02
最近はいい天気の日が続いていて奇麗な青空のときが多い。
冬は風がよく吹き、雲をどこかにやってくれるからぼうっといい景色を見ていたい俺にとってはいい季節だった。
まあ、油断をしていると鼻水が出たり、指先の感覚がなくなったりして危険な季節でもあるのだが。
「うぅ……なんでこんな寒いところでそんなに平然としていられるの」
俺でも一応は寒く感じているからこの前の話ではないがなにも感じない化け物というわけではなかった。
あとこれも無理やり誘ったわけではない、寧ろ兄が無理やり参加してきただけだ。
戻った方が暖かくて友達ともゆっくりできるのにそうしないのは無駄なことを好む年頃なのかもしれない。
誰だっていつでも完璧に、とはいかないのだ。
「蒼依ちゃんのご両親が離婚なんてことにならなければいいけどね」
「俺達にできることなんてなにもない」
「うん、だから怖いんだよ、僕と違って蒼依ちゃんは結構隠しちゃいそうだからね」
兄と二人きりなら案外、簡単に教えたりしそうだがそのときがこないと分からないか。
分かりやすく冷えていそうな感じがしたから兄のためにも戻ることにした。
放課後というわけではないからただ敷地内でいい場所を探してゆっくりしていただけだ、だからすぐに人といられるようになって寒さもある程度は気にならなくなるだろう。
「あっ、二人でどこにいっていたの?」
「外だね、もしかして探していたりした?」
「うん、だってお昼休みは一緒に過ごすのがいつものことだったし」
「ごめんね」
それなら早く戻ってきたことはいい方に働いたことになる……って、俺のせいでこうなっているからマッチポンプにしかならないか。
出しゃばらないように黙っていると二人はすぐに盛り上がり始めた。
廊下も大して変わらないのに誰かと話せているだけでこれだ、やはり人と関わることは大事なのだ。
「蒼依ちゃん、なにかで困ったりしたらちゃんと言ってね」
「え、うん」
「隠されたりするのは嫌だよ」
「私はメンタルが強いわけじゃないからね」
そう言った後にこっちを見てたがすぐに対応をすることができなかった。
俺の方は木本理解度が高まっていなくて言葉にしてもらわないと分からない。
兄ならと期待をして見てみても「それなら僕も同じだよ」とそれについては触れなかった。
「この中なら千春が一番強いかもね、だってすぐに慌てないで対応できる子だし」
え、兄も木本みたいになってしまったのか。
俺なりに情けないところを見せたくなくて隠しているだけで実際のところは……。
喋ることが少ないことだって悪いところがなるべく出ないようにと抑えているように見えたりしないのだろうか?
「私もそう思うよ」
「だよね」
というかなんだよこの時間は。
こういうのは慣れないから挨拶をして教室に戻ることにした、止められなかったのはありがたかった。
一人になってしまえば賑やかさと冷たさですぐに内側は落ち着くから授業の時間になっても集中できませんでした、なんてことにはならなかった。
「多賀、ちょっといいか?」
彼は怖がらずに話しかけてきてくれるクラスメイトの男子だ。
頷くと彼は笑って「多賀は仲がいい木本相手にも喋ることが少ないからな」と繋がっていないことを言った。
いやそれよりも仲がいいとは? 俺はあくまで兄のおまけみたいなものだが。
「今日は滅茶苦茶食材を買い込んで家まで帰らなければならなくてな、その荷物持ちを手伝ってもらいたいんだ」
「分かった」
「なんか悪いな、ただ多賀なら手伝ってくれそうだったからさ」
俺としてはよく俺なんかに頼んだなと言いたくなる件だった。
とにかく受け入れたからにはちゃんとやらなければならないということで珍しくテンションが上がっていた。
「あーなんか付いてきているな」
これが狙いか?
