参拾漆
戻ってきた黒田と大谷に高嶺が看護婦の介助を受けながら話す。
「枕の下にこんな書類が差し込んであったよ。
三軒茶屋の三角地帯の売買契約書だ。
すでに作られて後はサインするのみになってる。」
高嶺はまだ本調子じゃない。
座ってるだけでキツそうだ。
「この部屋に出入りしてる看護婦は?アンタだけか?」黒田が聞く。
「高嶺さんが入った時は夜勤チームと交代前だから男性医師3人と男性看護士3名に看護婦が5人がシフト変わりながら入ってますよ。」看護婦が黒田をにらみながら答える。
絞り込むだけで時間が掛かる。
催涙ガスを浴びた警官達も入ってきた。外の廊下が騒がしい。
「まるで野戦病院だな。丸1日仕事に戻るのは無理だ。目や喉の粘膜をやられてる。なかなか取れないんだ。身体も洗浄しないと。」黒田が舌打ちする。
書類に目を通しながら、高嶺も険しい顔になる。
「ワシの取引相手は実相の孫だよ。司法書士の立ち会いが無いとか文句言っても何とかしそうだな、これは…」高嶺がハァハァ言いだしたので看護婦が酸素吸入器を鼻と口につけた。ベッドも斜めにして枕を背に当てできる限り身体の消耗を減らす。
「実相の孫?ブルードラゴンのトップだよ。
今の警視総監は実相の会長のおかげで総監になれたと言われてる。
そのおかげでブルードラゴンにも手が出しづらいんだよ。」黒田も一層顔が険しくなる。
「実相って戦後の高度経済成長期に日雇い労働の派遣で財を成し、ビルとアスファルトの道だらけの日本をデベロッパーと創り上げた立役者だよね?
その孫がブルードラゴンなのか?」大谷が驚く。
「まあ、そのじーさんも闇市で人をかき集めて工事現場に送り込む仕事で儲けた奴だ。
孫は繁華街の輩を掻き集めてホストクラブ、売人、ソープ、転売屋に派遣してる。やってる事は同じだ。」黒田が首を横に振る。
「ちょっとさ…アクアに電話して良い?もう、ママ店で開店準備してるよね?」大谷が2人に聞く。
「ああ〜そうだな。しかし…なんで?」黒田がいぶかしむ。
「とにかく電話してみるよ。」そう言い大谷は修斗君をあやしながら電話をする。
そろそろ水分を取らせてオムツも確認しないと膨れてパンパンだ。
「あっ、ママ?大谷です。すいません。店の前の銭湯に入る路地って今どうなってますか?
いつも奥にロープ張って進入禁止の看板吊るしてますよね?」アクアのまえの敷地は銭湯なのだが、もう長らく休止している。
燃料代水道代と入浴料が見合ってないのだ。
やればやるほど赤字になるのだ。
オーナーの高嶺は続けて貰いたくて銭湯をそのまま残してる。
「それがさあ〜さっき見たら、周りのトタンと同じ様な板で塞がってるのよ!
まるで壁みたいになって。入れなくなってるのよ。」ママが困惑してる。
「高嶺さん、何かしました?」大谷が聞く。
「いや、鍵も変えてないし何もしてないよ。」高嶺が首を振る。
「じゃあ、やっぱりそうなんだ!」大谷はそう言うと
マザーリュックを漁る。中からお絵かきボードを見つける。廊下への入り口をしっかり閉め磁石のお絵描きボードに言葉を書き出す。
『盗聴器がないか調べてくれ』黒田が探して首を振る。
『休止してる銭湯に立てこもってるかもしれない。
凛ちゃんと杏さんの間で何らかの合図が送られたかもしれない。』黒田がうなづくと病院の外へ出た。
高嶺の携帯が鳴り高嶺が携帯に耳を当てる。
「こんにちは、昨夜は楽しかったですね。高嶺さん。」店長の声がする。




