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262  作者: Nora_
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「千春ー肩揉んでー」

「分かりました」

「だから敬語やめてって」


 これは関係が変わったことを報告しにいったときも言われたがため口で話すのはな……。

 兄がおかしいだけだ、小さい頃からずっと一緒にいるとかだったらそれでも問題ないだろうが俺達は出会ったばかりだ。


「守らないとマジで蒼依と一緒に過ごせないようにするよ?」

「ここまで言っているんだから変えてもいいと思うよ、……気に入らないけど……」

「あんたも無駄に警戒しない。さあほら早く」


 仕方がないか。


「咲さん」

「ん」

「蒼依を産んでくれてありがとう」


 離婚してしまった父親にも感謝を伝えたい。


「ちょっ!?」

「ぶふっ! あははっ、千春面白すぎ!」

「もーそっちだけで盛り上がっていないで手伝ってよ!」

「それなら俺が手伝う」「私もお手伝いします」

「おっ、言った甲斐があったね!」


 彼女との関係が変わってから兄は丁寧に教えてくれるようになった。

 これまでであれば「休んでね」と一見こちらのことを考えてくれているようで戦力として見てもらえていなかったからこれは嬉しい。


「千春のことを咲さんも気に入っているし、蒼依ちゃんは彼女だし、もうここに住めば?」

「あれ、あんた寂しがり屋じゃなかった? 千春がいなくなっていいの?」

「そうですよ、楓先輩が千春先輩と一番一緒にいたがっているのに変ですよ」

「もちろん嫌だけど僕は蒼依ちゃんや咲さんにだって楽しそうにしていてもらいたいんだよ――あ、もちろん泰葉ちゃんにもだけどね」


 父親にでもなるつもりか、これはもうそういう目線での発言の感じだ。

 白鳥妹は「できればお兄ちゃんもそこに入っているといいですね」とブラコンなところを晒していた。

 

