第六話 リャオリン
しばらくすると、グエンの館の使いの男が、一人の女性を連れて戻ってきた。
長い髪を無造作に束ね、見るからに面倒くさそうな表情を浮かべている。
「呼ばれたから来たけど……なんで私が、知らない男のために命まで掛けなきゃいけないのよ!」
それが、山菜取りを生業としているリャオリンだった。
どうやら使いの男に事情は聞かされたものの、危険な山道を案内することに難色を示しているようだ。
応接室に入ってきたリャオリンに、ゲンシンは立ち上がり、笑顔で頭を下げる。
「初めまして。ゲンシンです。今回はよろしくお願いします」
その顔を見た瞬間、リャオリンの表情が明らかに変わった。
「……え? ど、どうも」
先ほどまでの面倒そうな態度が嘘のように、ゲンシンをじっと見つめている。
「ちょっと待って。あなた、結構いい男ね」
「いえいえ! そんなことないですよ」
ゲンシンは心の中で苦笑した。
自分が女性からどう見られるのかは、当然ながら自覚している。
どうやら自分は、それなりに男前のようだ。色々な女性に会う中で、何となくだが理解していた。
外交とは、己の全てを利用して、物事を上手く運ぶことだ。今回も、それを少し利用させてもらっただけだ。
「こんな雨の中、危険な道案内を頼んですみません。お願いできますか?」
「ええ、任せて。シャングー村まで、私が案内してあげるわ」
どうやら引き受けてもらえたようだ。ゲンシンは、ほっと胸をなでおろした。
リャオリンの指示に従って準備を終えたゲンシンは、シャングー村へ向かって山道を登り始めた。
しかし、雨期の山道を登る作業は、ゲンシンの想像を遥かに超えるほどの重労働だった。
歩き始めてしばらくすると、ゲンシンの足取りが徐々に重くなっていき、リャオリンに遅れ始める。
「はぁ、はぁ……。す、すみません、リャオリンさん。もう少しゆっくり進んでもらえますか?」
「なによ、もう疲れたの? あんた、見た目の割に体力ないのね~」
「すみません、長く役所勤めをしていて、めっきり体力が落ちているようで……」
「ふ~ん。先が思いやられるわね」
それでもリャオリンに励まされながら、ゲンシンは必死に山道を登り続けた。
そして、長い山道を抜けた先。
「ほら、見えてきたわ」
リャオリンが指差した先には、峡谷に囲まれた小さな村があった。
「あれが……シャングー村」
「そうよ。やっと到着ね」
二人はようやく、シャングー村へと辿り着いたのだった。




