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執着の果て編4(変化)

茉利の手は留まることを知らなかった。


ある日、工場の電話が鳴る。


「申し訳ありませんが、先日の契約はなかったことに……」

「えっ……」


さらに数日後には、材料の仕入れ先から連絡が入る。

「すみませんが、今回の取引は見送らせていただきます。」

「……どういうことだ?」


立て続けに取引が打ち切られ、さらには金融機関から融資の条件が突然厳しくなるなど、不可解な動きが続いた。


「……これは偶然じゃないな。」

健斗が歯を食いしばる。


そして、涼介もまた、状況の変化を察知していた。

「……茉利の仕業だな。」


彼女がスポンサー企業を動かし、業界に影響を及ぼしているのは明らかだった。


だが、涼介は怯まなかった。

「なら、こっちもやるしかないな。」


涼介は、ネット配信の強みを逆に利用することを決めた。


「テレビならスポンサーの意向で番組が潰されるかもしれない。でも、俺たちはネットだ。ここなら、視聴者の声が直接届く。」


彼はすぐにスタッフを集め、新たな企画を立案した。


「次の特集は『日本の職人技を世界へ』だ。」

「えっ、それって……!」

「そうだ。今回の件で注目が集まっている今こそ、もっと大きな動きを仕掛けるチャンスだ。全国の職人技を巡るシリーズを企画する。」


涼介はスタッフとこまめに連携を取り、撮影スケジュールや取材対象の工場を綿密に選定。視聴者の期待に応えながら、さらに影響力を広げる計画を立てた。


「スポンサーに頼らなくても、視聴者が支持してくれれば番組は続けられる。広告収入もあるし、クラウドファンディングを活用するのもアリだ。」


涼介のこの発言に、スタッフたちは大きく頷いた。


「面白い……!それなら、俺たちにもできる!」


「視聴者参加型の企画も入れたら、もっと話題になるんじゃ?」

「よし、それも組み込もう。」


涼介はプロデューサーとも連携を取り、ネットならではの企画を次々と組み立てていく。



⭐︎⭐︎⭐︎


ネット配信という場を活かし、スポンサーに頼らず視聴者と直接つながることで、番組を軌道に乗せていく。


その中で彼は、ただのタレントではなく、自ら企画を立案し、スタッフと綿密に連携しながら制作に関わるようになった。


だが、それは決して簡単な道のりではなかった。


もともと、事務所の男性スタッフの多くは涼介に対して微妙な距離を取っていた。


彼の才能を認めつつも、その気まぐれな振る舞いや、周囲を振り回すような態度に嫌悪感を抱いていた者も少なくない。


一方で、女性スタッフの中には涼介に過剰に執着し、彼の意志や状況などお構いなしに行動する者もいた。


彼にとって、周囲は味方であるようでいて、どこか違和感のある存在だった。


だが、それらは「彼の魅了の力」による所が大きかった。


涼介自身に自覚はなかったが、彼には無意識のうちに人を惹きつけ、感情を歪める「力」があった。男性は無意識のうちに距離を置き、女性は必要以上に執着する。


しかし——


「……お前、本気でやるつもりなのか?」


ある日、かつて涼介に冷たい態度を取っていた男性スタッフの一人が、ため息交じりに声をかけてきた。


「当たり前だろ。俺が動かなかったら、誰が守るんだよ。」

「……お前、昔はこんなこと言う奴じゃなかったよな。」

「かもな。でも、今の俺はこういう奴だ。」

涼介は、真っ直ぐに彼を見つめた。


その目を見た瞬間、スタッフは思わず苦笑する。


「……ったく、しょうがねぇな。まあ、乗りかかった船だ。手伝ってやるよ。」

「お前が潰れたら、それこそ俺らの仕事もなくなるしな。」


別のスタッフも、ぼそりと呟いた。


その瞬間、彼ら自身も気づかぬまま、少しずつ「力」の影響から解放され始めていた。


女性スタッフたちの間にも、変化が生まれていた。


今まで涼介に対して一方的に執着していた者たちが、彼の必死な姿を目にするうちに、その考えを変え始めていた。


「……こんな顔、見たことなかった。」

「なんか、前よりカッコいいかも……?」


そんな些細な気づきが、彼女たちの行動を変えていく。


「ねぇ、私たちも何か手伝えることない?」


涼介にそう声をかけたのは、以前なら彼のためというより“自分のため”に動いていた女性スタッフだった。


「……本当にいいのか?」

「バカにしないでよ。私たちだって、仕事はできるんだから。」


涼介はしばらく彼女を見つめ——やがて、軽く微笑んだ。


「……じゃあ、頼む。」


涼介が変わることで、「彼の力」に影響を受けていた人々もまた変わり始めていた。


嫌悪や忌避、あるいは執着——それらは、彼の無自覚な「魅了の力」によって生じた歪みだった。


だが、彼が必死に誰かを守ろうとし、まっすぐに行動することで、その影響は少しずつ薄れていく。


彼を嫌悪していた者は、彼の姿勢に心を動かされ、共に戦う仲間へと変わっていった。


彼に執着していた者は、彼の意志を尊重し、自らも行動するようになった。


これは、涼介一人の戦いではない。


——そう、確かに変わり始めていたのだ。


︎⭐︎⭐︎



カメラが回り始める。


「さて、本日ご紹介するのは、地元に根付いた老舗の工場——こちらです。」


涼介が軽やかに紹介すると、ディレクターがカメラを向ける。画面には、長年使い込まれた機械と、それを扱う職人たちの姿が映る。


「ここでは、熟練の技術を生かした加工が行われています。一見するとシンプルな作業に見えるかもしれませんが——」


涼介は工場の一角に向かい、そこで作業している職人の手元を見つめた。


「この均一な仕上がりを出すには、精密な手の動きと長年の経験が必要なんです。」


工場長が頷きながら補足する。


「ええ。機械でやれば早いですが、人の手でしか出せない質感というのがあるんです。」


涼介は感心したように頷き、ふと、カメラの向こうを見つめる。


「今の時代、こうした職人技術がどんどん減っている。でも、ここには確かに生きた技がある。僕も実際に拝見して、ものづくりの奥深さを改めて感じました。」


撮影の合間、健斗が少し照れくさそうに近づいてきた。


「……なんか、思ったより本格的にやるんだな。」


「当たり前だろ。」涼介は微笑む。

「お前らが誇りを持ってやってることを、ちゃんと伝えたかっただけさ。」


健斗は短く鼻を鳴らすと、「ま、ありがとな」と言って、作業場に戻っていった。


番組の放送後、工場には予想以上の反響があった。

「こんな技術がまだ日本に残っていたなんて!」

「ぜひ、うちの会社でも扱いたい」

「素晴らしい職人技ですね、見学させてもらえませんか?」


SNSで拡散され、注文の問い合わせも急増した。

さらに業界関係者からの視察の申し出まで届くようになった。


注文の問い合わせが増え、業界関係者からの視察の申し出まで届くようになった。

健斗の工場には活気が戻りつつあった。


しかしーー茉利の執念はそれだけでは終わらなかった。

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