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262  作者: Nora_
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04

「おお、ここが新しいお家か――じゃないんだよね、なにも変わっていないんだよね」

「お母さんが私を求めたのが意外だったよ、いつもは私にも少し冷たいところがあったぐらいなのにね」

「でも、ここならこれまで変わらずに一緒にいられるからいいね」

「確かにそれはそうだね、お母さんも十九時ぐらいまでに帰ることを守れば自由にしていいって言っていたからこれまでと大して変わらないね」


 それでももう新しい年になって、ここに彼女の父が帰ってくることはなくなるのだから大きな変化だろう。

 あとこの前ここに来た際に彼女の母と話すことになって怖いところもある人だと知ることができたため、なるべくここには長居したくなかった。


「僕らのお家にも蒼依ちゃんの物があっていつでも泊まることができるから遠慮しないでね」

「うん、楓君もありがとう」

「僕はご飯を作ることぐらいしかできないからお礼を言われても困るかな」


 さあ、この会話が終わったタイミングで帰るべき――遅かったみたいだ……。


「あれ、あんたらまた来てたの?」

「あ、さきさん今日は早いね」

「今日は特にやることがなかったからね。それより楓、そっちのはもう少しぐらいなんとかならないの? ここに一緒にいても二人しか喋っていないけど」


 兄もこの人もすごすぎるだろ、なんで友達みたいに話せているんだよ。


「千春はいつもこんな感じだよ?」

「ふーん、まあいいや。蒼依、今日はなにが食べたい?」


 冷たいところがあるというかそのように見えてしまっているだけではないだろうか、この人にとってはこれが素なのだろう。


「うーん、お母さんはなにを作るつもりだったの?」

「アジを焼こうと思っていたんだけど調理が得意な楓がいるなら任せようかな」

「お、それなら休んでいてよ」

「ふっ、任せるよ」


 家族か……。

 なんか見ていられなくて窓の外に意識を向けていると「ねえ」と話しかけられた。


「学校での蒼依ってどんな感じ?」

「ちょ、そんなの私に聞けばいいでしょ?」

「だって蒼依って色々なことを隠していそうだから、あと楓もなんでもいい方にしか言わないからこの子に聞いた方が本当のところが分かるかなって思ったんだけど」

「別々のクラスだから分からないよね? ごめんね千春君」


 授業中のことなんかは別のクラスで見られていないから対俺のときのことを考えて教えておけばいいか。


「俺にも楓のときと同じように優しいです」

「あー元々は楓の友達だったんだっけ? でも、あんたもほとんど同じぐらい一緒にいるんでしょ? だったら別に蒼依が頑張っているとかじゃないよね」

「俺に合わせるために頑張っていると思います」


 自分で言うのもあれだがほとんど口にしないからな。

 ほとんど自分で考えて行動しなければならないから他の人が相手のときよりも大変だろう。


「でも、あんただって蒼依を家まで送ったりして合わせているときがあるでしょ? だったら一方通行じゃないし、いいことだね」

「私、外での話は積極的にしていると思うけど、それなのにお母さんが『ふーん』ぐらいで終わらせてしまっていただけだよね? だから冷たく感じていたぐらいなのに」

「冷たい? そんな訳がないでしょ、というか私が蒼依のことを好きじゃなかったらこうして受け入れていないんだけど」


 まあ、そうだよな、親が子どものことを絶対に好きになるなんて決まっていないよな。

 中には攻撃すらしてしまう親もいるわけだし、俺らは恵まれているのかもしれない。


「お母さんが受け入れてくれたことと、木本性であったことには感謝しているけど……」

「はぁ……もうあの人のことは忘れな、好きになって結婚をしても修復不可能になるぐらいに壊れてしまうときがきたりするもんなんだよ。あんたが誰かと結婚したときにはこんなことになってほしくないけどね」


