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正々堂々エルフと共に

プルと共に宿屋に行き、荷物を整理した。たくさんの魔道具の中から、プルが使えるものをピックアップして俺に渡した。

「今回の目玉は増強なんです。」

「増強?」

「力の増強から、守りの増強、素早さの増強。魔道具で大体、二倍くらい増強できます。体に装着するタイプと、剣に装着するタイプがあります。」

「これを付けて戦うのか。」

「はい。そんなに邪魔にはならないはずです。」

ベッドに腰かけると、プルが隣に来た。

「コンパクトになるように改良を重ねてきたんです。大体一・二倍ほど、小さくなりました。」

「すごいな。」

魔道具は魔力タンクと魔方陣でできている。強力な魔法ほど、魔力タンクが大きくなる傾向がある。その分魔道具自体も大きくなる。より強い効果を魔力タンクを小型化しながら魔道具で再現するのは、相当な労力だろう。

「三年はかかりました。英雄王様に見せて、一般に流通させるのが私の夢なんです。」

商売の許可は、王宮で英雄王が許可するのにかかっている。その後も細かい許可取りがあるそうだが、英雄王がいいと言えば、概ね流通できるようになる。この国では、英雄王の決定は絶対だ。だから、魔道具を見せる場はプルにとって、一世一代のチャンスであるだろう。

「あっ、傷。」

プルが俺の指に触れる。さっき捕まえた時に指に傷が出来たらしく、皮がむけていた。道理で痛いわけだ。プルが魔道具を掘る。掘り当てたらしく、一つの魔道具を持って、俺の指に当てると、傷が治った。