「ま、別に千春一人が増えたぐらいで苦しくなるようなことはないけどね、で、千春はどうなの?」

「恋人同士でもずっと一緒にいるより特定の場所で会えた方がいいと思うから」

「蒼依のことだけしか考えてくれてないよねそれ、あーやっていられないわー」


 咲さんはこっちまでくると冷蔵庫から酒缶を取り出して開けるなり一気に飲んでしまった。

 たまに飲む父を見て酒はゆっくり飲むものだと思っているので次へと動こうとする咲さんを止めに入る、白鳥妹も参戦してくれたからそう難しくもない。


「離して、もうやっていられないんだよー……」

「こんなお母さんは珍しいな、お酒だってなんでこんなに買ってきて――まさか……!?」

「だから変な勘違いをしない。お酒は……実は一人のときはこうして飲んでいたんだよ」


 よかった、普通に戻ってくれた。

 あと酒は男性だろうが女性だろうが好きな人は好きだろうから酒豪でかなりの酒代金がかかってしまっているとかでもない限りは止められるようなことではない。


「え、じゃあお父さんの前では隠していたんだ」

「ま、まあね、だけどそのせいで溜まりすぎて離婚なんてことになっちゃったけどね。もし普段からお酒で発散していたら離婚はなかったかもしれないね」


 好きな人に恥ずかしいところを見せたくない、いつまで経っても乙女だということだろう。


「千春君、私のお母さんってこういういい加減なところがあるんだよ? だから狙うのはやめてね?」

「そもそも千春先輩はいま蒼依先輩の彼氏さんですよね?」

「泰葉の言う通り、なのになんで無駄な心配をしているんだか。それに最初からこんなおばさんに興味を持てないでしょ」


 今度は一気にマイナス発言をするようになってしまった。

 こういう場合も止めなければならないか、いつものように自信満々な感じでいてもらいたいのだ。


「咲さんとも仲良くなりたい」

「「お」」「ああ!?」

「蒼依ちゃん、そんななにもかもに対して真面目に反応しても疲れてしまうだけだよ?」

「お、大人な楓君にもやられるなんて……」


 あのときから少し喋り方を変えているから正論がより深く突き刺さるのかもしれない。

 前までだったら兄が感情的になってまあまあと彼女から止められていたぐらいなのにこんなことになるなんてな。


「あんた可愛いね」

「それは蒼依とか白鳥妹に言ってあげてほしい」

「この子は可愛くないよ、すぐに『お母さんは~』って小言ばっかりなんだから」

「そろそろ泰葉って名前で呼んでほしいですけどね、蒼依先輩だって異性を名前で呼んだぐらいで怒ることはないでしょうしね」


 い、いまはそれよりもこっちだ。

 というか一人後輩なのにここまで堂々といられていることがすごい。

 白鳥は今日予定があって来ることができなかったが兄パワーがなくてもこれだからな。


「ここには俺達しかいないんだから素直になった方がいい」

「え、ガチトーンでそんなことを言われても困るんだけど……なんか気になるから私が代わりに手伝うよ」

「私はいいですか?」

「うん、泰葉なら大丈夫」


 ああ……結局はこうなるのか。

 初心者だからこそ食材だって食べやすい大きさで丁寧に切ったりしているのにまだ足りないのか。


「咲さんはいつもそうやってやってくれればいいのに」

「うるさいうるさい、いいからやるよ」


 悲しくなってソファに座っていると「元気出して」と蒼依が手を握ってくれた。


「最初からこれでいいんだよ、千春君は私と、仲良く、しておけばいいんだよ」

「でも、蒼依だと隠してしまいそうだったから咲さんから聞きたかったんだ」

「隠せていることというか我慢できていることはないよ、そもそも勝手に泣いて困らせたばかりだよね?」


 欲望に正直すぎるぐらいでいいのだが。

 嫌なんて一言も言っていないのに「め、迷惑だよね」などと言って終わらせようとしてくることが気になる。

 蒼依だからと、彼女だからとなんでも受け入れられるわけではないから拒絶していない限りは気にしなくていいのにそんなことばかりだ。

 告白をしてきたあの日に勇気を出し切ってしまったのだろうか。


「俺には隠さないでほしい」

「だ、だから隠していることなんて――あ」


 やっぱりなにかあるのか、どうすれば吐いてもらえるのか。

 ここは同性である白鳥妹にも頑張ってもらうしかないか。


「ちょっと、私達もいるんだからイチャイチャしないでよ、あとご飯だよ」

「ご飯よりも好きな女の子を抱きしめていられる方がいいんですよ」

「咲さんに協力してほしい」

「ま、この子が素直に吐いてくれたらだね。とりあえずいまは切り替えな、千春なんかはご飯を食べることが特に好きだから余裕だろうけどね」


 木本家でも家と変わらずにほとんど兄の味であることは確かに落ち着ける。

 だがいまは――怖いからやめよう、あと集中せずに食べたら兄に、白鳥妹に申し訳ない。


「千春、多分だけど蒼依ちゃんは体重が増えてしまったことについては隠していると思うな」

「楓君、そういうのはよくないと思うんだ」

「そうですよ、女の子の体重について触れるのはなしです」


 体重? それぐらいならいいのだが。

 寧ろ女子だからと食べる量を意味もなく減らしていなくて安心できる。

 しっかり食べられているということだ、よかったなと言ってやることだろう。


「怖い顔をしても無駄だよ、そもそも僕から千春を奪うという先に酷いことをしたのは蒼依ちゃんなんだからね」

「……好きになっちゃったんだから仕方がないじゃん」

「楓も余計なことを言わない、蒼依もガチな反応をするのはやめな」

「お母さんって味方なのかよく分からなくなるよ……」

「味方だよ」


 そう、味方だ。

 そうでもなければ俺達はこの関係になれていない、会うことすら難しくなっていたかもしれない。


「まあ、お世話をしてくれているからそうなんだけどほら、こういうときに楓君の味方をしようとするからさ」

「そりゃお客さんを放っておいていつでも娘ばかりに味方をするなんて駄目でしょ、泰葉だってそんなところを見ることになったら呆れるでしょうよ」

「私が正しいときでも?」

「正しいときにわざと悪く言ったりしないよ、楓や千春がいるときはいつも変になるあんたが悪いんだよ」

「うわーん!」


 痛い、そしてリビングから離れることになった。

 もう食べ終えたところだったからそこはよかったのだが洗い物ぐらいはやらなければならないからほどほどのところで戻りたい。


「さ、さっきの続きをしてほしいな」

「これでいいか」

「うん、優しく抱きしめてくれるからもっともっと好きになるんだ」


 彼女の方は力が強くてそんなに必死に抱きしめなくてもと言いたくなる。


「欲情するのは自分達以外には誰もいないときにしな」

「そうだよ、あんまり千春に自由にすると咲さんを僕が貰うことになるよ?」

「え、そ、そういうのってあり、なんですか……?」

「あ、どうぞどうぞ」


 確かにいまは一人ではあるが友達の母を狙うのはどうなのだろうか。

 そういうのも創作以外であるのか? 好きになってしまったのなら仕方がないで片付けられる話なのだろうか。


「勝手にあげないで、千春もこの子の自由にさせておくと大変なことになるよ」

「求めてもらえるのは嬉しい」

「あー……千春ってなんでこうなんだろうね……」

「こういうところも千春先輩のいいところなんだと思いますけどね」


 開き直るみたいになってしまうがそれが俺だからだ。

 そもそも嫌ではないどころか好きな相手から求められて喜んだり嬉しかったりしないのならもう離れた方がいいと思う。


「まあいいか、私はちゃんと言ったからね」

「ありがとう」

「楓、泰葉、戻るよ」

「はーい。じゃあいまは二人でごゆっくりー」

「私は邪魔をしませんからね」


 洗い物――をしにいくことはできなさそうだ。


「あと五分ぐらいはこのままがいい」

「ああ」

「千春君ありがとね」

「蒼依もありがとう」


 これなら温かいから風邪も引かないよな。

 まあもし風邪を引いてしまったとしてもちゃんと付き合うからそこは安心してくれてよかった。

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