全ての男性が持っている。

しかし船舶系の免許を持っている人間は少ない。

特殊小型船舶とは、いわゆるジェットスキー。

その免許は原付と変わらない簡単さで取得できる。

公的証明書の出来上がりだ。


「2人分で1億2000万。」

桂樹の目が光る。

「こいつは実印隠してるからと思ってたようだが、住民票移せば実印登録なんざいちからやり直しだ。本人証明さえできりゃ何とでもなる。お前もこれで成金の仲間入りだな。」


桂樹は仙斗の親の財産だけでなく、玉水の財産も根こそぎ奪おうとしているのだ。


「何でそんな事が出来るんだよ。」

仙斗は叫ぶ。

その心中に両親の面影がよぎる。

あの時は幼い自分では対抗できなかった。

生きるために桂樹の横領を見逃すしかなかった事が、怒りとなり更に声を荒げさせる。


だがそれ以上の勢いで桂樹も叫ぶ。

そこを譲れば成り上がった自らの生き方を否定する事になるからか。

「手に入れるためだ。誰が自分を救ってくれる?

桂樹は両手を広げる。

「背の低いやつが届かないものに必死に手を伸ばしても背が高いやつよりは高く届かないだろうが?」


桂樹は思い切り玉水を蹴った。

うめく玉水。

「足を引っ張るクズを踏み登って手を伸ばさなきゃ、一生泥にままれて見上げるままなんだよ。」


激昂した仙斗は叫ぶ。

「そうやって俺の両親の財産も奪ったのかよ。」


桂樹も叫ぶ。

「そのおかげでパチンコ屋の駐車場のチンケなカラス貸しから脱出できたんだよ。お前もその金で養われてた事を忘れるな。」


仙斗を指差して続ける。

「あの時お前が財産を相続しても生活で使い潰すだけだろうが。」


仙斗は桂樹の話も理解できる。

さくらを手元に保つには今の金では足りないのも分かる。

さくらの世界が広がり自分への意識が離れつつあるのも。

所詮仙斗程度の魔法使いはいくらでもいる。。

だから自らの正義感を抑えつけてヤミ金を手伝っているのだ。

違法性の度合いと収入が比例するならば、どこまで踏み込めば夢は叶うのか。


らちがあかないと桂樹は携帯を取り出す。

「それに『さくらちゃん』が欲しいんだろ?『ファン1号君』よ。」


桂樹は隠し撮りした動画を再生する。

「女なんかに狂ってんじゃねえよ。」

仙斗は、意識を失いそうな怒りの中クラクラと目が眩む。

「こんなもん金で買えるんだ。てめえの大事な『金で買えないもの』なんて金額次第なんだよ。甘いんだ。見ろよ!買えてるだろうが。」


桂樹の激昂は止まらない。

「お前は俺の言う通りにすりゃあいいんだ。法なんざ金持ちが逆転されないように作ったもんだ。てめえの欲しいもんはそれを乗り越えなきゃ手に入らないんだ。」


言う通りにすればどうなるのか?

何故桂樹はパーカーにサングラスなのか?

なぜここに来るまで桂樹は後部座席に座っていたのか?

なぜ玉水を殺させるのか?

保険金を奪えばどうなるのか?


ああ終わった後に自分は殺されるのだ。


突然の自覚、玉水のうめき、再生されるさくらの声、桂樹の叫びが仙斗の脳を掻き乱す。

「てめえはうるせえんだよ。」

もう一度振り向いて蹴ろうとした桂樹の背中に仙斗の持つナイフが刺さった。

焼けるような痛みと共に振り返った桂樹の瞳にナイフを振りかぶった仙斗が映る。


さらにナイフをその身体に受けながら桂樹は思った。

キレた兄貴そっくりだ。

桂樹は、黒く染まる意識の最後に怒る兄が浮かんだ。


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