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ホスト編3(力の使い方)

その日から、涼介はホストとしての研修を受け始めた。

接客の基本から話し方、さらには酒の作り方まで、蓮が面倒を見ながら教えてくれる。


「最悪、お前は黙ってるだけでもいいんだ。どうせ客はお前に夢中になる。」

蓮は冗談めかして言うが、涼介はそんな言葉にあまり気が乗らなかった。


研修の中で、ホストとして働く上でのルールや制度についての説明も受けた。

「永久指名制度」をはじめ、 客同士のトラブルを避けるため、客は指名ホスト以外のホストとは個人的な連絡を取らないことなど、暗黙のルールも含めて細かく教え込まれる。


蓮は軽く肩をすくめながら、ふと呟くように言った。

「まあ、一人だけ例外がいるんだけどな……」


「例外?」

涼介が聞き返したが、蓮は「気にすんな」とだけ言って、詳しくは語らなかった。


また、給料の支払いについても説明があり、基本的に銀行振込での支給となるため、新たに銀行口座を開設するよう指示された。


涼介は、芸能界を辞めてから久しく持っていなかった口座を久々に作ることになり、当然ながら本名で開設することにした。


「別に俺は金を貯めるつもりもないんだけどな……」

そう思いながらも、今後の生活のため、仕方なく口座を作った。


ーーしかし、蓮の言葉通りだった。


彼の存在感はすぐに話題となった。

新人ホストにも関わらず、彼の周りには多くの客が集まり、目を輝かせていた。


「涼くん、すごく素敵!」

「初めて会ったけど、こんなにドキドキしたのは初めて!」


涼介の独特の雰囲気は、たちまち常連客たちの噂となり、彼が本入店する頃には「会ってみたい」という新規顧客の予約が殺到していた。


客たちの視線が集中する中、涼介は静かに微笑みを浮かべながらも、内心では違和感を覚えていた。


この世界に足を踏み入れたことが正しい選択だったのか、確信が持てなかったからだ。



⭐︎⭐︎⭐︎


涼介が初めて担当したある30代前半の女性客・沙織は、大手企業のキャリアウーマンだった。


初めて店を訪れた彼女は、偶然担当になった涼介の魅力に心を奪われ、それから毎週のように通い詰めるようになった。


「涼って、他の人とは違うわね。本当に私のことを分かってくれるみたい……」

そう話す沙織の目には、涼介への強い執着が見え隠れしていた。


しかし、沙織と同じく涼介を指名する女性客たちの間で、次第に火種が広がっていく。

「あの女、最近涼くんに入れ込みすぎじゃない?」

「私たちだって涼くんを応援してるのに、なんだか独占したがってるみたいでムカつく。」


涼介がいるテーブルでは、彼の存在が引き金となり、顧客同士のさりげない争いが繰り広げられるようになっていた。


また別の客、美月は30代半ばのキャリアウーマン。


大手広告代理店で働く彼女は、プロジェクトリーダーとして多忙な日々を送っていた。

完璧主義の性格と高い能力で社内からの信頼も厚いが、その影には大きな孤独を抱えていた。


仕事終わりに部下から誘われて訪れたホストクラブ。


美月は、初めての空間に少し戸惑いながらも、どこか興味を引かれるものを感じていた。


そして、その夜に偶然担当になったのが涼介だった。


「…ずいぶん若いのね。」

開口一番、美月は冷静な口調で涼介に話しかけた。ホストクラブ特有の軽い雰囲気に馴染めないのか、少し距離を取るような態度だった。


「涼です。名前、聞いてもいいかな?」

涼介の柔らかい声と丁寧な態度に、美月は少し表情を緩めた。

「美月…ただの普通の会社員よ。」


「普通の会社員」――その言葉にはどこか諦めの色が滲んでいた。それを聞いた涼介は、彼女が「普通ではない」何かを抱えていると直感する。


美月は涼介との会話の中で、自分が抱える葛藤を少しずつ語り始めた。


「仕事ばかりしてきたの。恋愛なんて、まともにしたことないわ。気づいたら部下に『鉄の女』なんて呼ばれてた。」


「鉄の女…強そうでカッコいいですけど、それが美月さんの本音じゃないんだね。」

涼介のさりげない言葉に、美月は驚いたような表情を見せた。誰かにそんな風に核心を突かれるのは初めてだった。


「…仕事が楽しいと思いたかったのよ。でも本当は、全部逃げだったのかも。」


涼介は彼女の話をただ静かに聞き続けた。


それはまるで、彼女自身も気づいていなかった心の奥底にある本音を引き出しているかのようだった。



⭐︎⭐︎⭐︎


美月はその後も何度か涼介に会いに来るようになった。

最初は彼を試すような態度だったが、次第に彼との会話が心の拠り所になっていく。

彼女は仕事への情熱と自分自身の孤独を見つめ直し始めた。


「涼君、私、こんなに素直に話せる相手がいるなんて思わなかった。」

「それは美月が、自分自身を受け入れる準備ができたからじゃないかな。」


涼介の言葉は、美月の心にそっと寄り添うようだった。


ある日、美月は涼介にこう告げた。

「この前、上司に思い切って言ったの。『私はロボットじゃありません』って。」


それは、いつも全てを完璧にこなそうとしてきた彼女にとって大きな一歩だった。


上司は最初驚いた様子だったが、彼女の本音を聞いて理解を示してくれたという。


「自分を抑え込まないで、本音を出すのって意外と難しいけど…涼君のおかげで少しできるようになった気がする。」


美月の言葉に、涼介はどこか喜びと新たな悩みが入り混じった複雑な感情を抱いた。


彼の力がただ「人を壊す」だけでない影響もあるのではないかと期待を持ち始めた。

しかし、一方でその影響が相手の人生にどのように作用するかまではコントロールできないという事実にもまた、気づき始めていた。


そうして、ホストとなってから数ヶ月が過ぎたが、大きな問題は起きていなかった。


ーーこの時はまだ。

ホスト業界は本やネットでしか見た事ないので、全然違ってるよと思われた方はそっと見逃してください。

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