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三茶浪漫  作者: たま


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肆拾

「相手は催涙ガスを使う。何があるか分からない!

気をつけろ!」黒田達、三茶署の警官は武装してアクア前に集結した。

この休止中銭湯は繁華街のど真ん中にあるため自然とビルに囲まれた要塞のような作りになっている。

入り口はアクアの前の細い路地、奥行き10m幅50cmの通路のみなのだ。

その上、周りも路地のため車は入れない。

トタンの新しい板で塞がれた入り口をまずバールなどで外す。

するとやはり天井も板で塞いで充満してた催涙ガスが出てきた。担いできた巨大サーキュレーターで一気に飛ばす。

まだ白い煙幕が消えない内に勇んだ警官が飛び込むと悲鳴が上がる。

下から10cmくらいの五寸釘が剣山のように植え込まれていた。それを踏み込んでしまったのだ。

悲鳴を上げて倒れ込む。

「すぐ病院へ連れて行け!」おかげでここで負傷者と介助で3名が脱落する。

SITを呼びたいが、まだ立て籠もっている確証もない。

そして人数も規模も把握出来ていない。

ドラマと違って、これだけ情報が無いと要請は掛けられないのだ。

皆、底に鉄板が入った安全靴を履いているが五寸釘では歯が立たない。両側のトタン板に足を踏ん張って上を渡るしかない。

が、長い雨風で古いトタンはべこべこして頼りない。

やはり2名が落ちて五寸釘の餌食となった。

元SIT出身の警官だけが路地の突き当り、銭湯の入り口までたどり着いた。

が、コンクリートの土間に見えたのは、ただのフェルトでドスっと音と共に消えた。

落とし穴で中にはまた五寸釘の底が。悲鳴が響き渡った。

結局10名で臨んだチームは皆病院へ仲間を背負って帰って来るので精一杯だった。

ここでやっとSITの要請許可が下りた。


「黒田〜大丈夫か?」本当に野戦病院のようになった廊下で背負った警官を下ろした黒田に大谷が修斗を背中に背負ったまま声を掛ける。


「中に杏さんと凛ちゃんが拉致されてる確率は高そうだ。やっとSITも要請できたが…どうだろう?

なかなか戦術家だぞ、刑部は。ものの1時間で三茶署はこの有様だよ。」黒田は苦笑する。

「仮面の男はスゴイな。

その上、高嶺さんとのやり取り聞いてても屈折度がスゴイわ!

杏さん狙ったのは、好きだからだそうだ。すごい迷惑な恋だぞ。」大谷も呆れて笑う。

高嶺の部屋から看護婦が封筒を持って出てきた。

「売買契約書ですか?どこへ持って行くんですか?」

大谷が聞く。

「病院の玄関に私が持っていくようにと指示されました。でないと拉致されてる方が殺されると聞きました。」看護婦は緊張で顔が青ざめている。

「一緒に行きます!」黒田と大谷も看護婦に付き添う。受付け前にはリーマンらしきスーツの男が5人立っていた。

看護婦を見るとジャラルミンのケースを開き書類に手を伸ばす。

黒田が封筒を押さえる。

「オイッ、これが今起きてる拉致事件の犯人がらみだと分かってるのか?

お前ら、犯罪者になるんだぞ?」男達は憮然とする。

「我々は何も知りません。本社から命令されただけです。」と名刺を出してきた。

実相の子会社の社員のようだ。

「とにかく待て!今、会社に問い合わせるから!」と黒田が電話するのを待たず、男達はケースに封筒を入れてロックしてしまった。

そして病院を出て行く。

「オイッ、待てって!」黒田が止めるが完全無視だ。

大谷も動きたいが、とにかく15kgは重い。

男達の前に立ちはだかりたいが、前に出れず後を追いかけることしか出来ない。

黒田は、とにかく電話している。

隣の郵便局の横のビルにスーツのリーマン達は入ってしまった。

「ア〜ッ、しまったあ〜!!!」大谷がビルの表札を見上げて溜め息をついた。

実相ビルと書かれて10階全てが実相の子会社だった。

さっきの名刺の男がケースを預けて戻ってきた。

「ここからは私有地ですので、ちゃんと令状を持って来て下さい。では…」と自動扉の向こう側に消えた。



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