 頭を撫でられて少し顔を赤くしている彼女がいた。


「ま、さっきの話に戻すけどここにいる千春、の話もよくしていたからね、会ったことがない状態でもある程度は知ることができていたんだよ」

「そうだったんですか」


 悪いことを言われていなければいいが。

 だが、多分俺があまり口にしないことについての発言が多くなるはずで、そうなるとつまらないとか物足りないとかマイナス方向に振り切っていそうだった。

 俺だってこんなに黙っていることが多い友達ができたらやりづらさを感じることだろうし。


「友達のことなんだから普通でしょ? そうでなくても私は放課後のほとんどの時間を千春君や楓君と過ごすために使っているんだから」

「なんで?」

「なんでって、いまも言ったように友達だからだよ」

「はは、ごめんごめん、そんなに怖い顔をしないでよ」

「いや、怒ってはいないよ」


 確かに怒っているようには見えなかった。

 そういうのもあって悪い空気になることもなく二人で引き続き盛り上がっていたのだった。




「千春から見て蒼依ちゃんは無理をしているように見える?」

「あくまでいつも通りの木本に見える」

「そっか、すごいよね、僕なんて両親が離婚したらしばらくの間は引きずってしまいそうだよ」


 あの両親なら大丈夫だ、緩く仲良くやれているからそんなときはこない。

 リビングでいちゃいちゃできないから俺達を追い出そうとしてくるぐらいだぞ、毎回「冗談だよ」などと言ってくるが俺的にはそうは見えないぐらいだ。


「あと急に変わるけど僕は蒼依ちゃんに嫉妬をしているんだ」


 本当に急だな、心配しているように見えたのにこうなると一気に変わってきてしまう。


「だって千春に優先してもらっているから、女の子だからってずるいよね」

「積極的に離れていたのは楓だ」

「仕方がないじゃん、千春だって蒼依ちゃんのことを求めているのが嫌でも伝わってくるんだから。そこは兄としてちゃんと守ってあげないと嫌な子になっちゃうでしょ……」


 確かに前と比べたら木本が相手のときでも話すようになったがそれぐらいだ、話しかけてきてくれるから相手をさせてもらっているだけなのだ。

 勘違いをしてこれ以上を求めたりはしない、そういうのは兄とか他の男子がしておけばいい。


「千春と蒼依ちゃんがいまのまま続けるつもりなら僕にだって考えがあるんだからね、もう咲さんと仲良くしちゃうんだから」


 いやそれはやめておけ……。

 あんまりこういう話をしたくはないがこの前一緒にいた女子のことを出しておくことにした。


「好きな子がいる子に一生懸命になっても虚しい結果になるだけでしょ」

「それこそ木本でいい」

「ねえ、わざと言っているでしょ、そんなに意地悪い子に育つなんて思わなかったよ」


 いまはなにを言っても駄目みたいだ。

 いつも頑張ってくれているからなにか食べさせることにした。

 俺の頼りない調理能力を使用するよりも外で美味しいご飯を食べられた方がいいだろうから兄に聞いて店を選んだ。


「本当に千春が払ってくれるの?」

「ああ、心配なら財布を見ればいい」


 ちゃんと払えるように貯めてある。

 外に持ち込まないようになっているというか、切り替えが上手い兄なので頼んだ料理が運ばれた頃にはすっかり元通りになっていた。


「もう一月かあ、四月になれば二年目になるからその点はいいんだけど来年はもう卒業だからそこが寂しいかな」


 俺は一年の夏頃から木本と過ごし始めたので更に頑張らないと微妙なところで終わってしまう。

 それこそいまよりは確実に忙しくなるから大丈夫か……? と少し不安になった。


「嫉妬しちゃうときもあるけど蒼依ちゃんのことは好きだからいまから呼ぼうかな」


 そこは好きにしてくれればいい。

 ドリンクバーも頼んであるのでできる限り飲んで帰ることにして格闘していた。

 女子は色々と出かけるのにも時間がかかりそうだから間に合わなさそうだ、そもそも参加されたら木本の分だけ払わない、なんてこともできないので財布的に結構なダメージになる。

 金払いがいいから一緒にいられても嫌なのでできれば身内以外にはあまり奢るようなことはない方がよかった。


「はぁ……はぁ……なんとか間に合ったっ?」


 ああ、うん、こういうときに相手のことを考えて急いでしまうのが彼女だよな……。


「なにか頼めばいい」

「今日は千春が払ってくれるんだって」

「えっ、い、いいのっ?」

「……ああ」

「い、いま凄く嫌そうな顔になったけど本当にいいの!?」


 あまり騒がしくしていると店員から注意されそうだったのでとりあえず座ってもらった。

 じっと見ておくと頼みづらいだろうから一回兄を見てから窓の外に意識を向ける、兄はこういうときに優秀で本当に全部言わなくても分かってくれるからありがたい。

 彼女は五分ぐらいかけてから注文を済ませていた。


「ここ、ちょっとはねているね」

「ああ……誘われると思わなくてベッドからも動かずにずっとごろごろしていたんだよ。だからその影響かな、あはは……」


 いまは冬だから動かなくていいのならずっとそのままでいたいときもある、冬休みは終わってしまっているから週に二日の貴重な休日にしっかり休んでおきたいのもあるだろう。

 止めてやればよかったか、これは申し訳ないことをした。


「ちょっと触ってもいい?」


 ひぇ……外の寒さと同じぐらいには怖い存在だった。


「うん、だけど直らないと思うよ?」

「よいしょ、っと――うーん、手強いね、次は千春がやってみてよ」

「千春君でも無理だと思うけど直ったら私的にありがたいからやってみて?」


 おいおい悪魔か。

 俺に兄みたいにできるメンタルはないから聞こえないふりをしておくことにした。

 こういうときに口数が少ないキャラだったことが役に立った、二人が前に進めてくれた。


「自分で言っておいてあれだけど千春は恥ずかしがり屋だから女の子に触るなんて無理だよ」


 いい、恥ずかしがり屋にされても避けられるのならそれでいい。


「私としてもありがたいかな、自由に触られてもひええ!? ってなっちゃうからね」

「え、じゃあ僕はアウト?」

「楓君は触る前に言ってくれるから大丈夫だよ?」

「ほっ、よかった」


 料理が運ばれてきてからは何故か兄がこちらに座ってきて謎だった。

 ごろごろしていたことでなにも食べていなかったのか話しかけることすらできないぐらいには彼女が食べることに集中していて、一緒にいるのに誰も話さない静かな時間となった。


