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262  作者: Nora_
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05

「入るぞ」


 今日あの男子――白鳥しらとりに頼まれて妹のところに来ていた。

 なんでも風邪を引いてしまったそうなので色々と買ってからここへ、もう微妙な時間だから部屋は薄暗い状態だ。


「……お兄ちゃんお帰り」

「おう、体調はどうだ?」

「朝よりはマシかな」


 いやでもいいのか、部屋を勝手に見ることになってしまったが。

 木本の部屋にだって入ったことがないのに友達でもない後輩の異性の部屋だ、これなら誘っておくべきだったと後悔――いやここに来たことを後悔していた。

 いま木本とは距離を作っているので誘わなかったことは正解だ、絶対にそうだ。


「でも、千春先輩まで来てくれるとは思いませんでした」

「俺が誘ったんだ、多賀兄とか木本の方がよかったか?」

「ううん、誰か来てくれても嬉しいし、申し訳なくなるのは変わらないよ」

「はは、まあ早く元気になってくれ」


 ここで退室、彼が意地悪なところもある人間ではなくてよかったとしか言いようがない。


「で? なんで最近は木本と一緒にいないんだ?」

「それが目的か」

「まあな。多賀兄がなにも言っていないことの方が意外だけどな」


 兄は誰かといられればそれでいいからいまは細かいことが気にならないだけだ。

 時間が経過してから攻撃される可能性はある、そのときに刺されても困るから帰ったら説明しようと思う。


「千春先輩、木本先輩と喧嘩でもしてしまったんですか?」

「寝ていた方がいい」

「いままで寝ていたので寝られないんですよ、なので相手をしてもらいたいです」

「じゃ、泰葉のことを頼んだぞ」


 意地悪なところもある人間だった。


「木本と喧嘩をしたわけじゃない」


 それどころか俺が変に考えてこんなことをしていなければ一緒にいられる時間も増えていて周りからしても仲良くは見えていたことだろう。


「そうなんですか? それならいいんですけど」

「でも」

「はい」


 いやいや、病人に相談を持ち掛けているように見えて駄目だろこれじゃ。

 情けなさと恥ずかしさと申し訳なさが重なってそれ以上はなにも言えなかった。

 彼女も無理に聞き出そうとはしてこなかったのでそのまま五分以上が経過、流石に見ていられなかったのか「ここだけ暗いな」と彼が戻ってきた。


「俺としては前よりも仲良くできているように見えたんだけどな」

「そうなの? それでも喧嘩をしたわけじゃないなら……なんでだろう?」

「楓といられるときの方が楽しそうだからだ」


 早く休んでもらいたいからこれ以上時間を使わせるわけにはいかなかった。

 最初からこうしておけよという話だ、いつも通りにはいられていないみたいだ。


「え、それって、なあ?」

「わ、私にもそのようにしか見えないけど」


 二人して変な反応でまた静かな時間になってしまった。


「俺のときはマイナス寄りの感じでいるときが多いから」

「楽しそうじゃないってことか? そんなことないと思うけどな」

「千春先輩と木本先輩って別々のクラスなんだよね? なのにお兄ちゃんはよく知っているね?」

「多賀が教室にいると多賀兄も木本もすぐに来るんだ、多賀も嫌がらないから一緒にいるところは何回でも見ることができるんだよ」


 つまり他のクラスメイトも同じように俺を見て怖がっているわけだ。

 実は目つきが悪いとか? 目が悪いわけではないが目を細めているときがあってそのせいで睨まれているように感じてしまっているとかだろうか。


「うーん、私も同じ学校ならよかったのに……」

「今度録画して送ってやるよ」


 待て待て、勝手にそんなの送らないでほしい。


「明日木本に話を聞いてみるかな」

「この件に関しては完全にお兄ちゃんに任せて私は……寝ます」

「悪かった」

「謝らないでください、千春先輩が来てくれて嬉しかったですよ!」


 帰るか。

 一応確認をしてみるともう家で一人みたいだったから少し安心した。

 家に着いても自由にやられてしまうこともなく平和に終わり、翌朝もぎりぎりまで粘ってから登校をした。


「よう」

「ああ」


 白鳥は面白い、律儀に守るために今日も俺のところへ来ている。


「後で木本のところにいってくるよ」


 離れる前にこちらの肩に手を置いてから「無駄に悪く考えるな」と言ってきた。

 だが実際そうだから俺なりに考えて行動しているわけで、それこそ二人きりでいるところを見て判断してもらいたいところだった。

 勝手な想像ではない、兄といられている方が楽しそうだからでしかない。


「ばーん!」


 俺も相手が兄のときの方が気が楽で自分らしくいられるからそうなってしまうのも分かる。


「千春、なんか元気ないよね?」

「そう見えるか」

「うん、それに蒼依ちゃんと一緒にいないことも気になるよ」


 あ、自分らしくいすぎて説明するのを忘れてしまっていた。

 とりあえず二人なのをいいことに説明すると「それは悪く考えているだけだね」と兄は腕を組みつつそう言った。


