第四話 魔女という存在
五彩国における魔女とは、太古の魔法王国で生み出された失われた秘術を、現代へと受け継いでいる一族のことである。
この世界の魔力は、男性が精巣で生み出す「陰の力」と、女性が卵巣で生み出す「陽の力」が結びつくことで生まれる。
そして、その二つの力が男女の性交によって結ばれ、女性の子宮の中で魔力として完成することで、初めて魔法を使えるようになる。
そのため、この世界で魔術を自在に扱えるのは、基本的に女性だけだった。
現在の四領の中で、魔術が正統な形で受け継がれ、なおかつ政治の根幹と深く結びついているのは紫領だけである。
他の領土では、魔術そのものはほとんど失われており、一部の儀式だけが、形式的に残されていた。
赤領では戦の勝利を願うため、黄領では五穀豊穣を祈願するために、現在でも魔女の一族が儀式を執り行っている。
しかし、緑領だけは事情が違っていた。
緑領の前々代の司祭は、現在着任している穏健派の司祭とは正反対の、かなり冷酷な人物だった。
前回行われた魔女の儀式で、国王となる子を懐妊できなかった緑領の候補者と、その相手となった魔女を処刑した。
それだけではない。
儀式の失敗をきっかけに、魔女とその一族に対する弾圧まで始めたのだ。
その結果、緑領では魔女の数が激減した。
かろうじて生き残った魔女の一族も弾圧を恐れ、次々と姿を隠してしまった。
そして司祭が代替わりした現在も、その爪痕は色濃く残っている。
少なくとも、この緑領で自分が魔女であると自ら名乗り出る者は、一人も存在していなかった。
(もしかしたら、もう魔女は、この緑領には存在していないのかもしれない)
ゲンシンは、心の中でそう呟いた。
緑領へ戻ったゲンシンを待っていたのは、長い雨だった。
現在、緑領は雨期に入っており、連日のように雨が降り続いている。
そんな中、ゲンシンは村を治める村長たちの中でも、最も大きな影響力を持つといわれている最長老、グエンに会うため、馬を走らせていた。