自慢ではないがこうして二人が来てくれるから片方とだけでも過ごしたくて俺を誘ったのかもしれない。
別に利用されても構わないから気にならないものの、そんな遠回りなやり方をするぐらいなら直接誘ってしまった方が楽だと思う。
二人なら誘ってなにか用事でもない限りは付き合ってくれる、俺に付き合えるのに彼には付き合えないなんてあるわけがないのだ。
「当たり前だよ、千春が僕ら以外と行動しているなんてレアだからね」
「私は終わった後に千春君に相手をしてもらいたいからいるだけだよ」
「まあいいか」
そう、受け入れる能力が高いのは彼も同じだ。
「それよりどうして食材をいっぱい買わないといけないの?」
「明日が妹の誕生日だからだな」
誕生日のためか。
「妹さんがいるんだ」
「ね、妹さんは可愛い?」
「……やっぱり人間は中身が伴っていないとな、まあそこについてはあんまり偉そうには言えないんだけどさ……」
こんなことを言いつつも買い物にいって大量に食材を買って喜ばせようとしているのだから素直ではない。
年頃だから難しいか、妹もまた口ではなんだかんだ言いつつもその内では喜んでいそうだ。
「あー!」
「ま、マジかよ……つか今日は部活もなくて早く終わる日なのになんでまだ一回家に帰っていないんだよ……」
彼の反応を見るにあれが妹か。
兄の後ろにいる木本もたまにああいうテンションになるから女子特有のものかもしれないと片付けた。
「木本先輩お久しぶりです!」
「ひ、久しぶりだね」
ああ、そこが繋がっていたのか。
あの子の兄が女子と一緒にいてそれについてなにか言いたいのかと考えたが違うようだ。
「ん? あ、お兄ちゃんもいたんだ」
「見えていなかったのかよ……」
「でも、木本先輩の友達だったんだね」
「いや、ここにいる多賀に頼んだら二人も付いてきただけだ」
陽キャの兄――あ、俺の兄が「初めまして、多賀楓です」と自己紹介をする。
女子に「あの子可愛い」と言われる系の男子だから初対面のときからきゃーきゃー黄色い悲鳴が上がるような存在ではないのもあって今回も「よろしくお願いします」と普通に挨拶をされていただけだった。
「えっと……この多賀先輩に頼みごとをしたら木本先輩とそっちの男の人も付いてきちゃった、ということだよね?」
「違う違う。こっちも多賀なんだ、双子なんだよ」
「おお、珍しいですね」
あれこれ、自己紹介をしなければならない流れなのか?
兄のときと違ってじろじろ見られているから落ち着かない、俺なんか見たところでなにも手に入らないのに……。
「泰葉ちゃん、この子は多賀千春君だよ」
「可愛いお名前ですねっ」
「うん、それはいいけどじろじろ見るのはやめてあげてね」
「おわっ、これはすみませんでした!」
なんか想像と全く違ったな、ツンツンしていないただの普通の女子だ。
こういう子なら頑張ってみても裏切られるようなことがなくて彼としては動きたくなると思う。
「ねえお兄ちゃん、もしかして多賀先輩……えっと、こっちの多賀先輩は話せないの?」
「ははは、違うよ。多賀は元々こうなんだ。別に無視をしているわけじゃないから気にしなくていい」
問題児みたいで嫌だったが同じようなことを言われたくないなら頑張れよ、という話か。
「俺は――」
「それよりどこにいこうとしていたの?」
あ、うん、余計なことをしなくていいよな。
そもそも留まっていても色々なところが冷えていくだけ、こうして前に進めてくれる存在がいないと困るものだ。
「ぷ……く――い、いまからスーパーっ……にいこうとしていたんだ」
笑ってくれたことでマシになった、いつも話しかけてくれることといい彼は優しいな。
「え、急に笑ってなに?」
「ふぅ、明日は泰葉の誕生日だから食材を買いたくてな」
「あ、荷物持ちをしてもらうとしていたの? やめてよそういうの、恥ずかしいよ」
可愛い兄妹だ。
彼らのためなら荷物持ちぐらい何回でもしてやりたいところだった。
買い物も終わって解散になるかと思えばそうはならなくてお邪魔させてもらうことになっていた。
「あの、千春先輩ってお名前で呼んでもいいですか?」
「ああ」
「あと無理をしなくていいですからね、ちゃんと聞いてもらえているだけで十分ですから」
彼女の兄は今日の夜ご飯作りを始めているのでこっちにはいない。
俺の兄は自分の家かのようにごろごろしていて、木本の方はそんな兄の横に座っている。
「泰葉ちゃんも来年になったらもう卒業だね、早いね」
彼女が中学一年生のときに木本が三年生で同じ部活に所属していたからそこ繋がりらしい。
「先に言っておきますが私もあの高校を志望します、また一年だけですがよろしくお願いします!」
「お兄ちゃんもいるもんね」
「それは少しぐらいしか関係ありません、私があの高校を目指すのは家から近いからです!」
そうだな、家から近いのは大事だな。
登校の時間が長くなれば長くなるほどいまみたいなやり方はできなくなる、遠ざかることはないとしてもあの距離で助かっていた。
「家からも近いし、学校にいけば木本先輩達に会えるなんて最高ですね!」
