参拾玖
「書類わざわざ作ってくれて、ありがとうね。でも…」と高嶺さんが断ろうとすると、また店長改め刑部が杏の髪を引っ張る。
「やめろ!って言ってんだろ!」2度目は怒鳴って舌打ちした。
「と、まあ可愛くキャー!って言わないけど、杏さんも居ますよ。
昨日あんなに2人で本当の恋について語り合ったじゃありませんか?」刑部が杏の反応にウケながら話す。
「君だって好きなんだろ?
言ってたじゃん。好きだからイジメたくなるって。
イジメて追い詰めて泣かせたいって。
自分に縋り付いて欲しいって。
そしたら何でもするのにって。」
高嶺が店長改め刑部に話す。
確かに起きた事件は全て杏を追い詰めていくものばかりだった。
杏も相手の悪意を感じた。が、裏の好意は感じなかった!
「でも、残念ながら僕の事は絶対好きにならないとハッキリ言われたので殺します。高嶺さんはどうします?」そう言いながら逃げる杏の顔面にヒザ蹴り入れようとするが、杏が避けるのでうまく入らない。
「慣れてますね。誰かとやってます?」少し息が荒くなった刑部が杏をにらむ。
「息子と毎日戦ってるわ。反抗期入って口ろくに聞かないから返事しないのは攻撃ののろしなんで。」
そう言いながら立ち上がった杏は、刑部の股間を集中攻撃する。
長い足は最後でしなって延びてくる。
思いっきり後ろに飛ばないと当たる。携帯で話してる最中でもある。
部下達は手を出すべきかどうか考えあぐねてる。
小柄だが自尊心が高いボスを助けていいものかどうか…相手は後ろ手に縛られた女だし…
「大事な商談が出来ない!足も縛っておいてくれ!」
刑部に言われてやっと部下達は杏の足も縛る。
凛の横に投げ出される。
「お母さん〜考えなよ〜大人しくしてれば足の自由は確保できんのに。
これでスキみて逃げれなくなったじゃん!バカ!」
凛にまた怒られる。杏はジタバタしながら泣く。
「店長〜女の嫌いなんて真に受けちゃダメだよ〜
ワシの最後の嫁なんて、アンタみたいなジジイ好きじゃないから!と初対面で言われたからね〜ホッゲホゲホッ」笑おうとしてむせる。
「う〜ん、好きじゃなくても結婚はする女って居ますよ。就活みたいなもんですからね。」刑部は楽天家ではないみたいだ。
「じゃあ、高嶺さんは杏さんを生かしたいんですね?」刑部が確認する。
「ああ、ワシには息子は育てきれん。杏さんに助けて貰わないと。杏さんには元気に帰ってきて貰いたい!
修斗の為にな!」高嶺は覚悟を決めた。
大谷に抱かれた我が子を目を細めて見てる。
結局、大谷では紙オムツを替えられず看護婦さんに手伝って貰った。水分補給にマグにマザーバッグに入ってたジュースを入れた物を持たせてる。が遊び飲みしてほとんど病室の床に撒いている。
下ろすとすぐ見失うので修斗を背中抱きにして雑巾を何度も絞り直してジュースを拭く。
だんだん切なくなってくる。
結婚した友人を羨ましく思ったが、本人達は意外に暗かった。毎日がこれの繰り返しだと思ったら、辛すぎる!
大谷も「早く杏さん帰ってきてくれ!」と心から思った。




