007_真実の手紙
社の奥を探すと、小さな桐の箱があった。
蓋には菊の紋様が彫られ、中には数通の手紙が納められている。日付を見ると、十年ごとに書かれているようだった。最新のものは、つい先月の日付だった。
宛名はすべて『愛する妹へ』となっている。
最初の手紙を開いた。
『愛する妹、道子へ
あなたがこれを読んでいるということは、ついに真実にたどり着いたのですね。どれほどの年月が経ったでしょうか。私がこの階段を昇ってから、もう十年が過ぎました。
許してください、何の説明もなく消えてしまったことを。でも、あの時の私には、これしか選択肢がなかったのです。
階段を昇って見えた無数の可能性の中で、最も強く輝いていたのが、詩人として生きる道でした。日本にいては、女性が文学で身を立てることの難しさを、私は知っていました。でも、ここでは違う。新しい名前、新しい人生、そして何より、自由に創作できる環境がありました』
手紙は続いている。北欧での生活、最初の作品が認められた時の喜び、結婚、子供の誕生。普通の、しかし彼女が選んだ特別な人生が、丁寧に綴られていた。
最新の手紙には、こう書かれていた。
『七十五歳になりました。夫は三年前に他界しましたが、子供たちと孫に囲まれ、幸せに暮らしています。
時々、日本の山々を思い出します。春の桜、夏の蝉の声、秋の紅葉、冬の雪景色。そして何より、あなたのことを。
もし可能なら、会いたい。でも、それはあなたが決めることです。私はここにいます。いつでも、あなたを待っています。
追伸:村の古い言い伝えは、半分本当で、半分嘘でした。確かに私たちは神の国へ行きました。でもそれは、自分の中の神性—— 無限の可能性を見つける旅だったのです』
手紙の最後に、連絡先が記されていた。
メールアドレスと電話番号。
現代的な追記が、この不思議な体験に現実感を与えた。




