弐拾玖
黒田は謎の宅配女の捜査に署に戻った。
とにかく情報が無いのだ。古河家のインターホンの映像のみ。
「明日さ、高嶺さんの家に行った後に仲見世通りの西条の店に寄っていい?」大谷が杏に聞く。
「いいよ…まだ、何か聞きたいことあるの?」
大谷が「イケナイ太陽」を歌いながらウインクする。
杏は少し悪寒がした。
黒田と大谷を伴って現れた杏に高嶺さんはガッカリしてたが、家の中は大変な事になっていた。
「すまないね。お手伝いさんが昨日綺麗にしてくれたんだけど、一瞬でこの有様だよ。」赤ちゃんはもう1歳半で家の中を走り回っている。
テッシュが部屋中に撒かれてミルクの腐ったような匂いと使用済みのオムツからは汚物の匂いが漂う。
走る幼児に90歳の高嶺さんのお母さんでは全く追いつけない。
それどころか、お母さんはコルセットをし足を引きずりながら赤ちゃんを追いかけている。
「母は足の親指を息子のおもちゃの車でひかれたせいで骨折してるんだ。足の指が踏み込めないと人間って
歩けなくなるんだね。知らなかった。
足の指って大事なんだね。」さすがの高嶺さんも疲労困憊している。
「子育てって、こんな修羅だとは思わなかったよ。
子供って、こんな悪魔みたいな生き物だとは…」3人は居間の入り口まで来たが、いつまでも招き入れられる準備は無理そうだ。
思わず杏が走る高嶺さんの息子を抱き上げた。
「ダメだよ。おばあちゃん、足引きずってるでしよ?
イタいイタいなんだよ。」杏に語りかけられて息子君は不思議そうな顔をする。
「イタいイタい?」言葉を反復する。
「そう!イタいイタいで歩くのツラいんだよ〜
ほら、おばあちゃんのイタいイタいをなでなでしてあげようね?」そう言うと抱いたまましゃかんで、高嶺さんのお母さんの足の指をナデナデするポーズをする。
「おばあちゃん、イタいイタい?」息子くんが聞く。
「そう!だからナデナデしてあげて、元気元気してあげようね。」息子くんが骨折してる足の指の包帯とギブスをなでなでする。
「お前!早くこの人と結婚しておくれ!
私は施設に入るから!ここから解放しておくれ!」高嶺さんのお母さんがずっと我慢してたのか?
高嶺さんに泣きついた。
黒田から事件のあらましを聞く。
西条が実は古河家のホストの同僚で、高嶺を焚き付けて杏に関心が行くよう誘導した人間が居ること。
それが渋谷の半グレ「ブルードラゴン」の幹部だと。
「今までも色んなアプローチ受けたが、これは新しいな。女を仕掛けてきた半グレは居たんだが、まさか男経由はな。
それも昔から知ってる杏ちゃんを紹介してくるパターンは初めてだ。」
高嶺が苦笑する。杏が息子くんをあやして、やっと話が出来る状態になった。
話しも聞きたいが、最低限のゴミの片付けしないと臭すぎる!
窓を開放し片手で子供を抱っこしてあやしながら、片手で部屋を片していく。
「子育ては、しっかりした骨と筋肉が無いとやっていけないんだね〜僕は、女はベッドで抱く時の事しか考えてなかったよ。」60歳までその発想で生きてこれた事がまずメデたい。
高嶺の母親は、すぐさま部屋に引きこもってしまった。
もう話を聞く気力も残って無かったのだろう。
若い時はダイエットと美のために身体を蝕まれた嫁を
より追い詰めて死ぬまで追い込んだが、今は自分が亡き嫁の子供に追い込まれたのだろう。
「すみません。急に結婚は無理です。
まず子供達が父を亡くしたばかりでキツいですし。
でも、この子がこの環境なのは可哀想です。
シッターで雇っていただけませんか?」杏が提案する。
「そうだよね。確かに。自分の事しか考えてなかった。まず、それで良いかい?
商店街の事務所で社員扱いにするよ。正社員なれば
社会保険とか効くし。」これで急場をお互い凌げる。




