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未遂

と、とにかくできているところまで?更新を・・・震

 もうすぐ自身が死んでしまうのは知っているだろう。ルリカは私にそう言った。




 今までどこか半信半疑――それでも信じてきたけど――が現実になった瞬間だった。別に死ぬのはいい。いや。良くはないけど。悲しいし悔しいけど。『何があっても確定している』とまで言われたなら仕方ない。どうにかなるのであればどうにかしたかったのだけれど――やっぱりそこは諦めた。まぁ昔から覚悟していたことだからそこは驚くことは無い。


 落ち込まないわけでは無いけれど。恐怖に眠れなくなるけれど。


 そこはまぁ。全力で考えないようにするしか無い。――それでもふと夜に目を覚ますと泣きたくなる。眠れなくなる。


 怖い。


 ……。


「そんなことよりよ?」


 私は思考を切り替える様に独り言ちていた。


 私は今実家の知り得たる自身の部屋にいる。なにひとつ変わっていない部屋。窓から外を見れば私の為に作られた小さな庭。風に手作りブランコがゆらゆらと揺れているのが見えた。そこに小さな私たちがいるような幻覚が見えるような気がして頬が緩んでしまう。


 なぜ実家にいるのか。簡単だ。前述したように眠れなくなってしまったからだ。悲鳴を上げて起きては眠る。その繰り返しで。実家への告げ――報告により私は実家送還となってしまったわけだ。ここに来てから夜中に一度しか起きなくなったので随分とましになっただろうか。


 それにしても自身がそんな繊細な生き物だったことに驚いてはいるが。


 ……まぁ。でも。そんなことはどうでもいいけど。大きな溜息一つ。


「なんで、何一つ進んでないんだよぅ」


 絶望的に呟いてから私はベッドに倒れこんでいた。私がいない間も掃除をしてくれていたのだろう。突然帰ったにも関わらず温かな太陽の匂いがする。


 そう。何一つ進展していない気がする。いや――心の中ではきっと進展しているはずだと思いたいんだ。思いたい。と考えながら枕に顔を埋める。ほぼ半べそだ。


 このままでは困る。困るんだよ。


 脱、人類の敵。


 ばたつかせていた足を止めて、きゆっと口元を軽く結んでいた。


 何度も――何度も繰り返しているのであれば一つくらいいいじゃないか。『そうならない未来』があっても。


 繰り返しているブライトが哀れすぎる。どうしてもだ。救いが欲しかった。


「どうにか、しないと」


 うーんと考えを巡らせ私はごろりと身体を転がす。が人生経験、人間関係皆無の私には何も思いつかなかった。恋すらまともにした事もないのに。瞼の裏に何か掠めた気がしたが私は軽く頭を振った。


 きっと何か後押しが必要なんだと思う。何かきっかけとか無いだろうか。


「旅行とかどうだろう?」


 行ったことないし、多分私は行かないけど。旅行でもしたら二人の距離は近づくかも知れない。我ながらナイスアイデアのような気がして身体を起こすと、かちりと青い双眸とかち合った。


 にこりと笑顔を浮かべてコテンと小首を傾げている。


「行きたいところあるかな? 連れてってあげるよ」


 手に持っていたのは水と見慣れた錠剤だ。精神が安定するようなものを飲んでいるらしい。それをサイドテーブルに置いてからブライトは近くにあった椅子に腰を掻ける。


「いつも言うけどノック。そして音を立てずに入ってくるのは止めようよ?」


「調子は?」


 無視か――聞くつもりは皆無のようだ。なぜだろうか。半ばあいさつと化しているような。聞いてほしい。人の話は。


 そしてここは私の部屋だ。諦めたけど。と遠い目になる。


「元気だよ。眠れないだけだし。あぁ。エドガー心配してた?」


「……うん。暫く休むって言ったら心配してた。そのうち見舞いに来るって」


 なぜ声のトーンが一段階下がるのか。少しだけ不機嫌なオーラを放っている気もしないでもないけど。こんなので計画がうまく進むんだろうかと疑念を浮かべつつ、私は軽く苦笑した。


「まったく。病気じゃ無いのに大げさな」


 慣れた手つきでコップを掴んでから薬を口に投げ込んだ。間を置かずに身を流し込んで嚥下する。


 大きんだよ。この錠剤。と愚痴を零せばちゃんと飲めたね。良かったとなぜか嬉しそうにしていた。飲むのを見届けないと双子に怒られるとかだろうか。子供扱いは止めてほしいんだけど。と半眼で睨んだが通じてはいないだろう。


 カタンとコップを戻すのを確認したタイミングでブライトが口を開く。空のコップを目で追ってから私にその視線を戻した。


「それはそうと。聞きたかったことがあるのだけど」


「ん?」


「レーネが今そうなっているのって――聖女の所為かな? 何か言った? あの人」


「……」


 ニッコリ笑顔だけど目が笑っていない。『そうです』なんて認めれば絶対に分かったと笑顔で殺しに行く気がしてならない。国家の威信を賭けて――国の宝だし――を守るだろうし、ルリカ自体は全属性なのでブライトにやすやす遅れを取ることは無いと思うが……。


