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262  作者: Nora_
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01

 椅子に座ってぼうっとしていたらすぐに動かなければならない時間がやってきて動き始めた。

 遅刻しなければいい派の自分はいつもぎりぎりの時間に学校に着く。


「やばいやばいやばいやばい!」


 まだ家にいたのか。

 いつもであれば四十五分前ぐらいには家を出ているところなのにあわあわしている。


「あっ、千春ちはるおはよう!」

「おはよう」

「って、挨拶している場合じゃない! 早くいかないと遅刻しちゃうよ!」

「この時間からでも十分間に合う」

「え、そうなの? あ、そういえば千春ってぎりぎりに来ていたよね」


 朝からそんなにハイテンションでいると疲れてしまうだけだ。

 兄であるかえではそれでも落ち着きが足りなかったので学校まで運んでしまうことにした。

 俺にとってはいつもとなんら変わらないからやはり遅刻せずに済んだ。


「じゃ、後でまたいくからね」

「ああ」


 これは小学生の頃からずっと同じだった。

 余程心配になる存在なのか必ず休み時間のどこかでやってくる。

 俺としては自分のことに時間を使ってほしいから遠回しにではなく直接ぶつけているのだがまあ、いまので分かるだろう。

 何事に対してもそこまでの熱量を持って取り込めないのでそこがすごいと思っている。

 そもそも毎日同じことの繰り返しでしかないからなにも心配することはない。

 人とも積極的に関わらないから迷惑をかけてしまうこともない――はずなのだが、何故か怖がられていた。

 教室の中でほとんど黙っている人間は怖く見えてしまうらしい。


「千春ー」

「楓、俺は怖いか?」

「え? んー僕的には怖くないけど見る人によっては怖く感じるかもね。坊主だし、なにも喋らないから」

「そうか」


 男なのに長い、とかよりもマシなはずだが坊主は怖いのか。

 小さい頃からずっとこれだからこれ以外の髪型は考えられない。


「だけど僕の友達は強いよね」


 友達の友達のようなものだからたまに気まずくなるときがある。

 それなのにまるで相手が兄かのように話しかけてくるから押されていた。

 止めてくれと頼んでも「誰かといられた方がいいよ」と兄は聞いてくれないから困っている。

 でも、なにが怖いかと言うとその友達と話すことになるのも毎日の繰り返しの中に入っているということだろう。


「僕にとって怖いのはあれだけ一緒にいるのに頑なに千春が友達だと認めないことだよ」


 別に嫌だとか嫌いとかそういうことではない。

 毎回同じようにされて困ってはいるが勝手に友達だと判断してしまったら迷惑になりそうだからそこは貫いているだけだ。


「なるほどなるほど、それは確かに怖いね」

「あ、おはよう蒼依あおいちゃん」


 木本きもと蒼依、兄と彼女は友達だが同じクラスではなくそれぞれ別のクラスだった。

 まだ挨拶をできていなかったのは今日の彼は珍しくぎりぎりに来たからだ。


「私達は去年から一緒にいるのにまだ友達だと言ってくれないなんて酷いものだ」

「僕だってそこはなにも変わらないんだから千春も意地を張ったりしなくていいのにね」


 普段は普通の話し方なのに彼と集まると高確率で変な話し方になるのが微妙だった。

 素の話し方だと恥ずかしいとかなんとか考えているのなら無駄だとしか言えない。

 余程のことがない限りは話しているだけで恥ずかしい状態なんかにはならないのだ。


「ちゃんと誰かと会話をしていないと大事なときに後悔することになるかも、だね」

「あるある、僕も慣れていない先輩とか後輩相手にはいまみたいにできないもん」

「ふふ、それでもなんとかできてしまうのが楓君だろう?」


 こうして同じ場所にいても二人で盛り上がってくれるのは楽でいい。

 休み時間もそう長いわけではないからすぐに解散になって次の授業が始まっていく。

 昼休みの食事の時間だけは邪魔をしてくれなければ別にここで盛り上がろうと大して問題はなかった。


「やあ」


 弁当はいつも母が作ってくれていてそれを教室で食べさせてもらう毎日だった。

 購買や学食なんかもあるから意外と昼休みはここから人が消える、だから移動する必要もないのが楽でいい。

 あと賑やかな場所が嫌いでもないからまあ他に沢山人がいようと自分の席を使っているだけだからこれもまた問題ではない。


「千春君は口数が少ないねえ」

「木本」

「あ、うん……い、いやーああいう喋り方の方が楽でいいんだよね」


 ああいや、別に喋り方を改めてほしいとかそういうことではなかった。

 ただこうして彼女も同じように弁当を持ってきたなら早く開けて食べた方がいいと言いたかっただけで。

 名字を呼ばれただけでは分からないか。


「なんでだろう」


 なんでだろうと吐かれても困――あ、これは友達の友達だからではないだろうか。

