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執着の果て編6(あいつ)

「……桐生さん、このままだとまずいですね。」


蓮はクラブの支配人として店の現状を分析しながら、桐生に報告した。


「まぁな……だが、ここまで露骨にやられると逆に笑えてくる。」


桐生は苦笑しながら煙草に火をつけ、紫煙をゆっくりと吐き出した。


彼女は資金力を武器に、蓮たちの店と競合する新しいホストクラブを次々と作り、業界全体を支配しようとし始めていた。


最初は単なる嫌がらせかと思われたが、実態は違った。


彼女が作った店は、どれも異常なほど豪華で、ホストには破格の待遇を用意していた。


それだけではない——裏では圧力をかけ、取引先を奪い、ホストの引き抜きを仕掛け、徐々に業界を牛耳ろうとしていたのだ。


桐生のクラブも、その標的の一つだった。


「まぁ、ホストが新しい店に流れるのは仕方ねえさ。でも、ここまで強引に引き抜きかけられると、ちっとばかり気に食わねえな。」


桐生は灰皿に煙草を押しつけ、ふっと笑う。


「どうやらあいつ……単に業界を支配したいわけじゃねえみたいだぜ?」


蓮は眉をひそめた。

「……どういうことです?」

「お前も分かったんじゃねえか? あいつが欲しいのは”業界”じゃねえ。“涼介”だよ。」


蓮は舌打ちをした。

「……やっぱり、そうですか。」


「さて、どう動くか——だな。」

桐生は腕を組みながら、ゆっくりと考え込んだ。


蓮は携帯を握りしめながら、ゆっくりと息を吐いた。


涼介とは、色々あった。

涼介の力のせいで、気づけば距離を置いていた。

あの頃の自分は、涼介を責めることで何とか保とうとしていたのかもしれない。


だが——


(けどさ、茉利の権力や力にも、涼介の魅了の力にも……”力”で思い通りに動かされるのは好きじゃないんだよ。)


茉利は涼介を手に入れようとして、強引に業界ごと支配しようとしている。


その手始めに、ホストクラブへ圧力をかけ始めた。

「邪魔者」を排除するつもりなのは明白だった。


蓮は舌打ちする。

自分の店に手を出されて、黙っているほど大人しくはない。


だが、相手は仁村財閥の令嬢だ。

対抗するには……どうしたって”あいつ”の協力が必要になる。


(……本当にまたあいつと関わっていいのか?)

携帯に手をかけ、思わず手が止まる。


涼介とは一度、距離を取った。

もう二度と関わるまいとさえ思ったこともある。

だが——


蓮は短く息を吐き、決意を固めるように携帯を開いた。

迷いを振り払うように、画面を見つめながら、涼介へメッセージを打ち込む。


「——さて、どう出るか。」


画面を見つめながら、蓮の口元に薄く笑みが浮かんだ。


『茉利が本気で動き始めたぞ。お前の太客だろ。いい加減、何とかしろよ。』


しばらくの沈黙。


蓮は画面を見つめながら、軽く息をついた。


数分後——


『わかった。そっちに行く。』


短い返事が返ってくる。


蓮はそれを見て、ふっと笑った。

「……あいつ、来るそうです。」


「そうか。」

桐生は腕を組み、目を細める。

「なら、しばらくぶりの顔合わせだな。」


蓮は携帯を閉じ、テーブルの上に投げ出す。


——とりあえず、まずは顔を合わせる。


それだけで、少し気が楽になる気がした。

何をすべきかは、これから考えればいい。


茉利の影響力を完全に断ち切るためには、単に彼女の作ったホストクラブを潰すだけでは不十分だった。


むしろ、彼女がホストクラブという「場」を手段として使っている以上、業界全体から排除する必要があった。


桐生、蓮、そして涼介は、それぞれの立場から対策を講じることにした。



⭐︎⭐︎⭐︎



桐生は、昔から業界の動向を読むのが上手かった。


それは経営者としての経験だけではなく、裏社会との付き合いや、金の流れの見極めによるものだった。


茉利が資金を投じたホストクラブのいくつかは、すでに彼女の影響下にあり、そこでは「客」としてではなく、「支配者」としての彼女が君臨していた。


ホストたちは彼女の意向に従い、彼女の求める人間関係を演じる。

オーナーや店長でさえ、茉利の機嫌を損ねれば、簡単に見限られるようになっていた。


そして何より問題だったのは、その金の流れに気づかず、あるいは目をつぶり、彼女の資金を頼る店が増えてきていることだった。


桐生はまず、その構造を崩すことから始めた。


「茉利の金で潤ってる店は、いずれ全て彼女の道具にされるぞ。」


桐生は業界の有力者たちに直接会い、情報を共有した。


「茉利の金を受け入れた店は、いずれ彼女の所有物のように扱われる。」

「ホストたちは茉利の意向に縛られ、自由に動けなくなる。」

「経営者たちですら、彼女の機嫌一つで切り捨てられる。」


彼が動いたのは、単なる噂話を広めるためではない。


実際に茉利の関与した店舗のデータを集め、客単価の変化や経営者の意向が無視される実例を示した。


「短期的には儲かるかもしれないが、長期的には確実に首を絞められる。」


桐生の話に耳を傾ける者は多かった。


ホスト業界は派手に見えるが、金の流れにシビアな世界だ。

誰もが資金援助を歓迎するわけではなく、むしろ「余計な口出しをされたくない」と考える経営者も多い。


特に、彼らが最も恐れるのは——「自分の店を自分でコントロールできなくなること」だった。


更に、桐生は、茉利の資金に頼らずとも経営が成り立つ仕組みを作るため、いくつかの投資家やスポンサーを動かした。


「金がなければ、茉利の元へ行かざるを得ない。だが、選択肢があれば、わざわざあの女の軍門に下る必要はない。」


業界内の信頼できる投資家や、ホストクラブを支援する企業と話をつけ、健全な資金の流れを確保する。


また、茉利の影響を受けていない店同士の横の繋がりを強化し、互いに支え合える体制を作った。


また、茉利の資金を受けた店のオーナーには、直接接触した。


「お前の店、何年持つ?」


桐生は淡々と言う。


「今は金があるからいいかもしれねぇが、客層が固定されたら、新規は入らなくなる。経営者として、それでいいのか?」


彼が見せたのは、過去に同じように一部の富裕層に依存しすぎたホストクラブの経営破綻のデータだった。


「最初は金を落としてくれる。だが、その女の金がなければ店が回らなくなったら、どうする?」


店の将来を考えていた経営者ほど、桐生の言葉に納得せざるを得なかった。


「……アンタの言う通りかもしれねぇな。」


そうして、徐々に茉利の資金から手を引く店が出始めた。


——茉利の影響を排除するには、彼女の資金源そのものを断つ必要がある。


桐生は、茉利の影響力を、じわじわと崩していった。

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