 えぇ。と軽く漏らす。


 いやいやいや。『手記』が始まる前から犯罪者はちょっと。しかも私への過保護が原因って。さすがにおじさまとおばさまに申し訳なくて顔向けが出来なくなる。


 私は顔を引きつらせていた。頭はいいのに、なぜこうも短絡的なのだろうかブライトは。だから未来はああなってしまうのだ。


 あぁ――。


 なにがきっかけか――何だっけ。実の所大まかな流れだけ覚えていて後は忘れてしまった。ノートに書き写しをしておけば良かったと後悔する。


「殴りこみに行くのは止めて。ルリカは関係ないので」


「そうなの?」


 確実にそう思っていたらしい。ぱちぱちと目を瞬かせた。良かった。一応、事実確認をするタイプで。『うん。分かった』素直な答えに安堵の息を吐いた。


 よし、ついでだから言っておこう。


「そうだよ。――あと。ブライト。ルリカに対して私を褒めちぎるの止めてほしいんだけど」


「ん?」


「つ――ぁ。か、かっ、可愛いとか。私の事を自慢したり――どこでそんな事を言ったのかわ、分からないけれど」


 自分で言いたくない。言いたくなかったが仕方ない。ぱちぱちと不思議そうなブライトの双眸と目が合った。まるで『知らないんだけど』と言いたげであったが、現にルリカは知っている。私の個人情報――というか個人的なほめちぎる感想など誰が言うというのだろうか。


「あの」


 おずぉすど声を掻ければ、暫く考え込み咳払い一つ。ブライトは漸く口を開いていた。どこか確かめる様になのは気のせいだろうか。


「『僕』は――あぁ。うん。いった、かも。勢いで――言ったかも。で、でも事実だからいいよね。レーネは可愛いもの。双子だってよく言っているし?」


 僕は悪くないよ。といつの間にか戻ってきた笑顔で付け加える。


 いや。確かによく言っているけれども。家に帰れば『可愛い』があいさつのようになっているけれども。それは家族の欲目で。家族以外には……。


 ――うえ?


 はっと私は何かに気づいて顔を上げていた。にんまりとブライトの唇が孤を描く。その笑顔に嫌な予感を覚えていた。


 まって。


「まさか、あの双子も?」


 私は低く呻くように言っていた。ブライトは肩を軽く竦める。


「僕が聞き及んでいるところによるとレーネは『レガシ家の宝石』とか言われているみたいだよね。姿は表さないくせに双子が自慢ばかりするから。最近はレーネを利用して商品を売り出して……」


 なにして。


「ぁあああああ」


 何してくれているんだ。あの双子。というかそんなことして世間様に私の正体がしれたら大変な事になるじゃないか。世間には私の存在など隠してはいないらしいが、多分私=『レガシ家の宝石』ではないだう。それが繋がったときがとても怖いのだけれど。


 あの双子バカじゃないのだろうか。


 我ながらよくわからない叫び声を上げながら、頭を抱えベッドにうずくまっていた。その背中をポンポンと優しく、宥める様に叩くのは温かい手。その手のお陰で随分と頭がすっきりしてきた気がする。魔法は効かないのだけれど何かしているのだろうか。といつも思う。


「良くは分からないけど、僕は悪くないよね?」


「……いや、言いふらすのを止めてくれると」


 顔を上げて、半べそで睨み上げるとブライトは『分かったよ』と溜息交じりに返してきた。本当に分かっているのかと言いたくなるがここは信じよう。


 頭が痛いから。


 私はのろのろと身体を持ち上げていた。こじんまりとベットの上に座る。ブライトと向かい合う形になってしまった。


 ふむ。相変わらずの美貌だ。とぼんやりと考える。見惚れるのは幼い頃に慣れてしまいもはや鑑賞対象物の感覚でしかない。


 こんなに綺麗なのにどうして靡かないんだ。性格はいいとは言えないけれど。


 ……おかしい。やっぱり笑顔が胡散臭いからなのか。思わずきゅうと頬を抓れば不思議そうに、目をまん丸にして見返された。


 は。何をしているんだろう。


 話題を変えなければ。咳払い一つ。


「まぁ――まあ。いいわ。あの双子はもう放っておいて。これからだよね」


 どうするべきか。と。そう言えば正確な日時が分からない。『もうすぐ』と言われただけで。大体ルリカは私が前の記憶を持っていると思っているから。


 人の手記を盗み見ただけの一般人なのに。その説明をさせて貰ってない。


「これから?」


 ブライトは可愛らしく小首を傾げる。


 ほんと。どうするかな。うーんと考える。ともかく、現状を聞き出した方が早いのかも知れない。私は口を開いていた。


 じっと見つめる青い双眸はどこまでも綺麗だった。


「ブライト。あのさ――好きな人はいる?」


 あれ。意味が分からなかったかな。それとも聞こえなかっただろうか。ニコニコとした笑顔のままで固まっている。少し生きているか不安になったが、顔が些か引きつりだしたので生きているだろう。


「もう一度聞くけど」


「いや――レーネ。もしかしてだけど……僕がエドガーを好きだってまだ思ってるの?」


 頭痛がする。そう言いだげに頭を軽く抑えている。違うのか。そんな顔で返せば、大きく溜息を吐かれた。


 だってそうでないといけないのだし。手記が始まってから一体誰が止めるって言うんだよ。少なくとも心を寄せる女性――もしくは男性――の姿は手記で見ていない。と言うか覚えていないのでどうと言うことは無いだろう。


「私には二人がお似合いだと思う」


「前から僕らをくっ付けたがるのは、手記の中でそう書いて?」


「うん」


「……だよね」


 私の即答にブライトの笑顔が引きつっている。薄い口元で、なにかぶつぶつと呟いた気がしたが私に届くことはない。


「ともかく。僕が好きなのはあれではないし。違うから。僕が――」


「えー。いいじゃん。美少年同士お似合いだと思うぜ?」


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