「勝手に悪く考えて一人でいるなんて一番やっちゃいけないことだよ、はいほらいくよ」

「もう時間がない」

「じゃあお昼休みね、逃げたら怒るから、夜ご飯のおかずが一つなくなるぐらいの覚悟をしていた方がいいよ」


 一食の中のおかずが減ったところで大して問題にはならないだろうから避けられるのならその方がいい。

 だから絶対にいかないと決めていたのにまさかの、


「来たよー」


 昼休みに本人が兄よりも早く突撃してきたという……。

 慌てて白鳥を見てみても同じように友達とご飯を食べようとしているだけでしかなかった。


「あれ? 楓君はまだいないんだ?」

「あ、ああ」

「まあいっか、横の席を借りて――よし、これですぐにでも食べられるね」


 いつも頻繁に話しかけないことでこちらが黙っていても気にならないのか「今日は少し豪華なお弁当になっているみたいなんだよね」とあくまで彼女は変わらなかった。

 なんでもいいからせめて兄も来てくれと願いつつ待っていると「お待たせー」と兄が登場、だが彼女の移動の速さに驚いているみたいだった。


「もう教室にいったときには蒼依ちゃんいなかったからね」

「あはは……豪華なお弁当を早く見たくて仕方がなかったんだよ」

「ま、こうして揃ったのならいいよ。いただきます!」

「私も――え……?」


 豪華なお弁当なら高レアリティの食材が使われたり、高クオリティの食材ばかりになっているはずだったのにそこにあったのは、


「白ご飯だけ……?」


 そう、おかずがあってこその白米なのにそれしかなかった。


「お母さんに騙された!?」

「か、可哀想だから僕のおかずをあげるよ」

「俺も、楓が作ってくれたものだから味は大丈夫だ」


 彼女は受け取りつつも「やっぱりお母さんは私が嫌いなんだ……」とショックを受けているみたいだ。

 豪華な、なんて言われていなければもっとダメージは少なかっただろうな。


「ちょっと電話をしてくるから二人は先に食べてて!」


 出ていってしまった。


「咲さんどうしたんだろう、忙しかったのかな? 意地悪をしたかったとかはないよね、子どもじゃないんだからね」

「子どもでも大人でも変わらないから分からない」

「えーじゃあ千春は咲さんを疑っているの?」


 でも、ふりかけすら入っていない状態で白米だけなんておかしいだろう。


「楓」

「あ、まだあのことについてはなにも言っていないんだ、蒼依ちゃんもなにも言ってきていないからいま戻せばなかったことになるよ」

「楓が一緒にいるのは駄目なのか」

「そりゃ友達だから僕も一緒にいたいけど千春がゼロにするのは認められないよ」


 兄と喧嘩状態になってしまったら面倒くさくなる。

 部屋でぼうっとしていることが好きなのに家に帰りづらくなってしまうから極端なのはやめなければならないか。


「ただいま」

「咲さんはなんだって?」

「おかずの方を忘れちゃったんだって、つまりこれとは別にもう一つ渡すつもりだったみたい」


 そういう……ま、まあ、子どもでも大人でも変わらないということだ。

 大人だからと完璧に忘れ物なんかをせずにいられるわけではないのだから仕方がない。

 彼女も最初から怒ってはいないみたいだからこの話はここで終わりだ。


「そ、そうなると白ご飯の量が多くない……?」

「だ、だよね、だから渡されなくてよかったかもしれない。今日は楓君と千春君がくれたこのおかずで食べるよ」


 本人に気づかれる前でよかったか。

 すぐにじっと見てしまっていることに気づいてやめておいた。

 どう見ても兄のときの方がいい表情をしているが兄と喧嘩なんてことだけは避けなければならなかったから。




「千春君って甘いの大丈夫だっけ?」

「ああ」


 カレーとか麻婆豆腐なんかは甘口でなければ食べられない、中辛ならぎり食べられなくもないがひーひー悲鳴を上げることになる。

 からしとかわさび、キムチなんかも余裕で食べられるのに謎だ。


「もうすぐバレンタインデーだからね」


 あ、そういう……。

 まあ、チョコに関してもわざわざ苦い物よりも甘い物の方が、なんなら甘さ全開の方がいいからくれると言うのなら貰うだけだった。


「あとは楓君にもちゃんと聞いておかないと」

「楓も甘い物が好きだ、苦いやつは目がバッテンになるぐらいには苦手だ」

「そうだっけ? って、ほとんど人はそうだよね、苦いのを好む人もいるだろうけど甘い方がいいって人の方が多いよね」


 最初の頃には話をしても食べ物が出てくる度にこれがどうこうと話すわけではないから忘れてしまっていても仕方がない。


「あっ、さ、先に言っておくけど市販の物をそのまま渡すだけだからね? ご飯すら作れないのにお菓子作りなんか無理だからね……」

「それでもありがたい」


 いやその方がありがたい、手作りの物を渡されても返すときに困るから。

 というか、兄に「待っててよ?」と言われたから二人でこうして待っているのにまだ来ないのは……。


「ねえ」


 ほらこの顔だ、こうして暗い顔をされたら自信なんて持てないよな。

 違う相手のときでも同じような顔ならそういう人だって片付けられるが俺だけこうならああいう判断をしてもおかしくはないだろう。