「ふふ。これで大丈夫。」

「魔道具研究はいつから?」

「もう、百年以上前からです。これでも私、結構いい年なんですよ。・・・独身だけど。」

「熱心だな。」

「えへへ。そうですね。私の人生の全てですから。」

「人生の全てね・・・。」

「ソルさんは普段何をやっている方なのです?」

普段?記憶がない。俺は普段何をやっているのだろう。

「アベンジャー。」

「復讐者ですか?また、なかなかな・・・。」

プルが俺の目をじっと見つめる。

「さみしくないですか?アベンジャーなんて・・・。」

「わからない。でも、復讐こそが今の俺のすべてだ。」

「・・・。」

プルの長い金髪を眺めた。サラサラで手触りがよさそうだ。

「・・・一緒に商売をやりませんか?」

「今は無理だ。」

「復讐相手は?」

「・・・英雄王。」

プルが目を細める。

「依頼主はどんな方なんですか?」

「俺自身だ。」

「・・・。」

驚いた顔をされた。

「理由は?」

「妻が殺された。子供も腹にいた。」

プルが目を伏せた。

「その、なんていったらいいか・・・。」

「慰めの言葉は求めていない。ただ、黙っていてほしい。」

「私にとって英雄王は商売相手の一人です。特に思い入れはありません。今回の事、失敗したら失敗したで次の国へ行けばいいだけですから。」

プルがまっすぐ俺の顔を見据える。

「力になれますか?」

「ただ黙っていてくれればいい。」

プルが頷いた。そして、頬を紅潮させ、

「嫌だな私、あなたにいいように見られたいって思ってしまっているんです。普段男の人といてもそんなこと思わないのに。」

プルのまつ毛のかかる緑の目がなんだか愛おしく見えた。心惹かれる何かが彼女にあった。頭を優しくなでる。

「これが終わったら、・・・ちゅ・・・ちゅー・・・チューを所望します。」

俺は笑った。

「わかった。」

プルの頬がより一層赤くなる。

「・・・その先もいいですよ。」

とても小さな声。静かでなければ聞こえていない。俺は彼女の目を見て頷いた。彼女の顔がパーッと明るくなる。

「時間はたんまりあります。魔道具の実演は明後日です!今日は休んで、明日町を見て回りましょう!」

「そうだな。」

俺はもう一つあるベッドの方に寝転がり、眠った。深夜。プルの方を見ると、起きていた。

「眠らないのか?」

「思い出しちゃって。」

「何を?」

「母が死んだ日の事。」

俺はプルに寄り添った。彼女がぽつぽつとしゃべりだす。

「ひどい雨でした。魔法風もすごくて、魔法の粒子で、空がキラキラ輝いていました。」

プルの目をじっと見つめた。

「私、はしゃいでいました。見たことのない天候で、きれいで。」

小さくため息をつく。

「母が死んだのはそんな日でした。魔法風と雨による土砂崩れ。生き埋め。二日立ってやっと日の元に出てこれた。」

プルが目頭を押さえる。

「はしゃいでいたのが恥ずかしい。母はボロボロになって帰ってきました。自然災害による死。死は等しく誰にでももたらされるもの。自然災害は避けられないもので、誰かに生を終わらされたわけじゃない。世の中には酷い殺され方をする者だっている。そうじゃなかっただけまし。」

一滴の雫がプルの方を伝った。

「自然災害相手じゃ、復讐なんてできやしない。でも、思うんです。復讐相手がいたら、間違いなく私はそのために人生を捧げられると。母を殺した者を許しはしないと。」

プルが大きく息を吸った。

「だから、あなたの復讐心は、あってしかるべきもので、向けるべきところに向けるべきなんです。相手がいることは、ある意味幸運なのかもしれません。いえ、言葉が悪いですね。幸運だなんて・・・。でも、母を自然災害で失ったからこそ思うのです。吐きだせる相手がいないと。」

プルと目が合った。

「母はきっと復讐なんて望んでいない。でも、私の心の整理のためには必要だったんです。人生をかけた復讐。それがないから、いつまでたってもあの日を後悔している。キラキラ光る風、打ち付ける雨、何も知らない腹立たしい私。」

俺はプルの頭を撫でた。

「だから、あなたは成功しなくちゃいけない。未練を断って、奥様に顔向けできるようにならないと。自分の問題なんです。手が汚れても、大事な人の何か失われてはいけなかったものたちが守られる。両の手でそれを包み込んでやれる。奥様を二度と抱きしめられなくても。失われてはいけなかったもののために。あなたは。」

プルが言語化してくれた言葉が重く俺にのしかかる。失われてはいけなかったもの。それは、彼女の笑顔で、生きる希望で、温かさで、未来で、今この瞬間で、彼女を形作ったもの。俺は、それらを守るための戦いに身を投じている。


翌朝。何事もなかったかのようにプルが俺をゆすり起こした。

「町を見に行きましょう!」

城下町は賑わっていた。この時間は英雄王が広場で町人と交流する時間だ。それを知ってか知らずか、プルは船が見たいと俺を港に連れ出した。広場とは真逆だ。

「この辺で水揚げされるものは何でしょう?」

プルの疑問にすぐに答えが返ってきた。漁師たちがアジやイワシを水揚げしていた。新鮮な魚たちがぴちぴち跳ねる。プルが漁師と交渉して、アジを三匹ほどもらった。それを、近場の漁師に金を払って捌いてもらう。アジのお造りが手に入った。堤防でなにも付けずに頂く。新鮮なアジに臭みなどない。

「醬油かソースが欲しいとこだな。」

「柚子胡椒もいいですよね。」

「マリネソースも合いそうだ。」

味を想像して、アジを食べる。美味い。ソースがないのは残念だが、美味かった。あっという間に平らげてプルと市場を見て回る。新鮮な野菜からさっき水揚げされたばかりのイワシ、変わったところで言うと宝石の露店があった。プルが興味深げに露店に寄る。

「やあ、エルフのお嬢さん。ルビーはいかがかな?」

赤い宝石を店主が見せる。

「スピネルじゃないですか。」

スピネルはこの辺じゃ溢れかえっている安い宝石だ。場所によっては希少性があるだろうが、この辺では魔力量も大したことがない平凡な宝石。ルビーに似た見た目をしているため、魔法の使えないものには見分ける手段がない。色が豊富で詐欺に使われることが多い。

