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16.流転1

夜の世界、とりわけ違法な仕事を手伝う仙斗の友人関係はどんどんと希薄になっていった。

話す相手も減る中、偶然再会した葉一に依存していくようになっていく。


「そんでさー。」

愚痴をこぼす仙斗。

「毎回公演の度に10万円はキツいわ。でもその金額で次の役も影響するみたいだし、ある程度いい役掴んでないと大きいオーデションでも評価されないらしいんよ。」

葉一は少し考えてから

「もう無理矢理さらって結婚しちゃえば?」

「それ誘拐罪だから。」

笑う仙斗に葉一は携帯の画面を開いてみせる。

「ほら。刑法229条に誘拐しても結婚したら公訴できないって書いてるぞ。多分熱い想いを伝えて認められればOKってことなんだろ。ギャンブルだけどな。」


仙斗はしげしげと画面を見ながら聞いた。

「何でそんな事知ってるんだ?」

葉一は笑う。

「元司法試験受験生なめんな。」


一つ離れた席で椿が座っていた。

以前いきなり来た椿とばったり出会って仙斗を帰らそうとしたが、たまには他の人とも話してみたいと言う椿に折れて時折一緒に飲んでいる。

一人で飲む女性にとってBAR側によって安全が保たれるというのは非常にありがたいだろう。

葉一は柳に確認して許可をもらっていた。


椿は茶化す。

「漢気あればさらってもOKとかカッコいい。仙斗君のちょっと男らしいとこみてみたい〜。」

そして背伸びをひとつする。

「あー。誰かあたしをさらってくれないかなぁ。」

背もたれにだらしなくもたれかかる。

そんな椿を葉一は笑いながらみている。


仙斗は「無茶言わないで下さいよ。」と言いながらも画面から目は離れない。

葉一はグラスを拭きながら笑う。

「でも叔父さんすげぇ金持ちなんだろ?甥っ子って仙斗しかいないんだから将来全部仙斗のもんじゃん。しかもそういう業種は長生きできなさそうだし。」

「お前も無茶苦茶言うなぁ。」

そう言う仙斗の脳裏にさくらと2人広い庭でお茶する風景がよぎった。

そして交代の時間だからと仙斗は帰り、椿も2杯目を飲み終え帰って行った。


葉一はひとり口角を少し上げグラスを拭いていた。


「スミレちゃんすごいね。今月の売上ダントツで1位だよ。」

翁は手放しで褒める。


あれから2度桂樹はやってきて毎回VIPルームで豪遊していた。

しかも今まで行ったことのないような店で食事してから同伴出勤だ。

スミレのポイントはかなり増しその月の給料は今までの3倍以上だった。

その締め日からは仕事が忙しくなったと来てないが毎日SNSや電話で連絡を取っている。


「それで『魔法使いになって応援する。』って言うのに毎回チケット40枚が限界なんですよ。

魔法って言っても『ホイミ』ぐらい。」

何故自分の立場も忘れて増長できるものなのか。

そうか『うわつく』って浮くから『浮つく』なんだ。

まさに浮いてるな。と、桂樹はどうでもいいような事を考えながら応答する。

「頑張ってるんだから優しくしてあげて。そのうち宝くじとか当たって大魔法使いになるかも知れないし。」


愚痴を言う相手に一度反発して、重ねてくる意見に説得されたかのように同調する。

これだけで相手は微小な優越感を感じるものだ。

「あ、ごめん。待ち合わせのお客さん来たみたい。また次にメシ行きたいとこ考えといて。」

めんどくささを感じさせずスマートに電話を切る。


おそらく今頃インスタグラムで流行りの飯屋でも検索しているだろう。

次に行くのは締め日かな。

桂樹はタバコをふかしながらそんな事を考えていた。


細身で小柄だが派手な金髪をクルクルと巻いた女性が小走りで桂樹の元にやってくる。

「こんばんは。桂樹さんが好きそうなとこ見つけたんです。いつもお世話になってるし今日はごちそうしますよ。」