 彼女的には友達だと見ているみたいだが根っこのところではそうではないのだ、だからその差にやられているのかもしれない。


「そういえば珍しく今日は楓君も来るのが遅かったよね」

「寝坊したみたいだ」

「夜更かしでもしたのかな? いつも『早寝早起きをしないと駄目だよ』と言っている楓君にしては珍しいよね」


 確かに。

 俺らは双子ではあるものの、部屋は違うから夜になにをしているのかなんて分からない。

 すぐに不安になってあわあわしている人間でもあるからテストが近くもないのに夜遅くまで勉強をしていたとか、なにかを紛らわせるために掃除を始めたら捗りすぎてしまったとかもありえる。


「千春君は?」


 ん? なにをどう答えればいいのか。

 何度も言っているようにわざと余裕を持たせないように登校しているからいつも通りでしかない、そういうのもあって俺は先程の彼女の気持ちが分かった。

 名字だけ呼ばれても困ってしまうだけだ。


「はあ~……あのさ、さっきから見ていたんだけど千春は喋らなすぎ!」

「来たのか」

「うん……って、そもそも待っててよ、なんで先に食べちゃうの」

「多分、一人だけで待っていると私が食べづらいからじゃないかな」

「それなら相手のことを考えられていていいんだけど」


 え、全く違うが……。

 俺は食べることが好きで我慢することができないだけだ。

 彼女はこうして俺の行動を謎に高く評価してしまうときがある。


「どうせ夜ご飯は僕が作っているし、お弁当も僕が作ろうかな。元気になれる食べ物をいっぱい入れれば千春もよく喋るようになるよね?」


 嫌い物がなにもない自分としてはなにを食べても元気になれる、そして毎日しっかり食べているのにこれだからそこが変わっていったりはしない。

 でも、作ってくれると言うのなら頼るだけだった、母は仕事があって朝は忙しそうにしているからそれなら兄を頼った方がいい。


「私、千春君にはもっと明るくなってほしいな」

「お、明るい千春かーいいね!」


 キラキラした俺か、もうすぐクリスマスになるからそうなったら役立てそうだな……なんてのは冗談で、無駄に終わるだけだからそんな期待は捨ててしまった方がいい。

 ピーマンが嫌いな人になんとか食べてもらおうとするぐらい難しいことだ。


「だってお兄ちゃんの楓君がこれだけ明るいんだからいけるはずだよね?」

「そもそも両親も明るいのになんでこんなに突然変異体が現れたんだろうね」


 化け物のモンスターかなにかか?

 まあ、確かに兄の言うように両親は明るい方で兄もそうだから違和感を覚えても仕方がないのかもしれないが。


「ちーはーるー聞いてるの?」

「聞こえてはいる」

「どうすれば変わるんだろうなあ」


 そうだな、俺もそう思う。

 ただ、兄みたいに行動している自分は気持ちが悪いので見ることにならない方がよかった。

 自分のせいで苦しむことになるのは嫌なので結局はこのままだった。




「千春とお買い物ー」


 生姜焼きとか、いいよな。

 でも、兄が魚と決めれば魚になるし、他の物でも一度決めたら変えないからなにかを言ったりはしなかった。

 生卵を見つつ目玉焼きとか卵焼きを食べたいとなり、肉を見つつステーキもいいなと色々と妄想をしていく。


「はい、アイスでも食べながら帰ろう」


 アイスか、冬のいまでも定期的に食べたくなる物だからありがたい。

 しかも二つ入っているからそれぞれ別の物を買わなければならないよりいい。


「今日は難しい顔で『じゃあね』とだけで蒼依ちゃんが帰っちゃったからなあ」

「遊びたかったのか」

「と言うか、一緒にご飯を食べたかったんだよ」


 それならいまからでも誘えばいいのではないだろうか。

 じっと見ていたら「んーあの顔を見た後だと誘いづらくてね」と、ある程度はなにも言わなくても分かってくれるみたいだった。

 ここは双子で生まれたメリットかもしれない。


「あれ、蒼依ちゃんだ」


 本当だ、誰といるわけでもなく一人で俺らの家の前にいる。

 多賀たが家に来たところでなにがあるというわけではないが兄からすれば好都合だろう。


「やっと帰ってきた」

「とりあえず上がって上がって」

「うん、お邪魔します」


 そしてここで抑える兄ではないからそのまま三人で中へ。

 俺は関係ないだろうから手洗いうがいをしてから部屋へ、ここではベッドに寝転んでいるよりも椅子に座っていられる方が好きだ。

 何気にそのまま遠くまで見ることができるのも大きい。


「いかないでよ千春君」


 自由にいったり来たりできるところがすごかった。


「やっぱりここいいよね、羨ましい」


 楓に会いに来たのかと思ったが違うのか? いまはただなにも言わずに側に人にいてもらいたいとかだろうか。


「いや……なんだろう、ただ誰かといたかったんだよ」


 ああ、あと一緒にいることで彼女も俺のことは少し分かっているみたいだった。

 いやここもすごいな、それとも勝手に想像して言葉を重ねているだけなのか……?