「私もまた学校で泰葉ちゃんとゆっくり過ごしたいな、高校生と中学生じゃ時間も合わなくて会うのが難しかったからね」
後輩とか好きそうだからな木本は。
そしてこうして可愛げのある後輩なら尚更そうなるということで、彼女の側まで移動して抱きしめていた。
「それで木本先輩的には楓先輩と千春先輩のどっちがいいんですか?」
ああ、そういうのはやめてほしいが。
どっちもないならそれはそれで微妙な空気になるし、片方だけを選んでももう片方は無駄に振られて複雑な気分になるだろう。
相手が兄でも勝ち目が微塵もないので俺は無駄に振られる方で確定しているのがな……。
「どっちも優しい子だからね、難しいね」
「私的にはこうして自由に過ごせてしまう楓先輩も、なにも口にはしないけど付き合ってくれそうな千春先輩もいいと思います」
「はは、二人が相手だと優柔不断になっちゃうね」
「男の子が言われそうなことですよね」
いままでの関係を壊したくないから悩んでしまうときもあるだろう。
なんとか終わらせたくて内では出ていても表には出さずに終わらせるときもある。
「それ以上はやめておけ、久しぶりと初対面が重なっている状態で繰り出すようなことじゃないだろ」
「分かった」
「あと多賀兄はいま爆睡するのはやめておけ」
「んー……もう眠たいからお家まで運んでよ千春」
帰るか。
兄を背負って玄関まで移動したところで「多賀、ありがとな」と、気にしなくていいと伝えたくて手を上げてから外へ。
いやそれぐらい話せよ俺、コミュニケーション障害でもあるのかよ……と一人でへこむことに。
「ねえ千春君、泰葉ちゃんの前で少し緊張していたでしょ?」
緊張? 先程のあれもそこからきているならより恥ずかしいことになるが。
これ以上広げると気持ちよく寝られなくなりそうだからなにか答えたりはしなかった。
「てい」
「ちゃんと聞いている」
「ううん、私なりに甘えているだけだよ、楓君ばかりずるいからね」
「それならいつか木本も家まで運ぶ」
「え、お、同じように?」
運ぶならそれしかないだろう、対象がいまみたいに並んで歩いていたらそれは運んでいるとは言えないからな。
「じゃあ僕もいつか千春をお家まで運んであげるね」
「あ、起きたんだ」
「僕らだけがしてもらうわけにはいかないからね」
身長差、体重差があるから涙目になっている兄が容易に想像できる。
それでも運ぶと意地を張りそうだし、そのときがきたら受け入れようと決めた。
「ふぁ……」
「眠たいの?」
「あの日からまた凄くメッセージが送られてくるようになってね」
興味を持たれないことがいい方に働くこともあるということだ。
強気に対応することができないならスマホという便利すぎる道具は危険と言える。
「眠たいなら寝ればいいと思うよ? ちゃんと起こしてあげるからさ」
「んー……だけどまだ学校だからね、それに流石に寝顔を見られるのは恥ずかしいよ」
「じゃあ千春だけを置いていくね」
「だから……いっちゃった」
ああ、なんで行動しておかなかったのか。
こちらを見てきた木本は困ったような顔で「楓君ってたまにああいうことをするときがあるよね」と、俺からすれば兄らしい悪い行為だった。
「眠たいままはよくない」
そうでなくても食事後だから午後の授業の間が心配になる。
学校に来ているのに授業中に寝ていたらなにも意味がないのでまだ時間があるいまなんとかしておくべきだ。
十五分でも寝ることができれば大分違うだろう。
「ね、寝ろと?」
眠たいならそうだ。
あと人の顔をじろじろ見る趣味はないし、外を見られればそれでいいから気にする必要もない。
自分から言い出しているのだからちゃんと守る、一応そういうところはこれまでのところを見て信じられるはずだ。
「そ、それじゃあ少しだけ――あっ、本当に寝顔は見ないでね!?」
「守る」
問題なのは十五分なんてあっという間ということだ。
もっとゆっくり外を見ていたいのにあっという間に終わりがやってきて起こすことになった。
その際もちゃんと見ない状態で声をかけた、なにもしていないと神に誓える。
「千春君ありがとう、少しすっきりしたよ」
「それならいい」
物足りない、が、戻るしかない。
教室では残念ながら窓側ではないからいまいちだった。
移動しなければ解決しないのに移動する気にもならなくて席に張り付いていたらまた今日も放課後になった。
この時間だけは俺が怖いとかは全く関係なくみんなすぐに出ていってしまうからあっという間に一人に――ならなかった。
「泰葉が木本に迷惑をかけてしまったみたいだから謝罪をしたくて待っているんだ」
でも、少し時間が経過したのに来ていないということはこのままになる可能性が高い。
昨日もそうだが本人のところにいった方が遥かに効率がいいのに。
「俺が言っておくから妹のために早く帰ってやった方がいい」
誕生日で作らなければいけない立場ならこれから忙しくなるだろう。
早めに動けば動くほどみんなにとっていい時間が増えるからそれはまた後回しでいい。
「そうか、なら頼むよ」
さっさと切り替えてこちらも帰るか。
家でいくらでも座っていられるからそうすればあっという間に変わるはずだった。




