執着の果て編13(終・生きてれば…)
茉利は、心神耗弱の状態であると判断され、彼女は刑務所ではなく、精神科の病院に収容されることになった。
仁村財閥は当初事件を揉み消そうと動いたものの、西村のスクープによって財閥の政治家への巨額献金が明るみに出た。
これにより世論の批判が高まり、仁村財閥は対応に追われることになった。
その混乱の中で茉利の名前も実名で公表され、事件は世間に知られることとなった。
仁村財閥の権力や、茉利の精神状態から起訴に至るかは微妙だったが、超人気俳優を襲ったという事実はあまりに大きかった。
彼女の家族は、表向き「事件には遺憾の意を表する」と声明を発表したが、裏では茉利を財閥から外す手続きを進めていた。
彼女の人生を狂わせたのは、その家族の冷淡さだったのかもしれない。
涼介は、彼女を救うことはできなかった。
「……そんなの、許さない……!」
最後まで執着し続けた彼女の言葉が、耳にこびりついて離れなかった。
それでも、彼女との関係は終わった。
事件はすぐに世間へと広まり、芸能界は騒然となった。
芸能記者たちは病院の周りに殺到し、各メディアが「篠宮涼介、ストーカー被害の末に襲撃!」とセンセーショナルに報じた。
事務所は即座に記者会見を開き、対応に追われた。
「涼介は現在、命に別状はありません。順調に回復しております。」
「彼を襲った犯人との関係は?」
「彼女とは涼介が芸能界にいる前に少し関わりがありましたが、涼介が関係を断とうとした矢先の出来事です。」
「仁村財閥と関係があるとも言われてますが?」
「関係があるとは聞いてません」
事務所は極力、涼介の名前を傷つけないよう慎重に対応した。
だが、事件の影響は計り知れず、ネットでは様々な憶測が飛び交った。
——なぜ、篠宮涼介はこんな事件に巻き込まれたのか?
——彼が持つ“何か”が、女性たちを狂わせているのでは?
——過去に失踪していたのも、何か関係があるのか?
涼介自身は、そうした報道の嵐の中、ただ静かに病院のベッドに横たわっていた。
☆
「……まったく、ついてないな。」
呟いた声は、自嘲気味だった。
病室のドアが開き、健斗と麻衣が顔を出す。
「お前なぁ……! ついてないな、じゃねーよ!何で一人で勝手に行ってんだよ!どれだけ心配したと思ってんだ!!」
健斗が思わず声を荒げる。
「本当にバカよね……。」
麻衣も、ため息混じりに呟いた。
「……悪かったよ。」
涼介は苦笑する。
「でも、なんとか生きてる。」
「当たり前だろ!」
健斗は怒りながら腕を組み、少し目を伏せた。
「お前、俺たちに散々心配かけて、これで生きてたから良いけど、死んでたら許さねぇからな。」
「それ、どっちなんだよ……。」
苦笑する涼介を見て、麻衣がそっと言った。
「涼介さん、もう……大丈夫なの?」
「何が?」
「これまでのこと、全部よ。」
茉利とのこと、魅了の力のこと、そして芸能界に戻ったこと。
どれも重すぎる問題ばかりだった。
涼介は少し目を伏せる。
「……大丈夫かどうかなんて、正直、分からない。」
「……うん。」
「でも。」
涼介は少し笑った。
「もう逃げるのはやめるよ。」
健斗と麻衣が、静かに目を見開く。
「逃げても、何も変わらなかった。だったら……俺は、この人生をちゃんと歩いてみる。」
そう言った涼介の瞳には、かつての迷いはなかった。
「生きてれば、何か良いことあるさ。」
涼介は穏やかに微笑んだ。
病室の窓からは、柔らかな朝日が差し込んでいた。
あとはエピローグで終わりです。
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