「楓君は一緒にいると遊びたくなるんだよ、それで千春君は一緒にいるとこうしてじっとしていたくなるの。だから私は凄く得をしている状態なんだよね、双子で全く違うから新鮮なんだよ」


 俺は楓を見ると持ち上げたくなる、たまに鍛えたくなるときがあるので重量が丁度いいのだ。

 お金もかからないのが一番いい、なにもお金を払って権利を獲得したりしなくても鍛えられるものなのだ。


「なにかあったのか」


 内では色々ごちゃごちゃ出しているのに表に出そうとするとどうしていつもこうなるのか。

 抑えようとしているわけでもないのに難しい。


「あ……もしかしたら親が離婚するかもしれないんだ」


 離婚か、まあ全くないようなことではない、そういう理由で引っ越していったクラスメイトが過去にいた。

 ということは彼女もどちらかに付いていくことになるわけで、最悪の場合は消えてしまうということか。

 まだ二年も一緒にいられていないが兄は悲しむだろう。


「どっちに付いていっても二人ともここ出身だからあの高校に引き続き通えるのはいいんだけどさ、家に帰ってもまた三人で集まれることはもうなくなるかもしれないと思うと寂しくてね……」


 あ、そうなのか、なら兄的にもいいな。

 寂しさを感じている状態の彼女を放っておけなくていまよりも一緒にいようとするかもしれないがまあ、悪いことばかりではないはずだ。


「それなら毎日僕らのお家に来なよ!」

「ははは……新しい家次第だね」

「あれ、あのお家はどうするの?」

「その場合はお母さんが貰うみたい。逆らえないんだよ、色々とね……」


 一度も会ったことはないものの、なんとなく母親に付いていきそうなものだから意外に感じた。

 でも、この感じだと逆らえないらしい父と二人でいまよりは狭い家で暮らしているところしか想像できない。


「そういうことか」

「「ん?」」


 あの作ったような話し方なんかはそういうところからもきているのかもしれない。

 普通にしていれば相手から敵視されない、なんてこともないからな。

 証拠は普段の俺だ、謎に怖がられているから動いていなくてもそうなる人間はいるのだ。


「それより千春、蒼依ちゃんなら毎日お家に来てもいいよね? すぐにお部屋に引きこもったりしないよね?」

「木本なら問題ない」

「お」「え」


 問題ないと言ってもこのような反応をされるのだから変な話だ。

 俺も逃げ場所が欲しかったりするから彼女にもそういう場所があった方がいいだろうという考えからきている。

 求められていないときはこうして部屋にいればいいのだから気にしなくていいか。


「やばい、僕感動してご飯を作れないよ」

「私もびっくりしたよ……」

「なんてね。さっ、ご飯でも作ってきますか!」


 いや木本を置いていかないでもらいたいが。

 お客である彼女が立っているのは気になったから代わりに座らせておくことにする。


「千春君」

「ああ」

「……ありがと」


 え、なんに対しての……って、いまのやつに対してか。

 兄も結構変なところがあるが彼女も負けていなかった、が、だからこそこうして二年の冬までいられているのかもしれない。


「またここに来てもいい?」

「家に来るんだろ」

「こっ、ここに……」


 ここにも仲間がいたか。

 兄としてはつまらない景色みたいなのでこれは嬉しかった、だから頷いておいた。

 別に見られて恥ずかしい物もないし、寝なければいけないとき以外なら自分の部屋のようにゆっくりしてくれればいい。


「ふぅ、ご飯を食べさせてくれるって話だったからお手伝いをしてくるね」


 俺もたまにはやらないといけないのか。

 いつもなにかをしてもらう側なのでなにかをしたい気持ちが強くなった。

 とはいえ、この部屋も含めて兄は掃除をしてくれているからいますぐに役立てるようなことはない。

 下にいっても既に木本という手伝い人がいるなら邪魔にしかならないだろう。


「次から頑張るか」


 風呂の時間を最後にずらして風呂掃除ぐらいはやるか。

 そのまま寝るのは本当は駄目みたいだが温かい状態なら気持ちよく寝られる気がする。

 俺に調理能力が高くあれば早起きをする特性を利用して朝ご飯や弁当を作ってやるところなのに……。

 久しぶりに少し悔しかった。

 ただこれをただ悔しいだけで終わらせるのは違うから頑張らなければならなかった。

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