「蒼依ちゃんって可愛いね」

「が、がっついているところでそう言われても喜べないよ……」


 いやおい、そういうのは二人きりのときにやってくれ。

 あと移動した理由が横からだとちゃんと伝わらないからとかなら本当に勘弁してほしい。


「入学してすぐに話しかけてよかった、蒼依ちゃんに恋人がいなかったこともいい方に働いたんだ」

「ど、どうして?」

「だって仲良くしようにも男の子が邪魔をしてくるかもしれないでしょ? だからだよ」


 ぐいぐい踏み込みすぎだ。

 一緒のテーブルだから全く意味はないものの、全く関係ない他人のふりをするしかなかった。




「ぷは~食べた食べた。さてと、僕はお買い物をしてから帰るから蒼依ちゃんのことはよろしくね」

「俺も手伝う」

「少しだけしか買わないから大丈夫だよ、ご飯を食べさせてくれてありがとね千春」


 出たよ、そういうのはいらないのだが。

 まあ、彼女の母からちくりと言葉で刺されたくはないから送って家に帰るか。

 まだ昼頃なのがいいよな、これならまだ彼女だってゆっくり自分のしたいことができる。


「千春君、お金払うよ」


 今更「ああ」と受け入れられるか。

 首を振ってこれ以上広げられないように歩き始めた。


「そういえばお母さんがまた千春君に会いたいって言っていたんだ、だからこのまま上がってもらうことになるけど……いい?」

「ああ」

「よかった、いつまでも守らないとまた怖いお母さんになっちゃうかもしれないからありがたいよ」


 母も俺に会いたがってどうしたいというのか……。

 遺伝してしまっているということなのだろうか? 俺みたいな人間は放っておけないとかそういうのだろうか。

 神に誓ってもいいぐらいには変なことはしていないから不安にならないでほしい。


「あ、今日は学校が終わった後に行動していたわけじゃないからまだまだ時間があったね……ごめん」

「木本がいいなら待たせてもらう」


 どうせやることもない、家事も「休んでくれていればいいよ」と戦力外通告を受けたばかりだ。


「ねえ千春君、高校生までの千春君ってどういう風に過ごしていたの?」

「いまと同じだ」


 これは努力をしているだけであって彼女だからと――いや周りはそう判断してくれないか。

 ただ、こうして分かりやすく口数を増やしているのにまだほとんど黙っている判定をされていることが気になっていた。


「あ、でも、楓君が友達と楽しそうにしていたって言っていたけど」


 事実、同じように黙っていてもちゃんと合わせていれば向こうもそうしてくれた。

 なんなら俺のことを全く知らない相手に対して「多賀君はこういう人なんだ」と説明してくれて、こちらのことを考えて行動してくれる人達ばかりで嬉しかった。

 違う学校になってしまってからは関わることがなくなってしまったものの、多分メッセージなんかを送ればちゃんと反応してくれると思う。


「木本はどうだ」

「私? 私はね、いまからだと想像できないかもしれないけど本ばかり読んでいたんだよ? 正直に言うと人見知りだったんだよね。誰かといたい気持ちは普通にあって、だけど一人じゃどうすることもできなくて本にばかり逃げていたときに明るい女の子が話しかけてくれたことでいまみたいに動けるようになったんだ」

「俺のときだと申し訳なさそうな顔をすることが多いのはそこからきているのか」


 教室にいるときと同じか、存在しているだけで相手を怖がらせたり、怯えさせたりしてしまうのは駄目だろう。

 でも、本当に存在しているだけでこうなるのならどうしようもないなと、開き直りたくはないがなんとかしようとすればするほど逆効果にしかならないことだ。


「えっ、顔に出てた!? ……って、いつもの私はそんな顔をしているの?」

「楓のときはいい表情ばかりで楽しそうだ」


 疲れた、話しすぎた。

 これだと兄に嫉妬しているように見えてしまうのも不味いだろう。


「な、なんか恥ずかしいな、泰葉ちゃんに聞かれたときも言ったけど差を作っているつもりはないよ?」


 気に入っていたら自然と出てしまうということだ。

 だがこれは兄が悪いわけでも彼女が悪いわけでもない、人間とはそういう風に作られているのだから仕方がない。

 どうにもならないことに文句を言っても変わらないからこれまで通り静かにしていることにしよう。


「お、おーい?」


 家事をしないのだから買い物へは俺がいって彼女のことを兄に任せるべきだった。

 今日はもうどうしようもないが今度からは絶対に兄に付き合わせようと決めつつ、彼女の母が帰ってくるのを二人で待った。

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