待ち合わせにやって来たキャバ嬢が言う。

「マジで!ヤバい惚れちゃう。」

月とスッポンだなと桂樹は思う。

「絶対ウソでしょ。」

2人は笑いながら韓国料理店に入っていった。


電話を切ったさくらはブランド店街の『シャネル』に向う。

仙斗と桂樹の分に自分が追加で出してチケット120枚を確保した。

今月の給料は100万円近いしまだまだ余裕がある。


百合が持っていた鞄のひとつランク上の鞄を見つめていた。

今まで持っていた『マイケルコース』は今の歳では若すぎる。

「今月頑張ったし…ご褒美だよね。」

自分に言い聞かせたさくらは店員を呼んだ。

来月はこれに合う財布も欲しいなと思いながら。


だがKは来なかった。

締め日が近づいてきてスミレは焦っていた。

このままだと給料は元通り。

ようやくKから連絡があった。

「明日出れるけど朝まで飲まない?」

スミレの逡巡はほんのわずかだった。

「いいですよ。」


同伴の待ち合わせ場所を決め、電話を切ったスミレは仙斗にSNSでメッセージを送った。

"明日は先輩の相談聞くのに飲みに行く事になったからお迎えは無しでお願い"

すぐに仙斗から返信が返ってきたが未読のままシャネルのバッグに突っ込んだ。


店終わりのアフターでオシャレなBARに来ていた。

カウンターだけの店なのにそのカウンターは長さ15m幅1.5mで15席。

そして1席あたり1m近い幅の椅子というゆったりとしたものである。

通常の倍のカウンターの奥行きはバーテンダーは極力干渉しないという意思表示なのか。


さくらはいつものように酔っていたが、まさに雰囲気がそれに拍車をかけていた。

すぐ裏手はホテル街だ。

もし誘われたとして断られるのだろうか。

今日は締め日。

今回の給料は前回並とはいかなくても今日の同伴でいつもよりはいいだろう。

しかし財布には届かない。

断って以後来なくなったら財布を手に入れる機会は失われる。

セットで使えばきっと可愛いのに。

かといって誘いに乗った途端手のひらを返され連絡が取れなくなったらそれはそれで困る。

だが翁は以前「Kさん面倒見いいからあっちこっちの誕生日や周年イベントに渋々顔出してるよ。」と教えてくれた。

情を重ねてもむしろ利に働くかもしれない。

どのみち現状のままでは百合に勝てないし財布も欲しい。

失うものは所詮何もないのだ。

Kは優しい笑顔を浮かべている。

「スミレちゃんとは長い付き合いになりそうだなぁ。一緒にいて楽しいし。」

2人はBARの裏手のホテル街に消えていった。


桂樹は確かにイベント周りをよくする。

ただその相手は全員何かしら桂樹に認められた者ばかりであった。

なのでそういう節目の付き合いを大事にしていたのだ。


特に誕生日イベントはそのキャストのプライドにも関わる。

一瞬だけ顔を出しシャンパンを1杯だけ飲み2~30分で引き上げる。

長居すれば他のお客様が入れないし仕事の途中だから。と。

簡単かつ効果的に自分への評価があがる。

キャストにとって『忙しい中かけつけてくれてスマートに去った。』ように写る。

次回は今日損させた分なるべく長く席につこう、なるべく役に立とうと思う。

『応報性の理論』だ。

そうして桂樹は他の客の秘密を自然に集めることになるのだ。


桂樹、さくらそして翁のメリットデメリットを如何なる者が知り得たのか。

ただひとつ言えるのがこれがターニングポイントだったのかもしれない。


さくらではなく桂樹の。


15mのカウンターのBARは実在します。

「ジンは何がありますか?」と聞くと「100種類以上あるので・・」と苦笑されます。

選ぶ作戦失敗www

有名建築家の安藤忠雄氏の設計で非常に美しく、そしてその店の裏手はホテル街です。

こわwww

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