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14.ゼラニウム1

「フリーで。」

黒服に雑に言いズカズカとキャバクラの店内に入っていく桂樹。

「まだ、誰も出勤してなくてすぐ女の子つけれませんが…。」

黒服は戸惑いながらも追いすがる。

「女子付けてからタイマー回せばいいだろうが。」


一番奥のソファにどっかり座った桂樹に奥から小走りに別の黒服が近づく。

「翁か。」

桂樹はチラリと見て言う。

「Kさんご無沙汰です。こんな時間帯に来られるのは初めてですよね。」

まだ7時40分だ。

1番出勤の早い子でも8時だろう。

だからといって余程の有名店でもない限り客を追い返しはしない。

どこの店も早い時間帯は弱いのだ。


下っ端の黒服が慌ててキープボトルを抱えてテーブルに並べだす。

ひざまずく翁にタバコに火をつけさせながらKこと桂樹は言う。

「メシ食い終わったのが早くてな。新人でいい子入ったか?」

「もちろんみんないい子ですよ。それに新規の子もいいですよ。」

「そういうのいいから。とりあえず今日は新人を。」

翁は苦笑しつつ答える。

「僕も立場あるんで。」

「とりあえず1番初めに来た子付けてタイマー回していいですか。その後は新人片っ端から回すんで。」

桂樹は咥えたタバコを上下に遊ばせながら答えた。

「ま、いいでしょう。」


ここでの桂樹の名前は『K』だ。

クラブやラウンジとは異なり、キャバクラではキープするボトルに書く名前さえわかればいい。

ボトルキープすらしないケースもあるが、その場合は店が指定する、ごく普通の焼酎やウイスキーを飲む事になる。

結局、客がその場で言った名前がその客の名前となるのだ。

ただ、店側も把握できないくらいめったにいかない客が、自らの偽名を忘れてしまったらそのキープボトルは使用されず、半年ほどで流されることになってしまう。

客も偽名、キャストも偽名。

その上で交わされる会話もどこまで真実か。

虚飾の極みと言われる所以がここにある。


そもそもキャバクラという経営形態は後発だ。

初めはクラブ。次いでスナックしかなかった。

双方共に座ればいくら。例えばクラブなら5万や10万円。スナックなら1万円。といったふう。

違いは、そこに同席する女性キャストの数にある。

クラブなら客1名に対し、キャスト1名『以上』が同席する。

スナックなら客数名に対し、キャスト1名がつく。

これは、風俗営業許可の関係である。

厳密にはスナックのキャストは『酌婦』つまりはお酒を作る者であり、『接遇』を行う者ではないからだ。

なのでスナックでは4人がけのテーブルの場合、2名の客が向かい合わせで座ってもキャストがどちらかの客の横に座るのは違法となる。

この場合5人目が座るような中間の位置で客の酒を作るのが原則だ。


どちらにせよ時間制限というものはなかった。

しかし暗黙の了解というものがあり、クラブでは1~2時間で席を立つのが大人のマナーとされていた。

これは店の回転率を上げるのに協力するということになるからだ。

そして周年イベントには胡蝶蘭を送る。

その花言葉は「変わらぬ愛」。

この店を変わらず愛しますよ。といった意思表示。

そうして相互に信頼しあう関係が成り立っていた。

こういった暗黙の『大人のマナー』は他にも多数あり、先輩から後輩へ、年配キャストから若い客へと教育される。


ところがそこにバブルの波が押し寄せた。

急に大金を持つ事になった新参者が、多数クラブに来る事になったがそのようなマナーは知らない。

長い時間居れば居るだけ自分が得をする。と長居することとなった。

それではクラブの経営が成り立たない。

そこで、1セット90分で2万円といったニュークラブ、すなわち『ラウンジ』と呼ばれるスタイルが出来上がった。

今や飲み屋街で『クラブ』と書いてあってもたいていはこの形式のものが多い。


そして『大人のマナー』を習得している客はキャストにもてる。

そういう客は習得の過程でキャストが3人つけば上手に会話を割り振りするといった能力も身に付くから。

一方で新参では、その存在自体知らないのでそれができない。

気に入った娘がいれば他の席につくのを嫌がり、ワインやシャンパンといった「ぬきもの」を空けることによって出来るだけ長くそばにつくように金の力を見せ付けようとする。


そういう「女性目当て」に特化したのがキャバクラだ。

女性キャストが20分ごとに交代し、基本1対1で応対。

偽名を使って嘘をついて口説きたい放題。

酒なんてどんなのでもあればいいだろうという経営体勢になる。


「おはようございます。」

さくらは受付で人差し指を読取機に置く。

本人確認として静脈を読み取るのだ。

その後ドレスに着替える。

店舗から借りるか持参するかは選択ができる。

借りる場合はクリーニング料を給料から引かれるが。


着替えたさくらは黒服に呼ばれた。

「今日のお客さんは太いから頑張って。ダブル、トリプルもあるから少なくとも場内は取れるようにね。」

20分毎にお客さんの席に付く女の子が入れ替わるキャバクラにおいて『場内』とは指名料金を払って交代させない。

つまりは『気に入られた。』という事だ。

B指名とも言われる。


これに対してA指名とは入店時に指名する、ある意味『その子目当てで来た。』という主張だ。

ダブルやトリプルは基本お客さんと1対1が原則の中、お客さん1人に対してキャストを2人又は3人付ける。

一般には『フリー(指名なし)』で入店し、女の子を次々交替させながら、気に入ればB指名を入れる。

さらに気に入れば次回からA指名で入店したり同伴したりといったシステムだ。


当然後者の方がキャストの利益は大きい。

元々そこまで流行っている店でもないので、来るお客さんはたいてい誰かを指名して入店してくる。

そのお連れさんからB指名を受け連絡先を聞き出し、SNSで連絡を取って次回A指名で来てもらう。

釣りに例えられるケースもあるが果たして釣られるのは男か女か。


さくらの時給は3,000円だ。

これにB指名を受ければ、

その間の時給は500円上がる。

A指名なら1,000円だ。

さらにそれぞれの本数が増えれば基本時給も際限なく上がっていく。

それに指名を受けている間の売上金額は全て成績に加算される。

インスタグラムに上がる有名キャバ嬢ともなればその収入は芸能人を超える勢いである。


そこまでいかなくともトップ3にでもなれば、店と『売り半』、つまりは『売上の半分』が全て収入という契約を結ぶこともある。

たださくらの客と呼べるようなA指名客はまだいない。

B指名なら何度かもらったことはある。

これが大多数のキャストの現実だ。


世の中のキャバ嬢のどれだけが夢を見て、どれだけが現実を知り疲れ果てるのかは誰も知らない。


さくらの源氏名は『スミレ』にした。

源氏名にしておけばプライベートの際に出会っても別人で通せる。

「初めまして『スミレ』です。よろしくお願いします。』


1人目を適当に相手し、交替してきたさくらを見た桂樹は、気づかれないようににやりと笑みをうかべ呟いた。


「ビンゴ。」


騙し騙され継続的に行かなければ仲良くもなれない。資金がもたない。

そういう人のために60分セット2,000円といった『ガールズバー』ができることになるのでした。

女の子がバーテンという位置づけなので『風俗営業許可』ではなく、『深夜酒類提供許可』をとることになります。風俗営業だと0時まで(特例1時)ですが、バーなので朝まで営業できるわけですね。

当然女の子のバーテンとはカウンター越しで話すのみとなります。

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