005_帰還の証
手帳を開くと、最初のページに美しい筆跡で題名が記されていた。
『雲梯を昇りし者たちの記録』
ページをめくると、七人の消えた若者たちの手記が、それぞれ異なる筆跡で記されていた。インクの色も、青、黒、茶と様々だ。時代によって使われた筆記具も違うのだろう。
老婆の姉の文字も、そこにあった。
『昭和三十九年六月十五日 私、相沢雪子は、この階段を昇り切りました。今、雲の上の社にて、これを記します』
彼女の文章は、他の若者たちよりも詳細だった。
『私たちは消えたのではありません。生まれ変わったのです。石段を昇りきった者は、自分の可能性の全てを見ます。あらゆる人生、あらゆる選択、あらゆる未来が、同時に存在する瞬間を体験します。
それは恐ろしくもあり、美しくもある体験です。自分という存在が、実は無限の可能性の集合体であることを知る。そして選択するのです—— 元の場所で小さく生きるか、新しい場所で大きく羽ばたくか。
私たちは後者を選びました。でも、それは逃避ではありません。むしろ、より大きな責任を背負う選択でした。与えられた才能を最大限に活かし、世界に貢献する道を選んだのです』
佐藤が、静かに息を吐いた。夕方の光が斜めから差し込み、手帳のページを金色に染めている。
さらにページをめくると、驚くべきことが書かれていた。
『選択は、いつでも変えられます。始まりの石(最初の段の小石)を、終わりの石(最後の段の小石)に重ねれば、階段は真の姿を現します。過去と現在、全ての可能性が一つになります。
ただし、これを行えるのは、純粋な心で階段を昇った者だけ。欲や野心ではなく、真実を求める心を持つ者だけが、この秘密を解き明かせるのです』
最後のページには、地図が描かれていた。この石段の先、さらに登った場所に、小さな社があることを示している。
「行ってみましょう」
佐藤の提案に、私は頷いた。




