09
「――ということがありました」
叱ってください、なんて言うのは違うからずっと咲さんを見ていた。
流石にどんな理由からであれ泣かせたということなら怒ると思う。
「え、私になにを求めてんの?」
「だ、だから親としては大事な娘を泣かせた人間を許せないですよね」
「そんなの泣いた蒼依が悪いでしょ」
おいおい、この人がこのままだと困る。
それならと蒼依に頼んで部屋から来てもらったのだが「昨日も言ったけどあれは私が勝手だったからね」ともうどこかにいってしまったようだった。
「というかね、蒼依がはっきりしないで曖昧な状態にしておくから千春が自信を持てなかっただけでしょ、だから蒼依が悪い」
「は、はっきり言うね? 確かにその通りだけどさ」
「なに? あんたもしかして告白をされたいとか考えてんの? やめときな、千春が動くのを待っていたら高校生活が終わってしまうよ」
結局咲さんはこちらにもはっきり言ってから「休んでくるよ」とリビングから出ていった。
「まさか千春君がこんなことのためにお母さんと会おうとするとは思わなかったよ、別れる前に説明してくれていたからよかったけどいま知ることになったら尻もちをついていただろうね」
「相手を泣かせるのはよくない」
「それはそうだけど、その件は昨日で終わったつもりだったからさ」
まあ、これ以上はどうにもならないから終わりなのはそうだ。
もう少しぐらいはかかるつもりでいたから時間が余ってしまった、このまま解散は寂しいから彼女とどこかにいこう。
「それならお鍋が食べられるお店がいいな」
「分かった」
「冬が終わる前にもう一度食べておきたくてね」
温かければなんでも美味しい。
ただ鍋となると料金的に奢れる余裕はなかったからそのことは言っておいた。
「奢ってもらうつもりはないよ」
「悪い」
「あ、やっぱりお鍋の前にそこの公園で……いい?」
「ああ、まだ時間はあるから寄りたいならそうしよう」
まだ十七時ぐらいだから十九時まで余裕がある。
冬なのと時間も影響して俺ら以外には誰も利用していなかった。
そういうのもあってベンチに座れたのはいいが今回も距離が近くて気になった。
「あ、あのさ、私達がお付き合いを始めたらどうなると思う?」
「これまでと同じように蒼依と過ごしていくだけだと思う」
「そ、それだとなんか物足りなくない? 別にそれだけならお友達のままでも問題ないんだからさ」
「蒼依はなにかしたいことがあるのか」
「え、そ、そりゃそうだよ、だって好きな人とそういう関係になれたんだよ? ただ話すだけじゃ物足りないよ……」
というかかなりすごい会話をしている気がする、これだともう俺に対して好きだと言ってしまっているような……。
「……上手くいったら抱きしめたりとか手を繋いだりとかしたいけど」
「蒼依なら嫌じゃないから求めてもらえるなら嬉しい」
「あ゛……いや、ちゃんと言うね」
少し黙ってから「好きです!」と。
結構大きい声量になることはたまにあるがこれはその中で一番のものとなった。
「これで千春君は私のもの、楓君にも自由にできない存在になったんだよ、くひひ」
「それでも楓とは一緒にいさせてほしい」
「え、そんなの縛るつもりはないよ、ただ兄弟で怪しい雰囲気を漂わせるのは駄目だというだけでね」
兄は寂しがり屋なだけだ。
とりあえず頑張らせてしまったのでこちらも動くことにした。
「あ……」
「体が冷えすぎるとよくないから」
それと手を繋ぐだったか。
これはもう一回してしまっていることではあるが彼女が満足したら店に向かっている最中にすればいいだろう。
「これ……やばくない……?」
「駄目だったか」
「そうじゃなくて……心臓がやばい、確認してみる……?」
いやしない、流石にそういうのはまだ早い。
彼女の心臓のためにもやめて空腹を満たすために移動を始めるか。
「ふぅ、これならまだ余」
「この時間は交通量とかも多いから気を付けよう」
「……裕じゃないかも、え、なんで千春君はそんなに平然としていられるの?」
「俺だって蒼依以外と手を繋ぐことになったら緊張する」
「いやそんな状態になってほしくないけどさっ、だってこんなに人がいるんだよ!?」
俺達のことなんて誰も見ていない、だがこちらはしっかり見ておかなければならない。
怪我を負わせたなんてことになったら終わりだろう、だからそうならないためにしっかり店まで運び、食べ終えたら家に届けるのだ。
「よ、予約していないから入口で待つことになるね、そして他にも人がいるから狭いよね、あと近いよね……」
「寄らないと迷惑になってしまうから許してほしい」
「許すとか許さないとかじゃなくて結局心臓に負担がかかっているよね……」
十五分ぐらいはその状態が続いて彼女の顔色は悪くなっていた。
だが食べられるようになった途端に回復していたから安心できた、近いことを気にしていたのに隣に座っているのはいいのか気になったが。
「ここは自分で取れるのがいいよね、色々な味でお肉を味わえるのも幸せだよお」
「蒼依」
「え、お店でそんな真剣な顔になって――な、ななっ、なに!?」
いや一生懸命になりすぎて服が汚れそうになっていたからなんとかしたかっただけだ、ポン酢とかでも厄介だろうからそうなる前にな。
「あの……長く生きたいから今日だけで何回も心臓を苛めるのはやめてね?」
「分かった」
「え、あの、なんで対面に?」
「近いと駄目みたいだから」
「も、戻ってきてえ!」
今日はなにをしても駄目みたいだ。
百分ほどのコースになっているが会話をしたり取りにいったりしている間に終了時間と腹の許容量の限界に近づいて完全に終了する前に会計を済ませて出ることになった。
「う、うーん、この状態であんまり近くにはいたくないから……今日は解散にさせてもらおうかな」
「それなら家まで送る」
初日はこれぐらいでいいだろう。
意地を張ったり、欲張ったりするのは大体いいことには繋がらないからいい雰囲気のまま終わらせるのだ。
「うぷ、じゃ、じゃあね、送ってありがとう」
「暖かくして寝てほしい、また明日」
帰ろう。
今度は兄も含めて三人でいけるともっとよかった。