「ああ、いや、お嬢ちゃん見る目があるねー。ルビーはこっちだ。」

露店の店主が今度こそ本物のルビーを見せる。ルビーは魔力量も多く、炎の魔法を使う時の触媒として優秀だ。七月の誕生石で、守護石だ。守護石はその人の運気を高め、魔力量を底上げする。ルビーは特にダイヤモンドに次ぐ高い硬度を持つから魔法よけのお守りとしても人気が高い。魔法よけには硬度が重要だから、一般的に高いルビーよりも、少し脆くなるがトパーズなんかも人気だ。

魔法を受けて、許容量を超えると割れる。割れた宝石は、集められて、魔道具なんかに使われる。欠片の一つ一つの魔力量は変わらないから、魔道具に自由な形で収納できる欠片の方がカットされた宝石よりも、実用性がある。

「おいくらです?」

「金貨二枚ぐらいかな。」

金貨二枚ということは、そんなに質の良いルビーでは無い様だ。

「また、今度にします。それから、私お嬢さんって年じゃないです。」

そう言い残してプルが別の露店に移動する。様々な魔道具が売られていた。そのうちの一つにプルが手をかける。

「お目が高いね、ご婦人。肉体増強の魔道具だよ。これがあれば、砂漠越えしたいときのサンドワームなんかが、怖くなくなるよ。」

今度の店主はエルフの年齢と見た目のギャップがわかっているらしい。サンドワーム。堅い顎を持ち、砂漠に生息するモンスターだ。砂漠越えにはサンドワーム対策が必須で砂地ならどこからでも出てくる奴らは堅い顎で何でも噛もうとするため、傷をつけられないような魔法は一つの手段になる。

「全体強化?」

「部分強化です首や腕などを、一・五倍。」

プルが小声で

「うちのは全身二倍です。」

といった。思わず笑う。

「回復の魔道具はどうですか?」

「これなんかは、全身の疲れを取ってくれるよ。肉体労働した後なんかは大活躍さ。」

大型の魔道具を店主が見せつける。ほとんど人の背丈と一緒。

「より小型のもので、疲れだけでなくエネルギーの補充まで行えるものがうちにはあります。」

これまた小声で張り合うように言った。俺の顔はしわくちゃになって笑う。店主が訝しむ。

「また今度にします。」

プルの一声に、店主は残念そうだ。広場に行って、ベンチで一休みする。

「魔道具と言えど、性能がいまいちな物ばかりでしたね。」

「君がすごいんじゃ?」

「そうでしょうか?世の魔道具製作への熱意が足りないように思います。」

プルの提案で王宮を外から見て回ることにした。王宮には花畑が周りにあった。他のことに夢中で気づかなかった。

「カサブランカの花畑ですよ。カサブランカの花言葉はご存じで?」

「知らない。」

「高貴、純粋などです。王宮にはもってこいですね。」

プルがカサブランカを匂いながら魔道具を取り出した。

「何の魔道具だ?」

「匂いの保存の魔道具です。アロマテラピーとかに使えますよ。」

プルが俺の目の前に魔道具をかざす。確かにカサブランカの良い匂いが漂ってくる。日が沈むころになって、酒場に行った。ポリッジと鹿肉の丸焼きを頼み二人で分けて食べた。カクテルを頼む。

「カシスソーダ、二杯。」

それを聞いてプルがほんのり赤くなる。

「魅力的か・・・。」

小声でつぶやいたのを聞いて?

「どうかしたか?カシスは苦手か?」

そう聞くと、ほんのり不機嫌そうに顔をしかめた。

「大丈夫です。」

カクテルを飲みかわし、夜が更けていった。酒場を出るころには、プルは出来上がっていた。宿屋に運ぶ。彼女をベッドに寝かせると、体を引っ張られた。覆いかぶさる形になる。

