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006_雲の向こう

私は最初の段まで戻り、あの温かい小石を手に取った。それから最後の段へと登り、二十段目に置かれていた小石を拾い上げる。

二つの石を重ねた瞬間、世界が震えた。

いや、震えたのは世界ではなく、私の知覚だった。現実の層が剥がれ落ち、その下から別の真実が姿を現す。


石段が、光り始めた。


それは石の階段ではなく、雲でできた階段だった。白く輝く段が、実際に空へと続いている。各段には小石ではなく、光の粒子が浮遊している。それらは様々な色に明滅し、まるで星座のように美しい模様を描いていた。

「これは……」

佐藤も、同じ光景を見ていた。二つの石を重ねたことで、この場所の本質が、全ての人に見えるようになったのだ。

私は雲の階段に足をかけた。不思議なことに、雲は私の体重を支えた。ふわふわとした感触ではなく、しっかりとした足場がある。ただ、歩くたびに小さな光の粒が舞い上がり、足元でオーロラのような光の帯を作った。


一段昇るごとに、自分の中の可能性が見えてきた。


古書店主としての私—— 本に囲まれ、静かに時を過ごす人生。


作家としての私—— 物語を紡ぎ、人々の心に種を蒔く人生。


冒険家としての私—— 世界中の謎を追い求める人生。


教師としての私—— 次世代に知識と知恵を伝える人生。


母としての私—— 家族を愛し、守り、育てる人生。


無限の私が、そこにいた。どれも本物で、どれも私自身だった。


階段を昇りきると、小さな社が現れた。

朱塗りの柱は色褪せ、屋根には苔が生えている。しかし、不思議な威厳があった。扉はなく、中が見える。そこには一冊の大きな台帳が、石の台座の上に置かれていた。

台帳を開くと、階段を昇った全ての人の名前と、選んだ道、そして現在地が記されていた。巻物のように長く、最初のページは千年前の日付から始まっている。

老婆の姉、相沢雪子の名前も見つけた。


『選択:詩人として生きる道

現在地:ノルウェー、ベルゲン

現在名:エルサ・ノールマン

状況:児童文学作家として活動。地元の子供たちに昔話を語る会を主催』

住所まで詳細に記されていた。そして、その横に小さな文字で追記がある。

『妹への手紙、社の奥の箱に保管』

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