第七話 女村長シェンフォン
村に到着したその足で、ゲンシンは村の役場を訪れ、女村長シェンフォンと面会した。
「まあ、こんな時期に黒領からいらっしゃるとは。お急ぎのご用件ですか?」
シェンフォンは、半ば呆れたような顔をしている。
「お会いいただいて、ありがとうございます。実は、お尋ねしたいことがありまして」
「はい、何でしょう?」
「実は、これから行われる魔女の儀式のため、魔女の一族を探しているのです」
その言葉を口にした瞬間だった。シェンフォンの表情から笑顔が消えた。
「魔女……ですか?」
先ほどまでとは打って変わり、声も冷たくなる。
「はい。この村に、何か魔女に関する言い伝えや情報はありませんか?」
「知りません。そんな話、聞いたこともありませんわ」
明らかに距離を置く態度だった。
そこでゲンシンは、少し考えてから口を開く。
「では、仮の話をしましょう。もし私が次の国王の父親となれば、次期司祭候補は私ということになります」
「……」
「そうなった場合、今ここで私に恩を売っておくのは、決して悪い取引ではないと思いませんか?」
シェンフォンは黙り込んだ。だが、その顔に浮かんだのは警戒ではなく、ひどく残念そうな表情だった。
「とても魅力的なお話ですわ。この村は開発がまったく追いついていません。あなたとのパイプができれば、何らかの便宜を図っていただけそうです。ですが、残念ながら……私は本当に何も知らないんです」
どうやら彼女は、本当に魔女の情報を持っていないらしい。
この村は比較的新しく開かれた村で、住民の多くも各地から流れてきた者たちだという。
「大変残念です。それでは、この村で一番年長の女性にご紹介いただけませんか?」
「それでしたら……街はずれに住んでいる、モティカ婆だと思うわ」
シェンフォンに頼み、役所から案内役を出してもらったゲンシンは、二人で村外れへ向かった。
やがて古びた家の前に立つと、中から厳しい声が飛んできた。
「役人よ。そこから先には入るでない」
冷たい拒絶に、ゲンシンは足を止める。
「お前ら役人に話すことなど何もない」
そう言い放つと、モティカ婆は踵を返して家の中へ戻ろうとした。
そのとき、ゲンシンの目に彼女の羽織が留まった。そこには独特の模様が織られている。
その織物は、ゲンシンにとって、とても馴染み深いものだった。
「……綺麗な織物をお召しですね。チェダ織物ですか?」
その瞬間、老婆の目つきが鋭く変わった。
「何故お前がチェダ織物を知っている……?」
「私の母が、その織物を着ていました。確か、生まれた村の工芸品だと言っていましたよ」
「……お前の母の名をなんという?」
「ピンインです」
「なんと……お前は、そばかすピンインの息子か!」
モティカ婆の声が震える。明らかに母を知っている口ぶりだった。
「母はどうした?」
「近隣との戦で、命を落としました」
「……そうか。残念じゃ」
老婆は寂しそうに目を伏せた。
「モティカ様、聞いてください。実は、魔女一族を探しているのです」
そう告げた瞬間、モティカ婆は再び表情を閉ざした。
「残念だが、わしは何も知らん。さっさと帰れ!」
そして、それ以上何も語らぬまま、家の中へと消えていった。