「えへへ。チューはあとのご褒美としても、ちょっとぐらい楽しんでもいいんですよ。」

彼女が大胆に自分の着ているシャツのボタンを外す。胸が露わになった。なかなか大きい。着やせするタイプらしい。

「自分の体は大事にしないとな。」

シャツのボタンを留め直してやり、彼女から離れ、ベッドで横になる。すると彼女の方から今度は覆いかぶさった。

「私からはありですよね。」

俺の頬にキスをして、俺のシャツを脱がせ、俺の腹の上に座る。ほんのり息苦しい。胸にある傷を撫でて、キスをする。案外大胆な彼女に驚く。

「もっと、エルフっていうのは慎ましいと思っていた。」

「エルフだって女の子ですよ。性欲だってあります。素敵な殿方にアピールだってしたくなりますよ。」

俺は彼女をひっくり返して、再び覆いかぶさる形になると、彼女の耳を優しく噛んだ。

「お預け。」

「ずるい。」

「全部終わったら。」

「ごほーび待ってますから。」

プルをベッドに戻して横になる。彼女の寝息がすぐに聞こえた。


王宮のはずれにある騎士訓練場は静かだった。英雄王が使うと聞いて、騎士たちは皆捌けていた。俺の心臓が緊張を刻む。プルが俺の胸に手を当て撫でた。マルスが来た。興味深げに魔道具を見る。

「これらをその男が実演してくれるのか?」

「はい。今回協力してくれることになったソルです。」

「ソル。剣はいくつから握っておる?」

「幼い時からです。英雄王様。」

「何を討伐したことがある?」

「サンドワームからワイバーン、キマイラなども。」

「それは期待できるな。本気でかかってまいれ。」

言われずとも。殺す気だ。プルが英雄王に肉体増強の魔道具を見せる。

「守りの増強と、素早さの増強をまずは試します。切りかかってみてください。二倍の効果をもたらします。」

マルスが剣を抜く。こちらも剣を抜いた。プルが魔道具をセットしてくれる。体に魔力が満ちるのを感じた。それを確認したマルスが切りかかる。とりあえず受け止めてみる。カキンと音を立て、剣を受け止めた。マルスの力は強いが、守りの増強のおかげでものともしない。マルスが距離を取り、突っ込んでくるのを見て、素早く避けた。英雄王の横に移動して、剣を弾いた。大きく剣先を逸らしたが、英雄王は剣から手を離さなかった。

「見事なものだ。魔道具の力は確かなようだ。」

「では次は、力の増強です。」

プルが魔道具を再びセットする。この魔道具のすごいところは、三つのバフを同時にかけられることだ。たいていの魔道具は、一つのバフで他の物を発動すると、効果の強いものを優先して打ち消しあってしまう。魔道具のサガのようなものでバフに関しては、手動でかけるのが一般的になってしまっている理由でもあった。宝石のいたずららしい。宝石の魔力は石ごとに打ち消しあう効果を持っている。

「準備が出来ました。ソル。」

プルと目を合わせ頷く。数少ない騎士たちが、英雄王を見守る。英雄王の強さゆえに護衛は少なく、英雄王の強さゆえに油断はあからさまだった。彼は自分の強さに自信があった。それゆえ、あらゆる防御の手段を取らず、生身のまま、ソルからの一撃を待ちわびた。ソルは心を落ち着けた。狙うは首一点のみ。これはあくまで事故なのだ。魔道具実演中に起きた事故。額に汗が流れ落ちた。

護衛との距離は十分。彼らは英雄王を守れず、死なせることになる。復讐は果たされる。妻の大事な何かは、俺の手によって守られる。意識を集中する。英雄王が構える。素早さの増強で、彼に一気に接近し、剣を首に向けた。英雄王は反応し損ねて、首が飛んだ。ころころと護衛騎士の足元に転がり、胴体が遅れて膝をつき、剣を手放した。カチャンという音が静かな訓練場に響く。首を取った。確かに殺した。俺が。復讐は果たされた。プルとの約束も守られるだろう。ここから出たら、彼女の唇にキスをして、他国に魔道具を売る仕事を手伝うのだ。

青い蝶が飛んだ。光が明滅する最中、死体から不気味なオーラが漂っているのが見えた。殺してからわずか数秒後。光が散る。妻がマルスに襲われたと告白するシーンが繰り返される。

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