「この前の私、本当は千春君に避けられていたよね?」


 こうして時間差で詰めてくるところも怖い。


「楓君もなにか言いたそうにしていたもんなあ、しかも一番は白鳥君が私のところに来たことだよね。もうあれだけでいつもとは違うって分かったよ」


 ああ、白鳥はやっぱりいってくれたのか。

 本当に俺みたいな人間のことを放っておけない人間ってのがいるものだよな、と。


「なんでなの?」

「蒼依ちゃんそれは――」

「いま千春君に答えてもらえるところだから楓君は少し待ってて」

「わ、分かった」


 甘いような話からここまで苦さ全開の話に変わることってあるものなのか。

 いつまでも逃げていたところで色々なところが冷えるだけだから正直に答えておいた、というかこれ以外のやり方が見つからなかった。


「千春君は差を作られていないと不安になっちゃうんだね」

「いやいまの千春の話を聞く限りでは差ができていたと――」

「それは千春君の勝手な想像だよ」

「きょ、今日の蒼依ちゃんは怖いな……」

「そう? 私としてはなにもしていないのに去られてしまいそうになることの方が怖いと思うけどね」


 俺としては二人きりになることをなるべく避けたかっただけで別にずっと一緒にいないようにしていたわけではないのだ。


「このことをお母さんに話さなければならないから千春君には来てもらうね」

「ぼ、僕は駄目なの?」

「来たいなら楓君もいいよ、寧ろ楓君がいてくれた方が千春君に逃げられなくて済むよね」


 ただ彼女と一緒にいたいからならいいが俺のことを考えてのことなら……悪い。

 でも、いまの彼女は怖いから兄がいてくれるのは本当にありあたいことだった。


「『俺達ならちゃんといる』って言ってくれたのにな……」

「まあほら、結局はすぐにやめてこうしてまた三人でいられているでしょ?」

「どうせ楓君は知っていたんでしょ……?」

「うん、僕が止めようとした日に千春が考えを改めてくれたからね」

「ずるいよ……そりゃ関係を切られることもない楓君からしたら気にならないかもしれないけどさ」


 いやだから切るつもりはなかったのだが。

 どうせ俺は兄や彼女の優しさに甘えて行動してしまうからゼロには絶対にできなかった。

 しかも三日ぐらいしか頑張れていないんだぞ、と情けないことではあるが言いたくなる。


「んーできる限り腕でも掴んでおけばいいんじゃない?」

「やっぱりそうするしかないよね」

「手でもいいと思うけどね」

「手か、確かにその方が一方通行感が出ないよね」


 ああ、もうこれは兄が全力で乗っかっている状態だった。

 彼女もいまはテンションがおかしいのか「これでいいよね?」なんて実際に行動に移して聞いてきているぐらいだ。

 精神的にやられて手を掴まれていてもいいから寝させてもらうしかなかった。


「起きなって」


 そのせいともそのおかげとも言えるが木本母が帰宅するまで一瞬に感じる。


「なに? 手を繋ぐぐらいには親密になったの?」

「罰です」

「罰? これはここで同じように爆睡していた蒼依に聞くしかないか」


 同じように寝たことでいつも通りの彼女に戻っていてほしい。

 俺はいつも通りの彼女といたい、もう二度とあんなことはしないから頼むと願った。


「ん……あ、お母さんおかえり」

「ただいま。それよりこれは?」

「あっ!?」


 おお、やっと解放されたぞ。


「おっきい声だね、楓なんかソファで寝ているし……自由か」

「こ、ここ、これはその!」

「あんた鶏かなんかなの? それで?」


 乗っかろうとする兄に頼るよりも木本母を頼ればいいか。

 話すだけで曲がったものが真っすぐになっていく、俺達は身を任せているだけで疲れることがないのもいい。


「……千春君が私の側から去ろうとしたから気に入らなかったの」

「ふーん、そんなにこの子に側にいてもらいたいんだ?」

「うん、どこかにいかれたくない」


 これは……戻っているのか? まだおかしいままに見える。


「俺は切るつもりなんかなかった、ただ楓とか一緒にいて楽しい人間といてほしかっただけだ」

「と言っているけど?」

「それは嘘でしょ、だって楓君しか話してくれていなかったし……」

「いやそれはこの子がそういう子ってだけでしょ、あんたの方がこの子のことは分かっているんだから勝手に不安になるのはやめな」


 それについては俺も変わらないから真ん中に刺さった。


「お母さんはおかずを忘れないで!」

「はは、いまそれを言うの? ふむ、なるほどね、蒼依がこんなだから千春も困っているんだね」

「な、名前で呼ぶの?」

「まあ、もう一回呼んでいるし、楓のことも名前で呼んでいるのにここだけはしないなんておかしいでしょ」


 いま大事なのはそこではないし、全く気にならないから好きにしてくれればいい。

 これを完璧に片づけるには二人きりで話さなければならないから流石の俺もただ待っていればいいわけではなかった。

 それでも今日は寝ている兄を背負って帰ることにした。

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