第三話 ゲンシンの思い
ゲンシンが生まれ育ったのは、黒領から遠く離れた国境沿いにある貧しい村だった。
他国との商いを生業とする両親と、幼い妹と一緒に、つつましい暮らしをしていた。
五彩国の場合、政治の中心である黒領から離れれば離れるほど、村々は貧しくなっていく。
さらに、ゲンシンのいた村は国境沿いということもあり、この不安定な情勢の世の中では、いつ戦場になってもおかしくない状況だった。
そして、ある日。それが現実となった。
隣国の奇襲によって村は焼かれ、両親と大切にしていた幼い妹も帰らぬ人となった。
両親を失い、一人残されたゲンシンの人生は、困窮を極めることとなった。
ただ、ゲンシンには親譲りの外交力と、困難を乗り越える勇気があった。
今の外交官という職業も、ゲンシン自身の努力のたまものといえる。
ゲンシンは密かに、自身の家族を死に追いやった隣国だけではなく、自国の政府も同じように恨んでいた。
無意味な戦争は何も生まず、いつも弱い者だけが傷つくだけだ。
自分が政治の近くにいれば、その争いを避けられるのではないか?
そんな思いが、ゲンシンを外交官という職業へと就かせたのだ。
今回行われる魔女の儀式には、実は物凄く大きな意味がある。
というのも、魔女との間に生まれた子が国王となれば、立場としては自分が王の父となり、政府の中でも大きな権力を握ることができるのだ。
もしそうなれば、自分が理想とする「戦争を起こさない国」という未来も、より現実的なものとなる。
当たり前だが、こんなチャンスは、自分が生きている間にはもう二度と訪れないだろう。
ゲンシンは改めて、この儀式が持つ重要性を再認識した。
とはいえ、そのためにはまず、魔女を見つけなければならない。
そして、この魔女探しが、そう簡単にはいかないのだ。
実は緑領では、魔女という存在そのものが、すでに失われたものとなってしまっているのだから。




